第17話 ドライアド地区騒乱 前編
「え? な、なにイズルいきなりどうしたの?」
「あ、いやなんでもない。ごめん」
いきなり噴き出した俺に驚いたソフィーがびっくりした様子で聞いてくるが、もちろん答えられるわけがない。
女性に黙って個人情報を覗いたとか、元の世界だったら下手したら一生後ろ指を指されて生きるはめになる可能性すらあるからな。この世界のルールやアールヴァニアの法律は分からないが、少なくともろくな目には合わないだろうな。
ガチャッと音を立ててクレア達が戻ってきた。ユニーはサイズ的にはもう部屋に入れるのはぎりぎりだったが、宿の人の好意に甘えて部屋の中で休ませていた。
「ああ、おかえりクレアにユニー」
「ただいまなのですよー♪」
「クー!」
ソフィーの視線から逃げるように一人と一匹の頭を撫でてやる。
まだ何か言いたそうに「むぐぐ」と唸っていたが、それ以上追及してくることは無かった。
クレアとユニーの頭を撫でながら、こっそりと鑑定する。
仲間のことを知っておくのは悪くない、大事なことのはずだ……よな?
名前: クレア
種族: 猫人族
年齢: 八
職業: 宿屋の娘・防人の娘・イズルの従者
備考: 技能『気配察知』『ホーリーバインド』
名前: ユニー
種族: ユニコーン幼獣
年齢: 零
職業: イズルの従魔
備考: 技能『混合魔法』『グロウチェイン』
この世界では年齢は数え年ではなく満年齢で数えるらしい。
まあ、それは正直どうでもいい。
クレアもユニーも技能とやらを持っている。
俺にもソフィーにもなかったものだ。
現れた表示をさらに注視すると、その項目のさらに具体的な説明が表示された。
混合魔法: 異なる属性の魔力を掛け合わせ、新たなる魔法を生み出す
グロウチェイン: 魂の系譜に名を連ねる者と魔法能力を共有強化する
混合魔法はつまりあれだ。右手で氷魔法を起こし、左手で炎魔法を発動させ、それをスパークさせてすべてを消滅させる最強の攻撃魔法を……とまではいかないかもしれないが、炎の風を起こしたり光と炎を掛け合わせて閃熱魔法を使うとかそんな感じだろうか?
なんとも忘れかけていた厨二魂を揺さぶられる能力だ。
グロウチェインは要するに俺と主従契約を結んだ者どうしで魔力を共有し、本来持ちえなかったり苦手だったりする属性の魔法を使える能力だな。
このあいだ角うさぎの群れに襲われた時ユニーが火球を飛ばしていたのもこの技能(スキル)でクレアの得意とする火の属性を共有していたからだろう。
そして、当然共有と言うからにはクレアもユニーの得意とする属性を使えるようになっている。
ホーリーバインド: 魂の系譜に名を連ねる者から託された、聖なる魔力の繋がり
つまり、クレアも回復などの聖属性魔法を使えるようになったということだな。
クレア本人はまだ気が付いていないようだから、教えてあげて練習する必要はありそうだ。
ユニーがいきなり火魔法を使いこなせていたのはそもそもユニコーンが魔法が得意な種族で自分のスキルも本能的に理解できていたからだろうしな。
逆に言えば、鑑定していなかったらクレアが聖属性を使えるようになったということも分からなかったかもしれない。
俺の戦闘力は変わらないが、うまく情報を共有すればパーティとしての能力は大きく向上できそうだ。
こんな魔法やらスキルやらがあるということで改めてここが異世界なんだと認識した。もう疑う余地すらない。
しかし……なぜ俺は魔法が使えないんだ?魂の系譜やら主従関係やらというなら、俺にだってグロウチェインの効果で魔法が使えたっていいはずだ。ホーリーバインドとかファイアバインドとか、俺自身を鑑定した時には出てこなかった。
せっかく異世界に来たからにはやってみたいことナンバーワンは断トツで魔法だと思うんだけどな。
「イズルお兄ちゃん、なにひとりで頭かかえてぶつぶつ言っているのですかー?」
いつのまにか口に出してしまっていたようだ。
「なんだかちょっと怖かったわよ?」
「クー!」
ソフィーとユニーにまで言われてしまった。
まあ、考えていてもとりあえず仕方がないことだな。
その時、クレアが手に何か包みを持っていることに気が付いた。出ていくときには持っていなかったはずだ。
「クレア、何を持っているんだ?」
「えへへ、これ、イズルお兄ちゃんに買ってきたのですよー」
包みを受け取って開けると、この世界で作られた服が入っていた。よく旅人が着ているような……ドラ○エで三世代に渡って冒険をする主人公が着ていた服を、茶色ベースにしたようなデザインだ。
「これ、クレアが買ってきてくれたのか?」
「お金を出したのはソフィーお姉ちゃんなのですよー。でも、選んだのはクレアなのです!」
「イズル、今着ているその服しか持っていないでしょ? あまりにも目立つのよその服だと。みんなジロジロ見てくるからこっちまで恥ずかしくなっちゃうのよ。べ、別にイズルのためっていうわけじゃないんだからね?」
渡された旅人の服とマントを身に着けてみる。
「おお♪ イズルお兄ちゃん冒険者っぽい感じになったのですよー。かっこいいのです!」
「うん、まあまあね。馬子にも衣裳っていうところかしら? これでわたしまで変な目で見られないで済むわね」
クレアは素直に、ソフィーは腕を組んで少し偉そうにだが、褒めてくれた。偉そうにというよりは、ツンなのか?
「クー!」
ユニーも気に入ってくれたのか、犬みたいに体を擦り付けてきた。匂い付け……じゃないよな?
とりあえず、頭をなでてやる。
「みんなありがとな」
「どういたしましてなのですよー」
「これで、オルタフォレストで助けてもらった借りはチャラだからね?」
「クー」
その後、出発の準備をしているときにふとさっきの疑問が頭に浮かんだのでみんなに聞いてみた。
「なあ、俺にもなにか魔法って使えないのかな?」
「うーん、使えない方が珍しいし、使えると思うんだけど……。イズルがいた世界には魔法がなかったのよね?だから体や魂が魔力の使い方をまだ知らないだけなのかもしれないわね。何かきっかけがあれば使えるようになるんじゃないのかしら?」
「きっかけね……」
「あの、何か外が騒がしくないですか?」
クレアに言われて気が付いたが、確かに宿の外が騒がしくなっている。
様子を見ようと扉を開けたところ
「ゴブリンライダーの大群が襲ってきたぞー!」
……どうやら、今日も出発は出来なそうだ。
日ノ出ズル異世界転生 クレール・クール @claircoeur
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