第18話 『悩み事相談』 その5

 ぼくは、幽霊さんによって、この未来の空間に漂うこととなりました。


 すこしだけ、ピンボケしているので、通常の方の目には見えないのですが。


 まあ、早く片付けて、ご主人様のところに戻らないと、まずいだろう。


 あっちの仕事が、本来のもので、ここは緊急アルバイトなのですから。


 でも、空間や時間を自由に移動できる能力というのは、魅力的です。


 

 ですが、ぼくのやり方から言って、まず、ターゲットの部長さんの行動をつぶさに調べます。


 そう、即席ラーメンのような仕事はしたくない。


 困った事には、依頼主の幽霊さんが、いつもくっ付いてくるのです。


 非常にやりにくい。


 ぎちゃぎちゃと、横やりを入れてくるのが、また、面倒なのです。


 「さっさと、やっちゃいましょう。ほら、空中バスに乗ります。バスごと、ビルの壁に突っ込みましょう。」


 「あなた、それじゃあ、巻き添えが大勢出ます。」


 「この際、しかたない。呪いです。よくある事です。ツタンクアメンの呪いもそうでした。」


 「あれは、マスコミがらみのフェイク・ニュースですよ。」


 「それは、人間側の勝手な解釈です。今の時代では、むしろ、そう言われています。そうなるように、もともと仕組まれていたのです。」


 「はあ。。。。? この、未来は、退歩した未来なのかしら?」


 「いいえ。裏の裏を読む時代なのです。すべての、おもてなしは、裏ばかりという事です。」


 「あなたの性格が、そうなのではないの?」


 「ぶ! さあ、早くやっちゃいましょう。名高い『呪いの時計』さんともあろうかたが、躊躇してはなりませぬ。」


 「ぼくは、慌てないの。呪いの実行は、美しい位に完璧でなければ。」


 「はあ・・・・まあ、おまかせいたしますけれども・・・」


 まったく、やっかいな、依頼主です。


 

   ********   ********


 とはいえ、ぼくとて、さっさとかたずけたいのは、先ほども申し上げた通りです。


 部長さんは、とある、巨大なマンションの、屋上バス停で降りました。


 こりゃあ、ものすごい規模です。


 未来の人間は、こんな、『人間の巣』みたいなところに、多く済んでいるらしい。


 そういえば、ご主人さまのような、一戸建てのお家というのが、ここには、まったくないのです。


 「ここは、この都市のサラリーマンの、ほぼすべてが住む、居住ビルです。経営者や、議員とかになると、丘の上の個別高級住宅地に移ります。彼も、もうすぐそちらに移るはずでした。・・・でも、その前に、さああ、滅びるが良い! きゃっははははははははははは!」


 「きょわ~~~~!!」


 こういう幽霊さんとは、早く決別すべきです。


 部長さんは、屋上にある入り口の、厳重なセキュリティ・ロックを通過し、エレベーターに向かいました。


 「あれは、重力制御エレベーターです。昔みたいに、紐とかで吊ってはいません。」


 「昔も、紐じゃあないですがね。あの制御装置を壊します。」


 「え? いやに、簡単に・・・・」


 「機械なんて、元は簡単です。エレベーターの制御室を見つけました。ロボットさんが監視してます。ぼくには、見える。ぼくのような、精緻な時計さんから見れば、ちゃちなものですな。未来なんて、こんなものか。誤操作させます。よいしょ。はい、落ちます。」


 部長さんの乗ったエレベーターは、自由落下しました。


 籠の作りは、とても、ちゃちでした。


 部長さんは、ぐちゃぐちゃです。


 幽霊さんが、その周りで、飛びあがって喜んでると思ったら、なんだか、やたら泣いています。


 まあ、簡単、簡単!


 未来なんて、見た目倒しだな。


 ご主人さんところには、こうした機械装置がないのです。


 階段です。


 古いという事は、意外に、単純で強い、という場合があります。


 おまけに、ご主人様は、うつぎみで、お外には滅多に出ないときていますし、このようには、ぼくは自由には動けないでいたし。


 しかし、ご主人様は、大きな病院にはゆきます。


 お外や大きな建物は、危険だらけという事なのです。


 次からは、違います!


 もらうもの貰って、帰ろう!



 ひっひひひひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひぃ!




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『呪いの時計さん』 第1部 やましん(テンパー) @yamashin-2

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