世界、不在通知
鯰屋
AM10:22
AM10:22
目覚まし時計が、私を叩き起こすという職務を放棄した頃──ようやく私の目は覚めた。
窓には霜が降り、反射した日光が網膜を突く。十月もいよいよ終わり、今年も残すところあと数か月だ。忌々しいあの、えーっとクリスマス? さえ乗り越えれば寝正月がやってくるのだ。
ふと目をやった時計の短針は十の字を指しており、既に一限は始まっている。「昨日の夜、呑み過ぎた」と、寝癖だらけの頭を掻きむしった。こうなってしまえば遅刻もクソもない。一限は
同級生たちが机に向かって一心不乱に勉学に励む中、掛け布団という無敵の鎧を身に纏った私は、得もいえぬ背徳感と無敵感に酔いしれていた。
本来あるべき場所へ、後頭部を枕へと返却し、私は再び夢の中へと落ちていった。
PM13:53
再び目が覚めた。
ああ、もう少し寝れると思っていたのだが、幸せな時間というのはあっという間だ。こうやって朽ち果てるのも意外と悪くない。
私はふらふらと寝床から立ち上がり、寝起きの口のむにゃむにゃと戦いながら洗面所へと歩いた。足の裏に広がる冷たいフローリングの感触が「振り向けば布団がありまっせ」と、私のやる気を削いでいった。
洗面所で適当に顔を洗い、それなりに寝癖を撫でつけ、歯を磨いた。卓袱台の上に転がっていた、いつ買ったか分からない烏龍茶を喉に流し込む。
何となくインターネットニュースを覗くと──政治家の汚職やら、どっかの誰かが轢き逃げられただとか、芸能人の浮気やら、「朝一番に目にするニュースにしては、話題にフレッシュさがないものだ⋯⋯」と、剃り忘れた髭を触って気付いた。今は真っ昼間だった。
そんな寝ぼけた頭を抱え、リュックにノートパソコンと筆記用具、財布とキーケースを突っ込んだ──おおっと危ない、こうやって家を出る前にキーケースをリュックに突っ込むから鍵をかけ忘れるのだ。
スニーカーの踵を潰して履き、玄関扉に鍵をかけて家を出る。カンカンとうるさい階段を降り、お喋り好きのマダムがいないことを確認。ううむ、マダム見当たらず。オールグリーン。
こんな時間にマダムに出会おうものなら、二時間は悠々と消し飛ばされるに違いない。私は、ジェームズ・ボンドさながらのステップで住宅街を抜け、大通りへと出た。昼と言えどからっ風は冷たく、二日酔い気味の頭をダイレクトに叩かれた。
建ち並ぶラーメン屋の看板がすっからかんの胃を誘ってやまないが、ここは固く我慢。所持金はそう多くないのだ、贅沢はできない。昼食時に賑わう大学構内の学食で朝食を済ませれば良かろう──そんな思考にぼけーっと浸っているところで、私はとある異変に気付いた。
目に映る限り全ての車がその場に止まっているのだ。それに加え、見慣れたラーメン屋の行列も見当たらない。からっ風の唸りだけが木霊し、人っ子一人いないラーメン屋ののれんを揺らす。
いや確かに、この界隈は人通りが多いわけではない。しかし、この光景はやはり異常だった。「何事だろう⋯⋯」ラーメン屋ののれんをくぐり、店内を覗いてみた。流行歌のヘビーローテーション、立ち昇る湯気、大鍋の中では二玉ほど平打ち麺が躍っている。
しかし、それを茹でる親父さんもラーメンの到着を待つ客の姿もない。奇怪なことに、カウンターには伏せられた週刊誌や食べかけの炒飯がそのまま残っていた。まだ暖かい。
「うわっ」
ピピピとけたたましいアラームが鳴った。麺が茹で上がったようだ。「どうしたものか⋯⋯」私は周囲を見回す。もちろん誰かがアラームを止めることはなく、ただただピピピと響く。
状況は未だ飲み込めないままだったが、私は冷静だった。アラームを止め、柄付きの平ザルを手に取り、何時ぞやの見よう見まねで湯切りをした。鍋のそばに置かれた丼に完成された醬油スープが揺れている。ひとまずはそこに茹で上がった麺を収めた。
予め切られているチャーシューをいくつか盛り付け──メンマ、のりを三枚、味付きゆで卵をカットし、背脂を回しかける。
「おまちどおさん」
何となくそんな言葉を添え、カウンターへ完成した丼を置いた。
PM14:40
なにゆえ私は、人っ子一人いないラーメン屋で尾道ラーメンを完成させた末に自らそれをすすっているのか。そんなこと思いながら残ったスープに卓上のコショウを振りかけて、アルコールと戦う肝臓を温める。
それからしばらく思考し──炒飯に調理される前の白米にバターを混ぜ込み、ほぐしたチャーシューを混ぜ込みつつ醤油を一回しかけて頂くというアレンジメニューを開発したところで、私は一つの結論に行き着いた。
何かしらの私の想像もつかないような現象が起きている──即ち、何かが引き金となって私以外の人類が消え去ったということだ。幸いにも、ライトノベルを普段から読みふけっていた私にとって、現在の状況は受け入れがたいものではなかった。
というか、かなり私は楽天的だった。レポート出さなくて済んだぜラッキー程度にこの状況を解していたのだ。
まずは情報収集だろう、と出前用の自転車を拝借し、大学に向けてペダルをこいだ。冷たい空気の中、堂々たる文字通りの路上駐車群をあみだくじのように通り抜け、信号が何色であろうとお構いなしに、遠くに見えるビルディングへと急いだ。
そして案の定──いつも正門の前で気怠そうにしている警備員はおろか、敷地内には誰もいなかった。誰もいないなら構いはしない。駐輪場を通り過ぎ、立ちこぎでA棟へ自転車に乗ったまま突撃した。
本当に誰もいない。ペダルをこぎ、錆びかけのチェーンがシャキシャキと擦れる音だけが長い廊下に木霊した。「わっ」と大声を出してみると、驚くほど反響した。人間が密集することで普段は吸収されている音も良く聞こえる。
そのまま廊下を走り続け、エレベーターの前に自転車を転がし、最上階のボタンを押した。エレベーターを降り、立ち入り禁止のコーンを飛び越えて階段を駆け上がった。A棟屋上の扉を「右斜め上に持ち上げつつ押し込むと開く」というのは有名な話だ。
やはり屋上のからっ風というのはなかなか骨身にしみた。しかし、そんなことを感じさせないほどに──何にも遮られない空は青く、時折流れてくる白い雲が絶妙だった。真っ昼間だというのにカラスが鳴いている。
煮え切らない思いをくすぶらせていた中学の頃──「自分以外、みんないなくなってしまえ」といったい何度祈ったことだろう。
せいぜい三十人くらいだろうという狭い狭いコミュニティの中で馬鹿騒ぎし、明るく話題を合わせていれば人気者になれた世界なんて壊れてしまえと何度思ったことだろう。
そんな後先の見えない連中が、目の前に撒かれた青春という撒き餌にかじりついている間に、沸々と欝々と積み重ねた努力にようやく鮮やかな花が咲いたのだった。神はいた。私の言葉を確かに受け取っていてくれたのだ。
これから訪れるであろうスペクタクルを思うと、病熱に侵されたかの如きめまいに頬が緩んだ。
私は、心から高揚していた。咎める者も後ろ指をさしてくる者もいないこの街で、いや世界で──
いったい何をしようか。
PM18:37
ラーメン屋にて原付バイクを調達し、ついでに作ったバターチャーシューおにぎりと共に、私は都心へ向けて移動を開始していた。様々な娯楽や一生泊まることのできないであろう最高級ホテルのスイートルーム、一度着てみたかったが手を出せずにいたブランド物のコートなどを全て手中に収めるためだ。
刀剣なんかを携帯するのも悪くない──なんて考えているうちに、思いつく限りの物資の調達が完了し、私はホテルのロビーにいた。今夜はバルコニーで神戸牛を焼いて、夜景を楽しみつつ塩でいただこう。
信号は規則正しく点灯しているというのに、一台も車が動かないというのは中々に壮観だった。誰もいないのに何度も化粧品の宣伝を繰り返す電光掲示板。眼下に広がる非日常に、私は興奮を抑えきれなかった。
そうだ、日が沈む様を見届けながらゆったりと風呂に浸かり、読書でもしよう。私は、リュックに詰め込んできた長編小説上下を小脇に抱え、屋上のジェットバスへと急いだ。どうせ誰にも見られることはない──と、全裸にバスローブで出てきた私が馬鹿だった。今は十月、ああ寒い。
どぼんと肩まで浸かり、前髪をかき上げた。既に辺り一帯は藍色の夕闇に没し、ぽつぽつと星が見えてきた。ビルの壁に赤く光る航空障害灯が蛍のようで、普段は絶対に近づくまいと軽蔑していた都会もこうして人がいなくなれば、それはそれは幻想的だった。
失って初めて気づく美しさ。人間によって築き上げられてきた文明の美しさが、造物主と傲り高ぶっていた人間が消えることで完成するというのは、何とも皮肉だ。皮肉で思い出した。神戸牛を焼くんだった。
AM04:21
肉の味も大して分からぬ男が、散々と延々と最上級の肉を喰らい、安酒に舌を占領されていた男が、よく分からんままにヴィンテージブランデーを呑み、最上級のベッドで迎える朝は寒かった。
少し暑いくらいに暖房を調節したはずなのだが、どうもおかしい。暖房にタイマーでもかけたかしらと、携帯の明かりを頼りに枕元のリモコンをいじってみるが、うんともすんとも言わない。
ブランデーを流し込み、意識を覚醒させる。特に何の考えも無しに、ただ何となく、いつもの癖でテレビのリモコンを手に取った。しかし、いくら待ってもテレビは点いてくれそうもない。リモコンに電池は入っている。
おやおや、これはどうしたものか──ふと、窓の外へ視線を向けた。まだ暗い。十月なのだからそれはそうだ。しかし、窓は鏡のように私の間抜け面を映していた。
私は、大慌てで窓へと駆け寄った。顔を押しつけて確認した外の様子は真っ暗。十月の早朝、まだ街灯は点いていて然るべき時間だ。
しかし、眼にやかましい電光掲示板はおろか、街灯の一つも見当たらない。まるで、この部屋ごと太平洋の底に沈められたような感覚に襲われた。一寸どころか、ほんの数ミリメートル先も見えない。
暗闇から得体の知れない化物がこちらを伺っている様だった。幼い頃に見た怪獣映画の怪物は、何故だか皆一様に目が光っていた。幼き頃はそれが一等怖かったのだろうが、今は違う。むしろ光ってくれ。
タコの足が部屋の周りを徘徊し、床の下からからは無数に手が伸びてきそうだ。遠くから何かが近づいてくる。ビルの間を吹き抜ける風が、何者かのうめき声に聞こえた。ゆっくりと後ずさりする踵に何かが触れた。
ぬちゃり。
生物ではないその温度に私は飛び上がった。震える手でポケットに手を伸ばし、携帯を探る。背後の窓ガラスに誰かが張り付いている様な気がする。振り向かない、振り向けない。荒くなった動悸をなだめつつ携帯の電源を入れ、画面をゆっくりと物体の方へ向けた──なんだ、昨晩の神戸牛の残りだ。
私は窓ガラスに背を向けたまま、分不相応なブランド物の上着を着込み、布団の中へ潜った。
得体の知れぬ恐怖に支配され、冷え切った私の頭はいつもの数倍早く回転していた。昼間は考えようともしなかった、あるいは恐怖故に目を背けていたこの現象の──現状について考える気になったのだ。
そもそも、私だけがこうして取り残された理由は何だ? 私以外が異世界召喚されたとか。一概には否定できないが、あまりに非現実的だ。
私が下宿でのんびりと寝ている間にバイオハザード? いやいや、それなら道は死体だらけのはずだ。それに、昼間、悠々と八百屋の野菜をつついていたカラスの説明がつかない。野良猫も見かけた。
そして、最も不可解な場所にして、下宿を出てから一番最初に訪れた場所──ラーメン屋だ。あそこではタイマーがかけられ、平打ち面が茹でられていた。まるで、私が訪れる瞬間までそこに人がいたようだった。ますます分からない。原因も法則性も──なぜ、私が生きているのかさえも。
私は布団の中で携帯に指を走らせる。私が寝ていた時、昨日の夜中から翌日の朝までにいったい何があった? 何かしらの情報があるはずだ、と検索エンジンに文字を叩きこむが、まったくもって応答がない。「サーバーが応答しない」やら「通信エラー」と無機質な文字が並ぶだけだ。
インターネットに繋がらない。
この時、携帯電話が完全に私の体の一部と化していたことに気付いた。文字通り半身を切り取られたような気分だった。そして、半分を失った脳味噌に一つの思考がよぎった。
私以外の人間が全ていなくなったのなら、発電所や変電所は
ほんの少し考えれば分かったような話だろう。私は再び頭を掻きむしった。これから訪れるであろうスペクタクルを思うと、私は病熱に侵されたかの如きめまいに頬が引きつった。
もしこれが、この現状が神から与えられし祝福ならば──そんな神はいらん。無くなってしまえ。ああ、そういえば、今は神無月だったか。
AM6:00
それからの展開は非常に早かった。人間がいなくなった今、この街のヒエラルキーの頂点には野犬やカラスなどの動物たちが君臨している。足も速く、一方は空も飛べる。バイオハザードなんかよりもよっぽどタチが悪い。
このホテルを拠点にするとしても、私が居座っている最上階には水が届かない。停電は半永久的に続くだろうし、私のように貧弱な男が最上階までバケツリレー(一人)なんて無理に決まっている。
故に、私は拠点をロビーから二階までに移した。
野生動物やもしかしたらのウォーキングデッド対策として、出入口の全てに鍵をかけ、基本的には二階バルコニーから非常用縄梯子で出入りする。物資の搬入には地下駐車場のシャッター扉を用いよう。
流石は一流ホテルということもあって、非常用の毛布と飲料水はもちろん、長期保存のきく高カロリークッキーが山のように保管されていた。恐らく、馬鹿食いでもしない限りは、私一人なら半年は生き延びれそうな頼もしさがあった。
衣食住のうち、残すは衣類。クッキーと水と酒だけではやっていけないし、暖房だって必要だ。車での移動には燃料がいる。さあ、忙しくなってきた。携帯のメモ機能に文字を詰め込み、ソーラー式のモバイルバッテリーも必要だと気づく。
重たいシャッターを閉め、私は勇み足で原付バイクにまたがった。地下駐車場に駐車されていた軽トラックでの移動も考えたが、街のそこらじゅうでエンジンのかかったままバッテリー上がり秒読みの車たちが止まっている。そんな中を軽トラで走行できるほどのテクニックを、私は持ち合わせていない。
マフラーで口元を覆い、ゴーグルを装着。この際ノーヘルの方が格好いいだろうと──私はフルスロットルで駆けだした。しばらく走ってから手袋をすればよかったと後悔したのは秘密だ。
PM17:13
お湯を捨てるヤキソバ系は水がもったいないということで却下。ホームセンターのキャンプコーナーにてガソリンストーブを調達し、ついでに手斧とバール、水道用ホース(3m)を拝借した。
私が心の中で食材の宝庫だろうと最も期待を寄せていたデパ地下が地獄だった。電気が止まっているのだから当然の如く冷蔵庫も止まり、海産物のほぼすべてが腐っていたのである。
さらに、換気扇が動かないことによる悪臭の充満。そして何より最悪だったのが──食材を求めてやってきたゴキブリとネズミの楽園と化していたことだ。十円玉を投げると地面が大移動するほどだった。二度と近づくもんか。
デパート全体、この街全体がホイホイされるのも時間の問題なのでは──と、最悪の可能性が脳裏をよぎったのは言うまでもない。
発電機も必要だよなと思った頃には、縛り付けた荷物が原付バイクの限界を超えていた。ひとまずは拠点に帰ろう。なにゆえ、昨日まで大学をサボって惰眠を貪っていた人間が、マッドマックスに引けを取らないハードなサバイバルを強いられているのかは未だに謎だ。考えると頭が痛い。
重いシャッターをこじ開け、バールを立てて落下を止める。バイクに縛り付けた物資をロビーへと移し、私は再びバイクにまたがった。今度はガソリンである。
電気が止まっている今、ポンプの動かないガソリンスタンドは何の役にも立たない。何かあるとすれば、ガソリンのあれこれや車の修理方法が記されたマニュアルくらいだろう。しかし、用があったのはガソリンを
路上に停車し、今や完全に動かなくなった車たちの中には何が詰まっている? ──そう、ガソリンだ。給油口をバールでこじ開け、拝借してきたビニールホースを奥まで突っ込む。
もう片側に口をつけてゆっくりと吸い、ガソリンが上がってきたところで口を離して素早く容器の中へ。後はサイフォンの原理で勝手に溜まっていく。これを容器の数(あと六個)ほど繰り返す。
ふと曇った空を見る。見渡す限りの電線からカラスたちがこちらを見下ろしている。「みんながどこに行ったか⋯⋯知らんかね?」私は問いかけた。かあかあと喚くだけで教えてくれそうにない。
ぽつぽつと雨粒が顔に当たって弾けた。が、頬を伝っていった水分は雨水だけではない。
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あれから何年たっただろう。ゾンビが現れるわけでもなく、米軍が助けに来るわけでもなく、水や食料に困ることもなく──記憶が確かなら八回目の冬だ。
私は、ただ何となく思い立って東北へと向かっていた。途中、墜落した飛行機を何度も見かけた。都心部に落ちてこなかったのは奇跡といえるだろう。
積んできたガソリンが無くなっては路上の車の給油口をこじ開け、その度に唇と手が腫れた。まあ、誰に見られるわけでもないし、特に気にする理由もない。ただ、痛いだけだ。
私が何故ここまでしてバイクを走らせるのか、そこには確固たる目的があった。実家に置いてきたアコースティックギターを取りに行くためだ。
何年も同じ場所にいれば、娯楽だって尽きる。発電機にテレビとゲーム機を繋いで遊んだり、ゲームセンターからレースゲームをまるごと運び込んだりもしてみたが──ガソリンの消費が著しく、都心にあるゲームソフトのほとんどを遊びつくすのも時間の問題で、それは数日前にやってきた。
この際、一度諦めた夢を再び追いかけるのも良いだろうと大移動を決心したのだ。
私の実家は近所では一番大きな庭付きの平屋だ。見間違うはずもない。「大学に行く」と家を飛び出し、誇れる成績を勝ち取ることもできず──帰るに帰れなかった我が故郷。
ガラス戸には蔦が這い、ポストには苔が生えていた。やはり、誰もいないか⋯⋯。
せっかく戻ってきたのだ。久しく拝んでいない祖母に手を合わせようと、私は仏間へと上がった。
実家の仏壇に供えてあったのは、柔和な笑顔で祖父と肩を寄せ合う祖母の写真。そしてその隣には、枯れた花束とアコースティックギター。底抜けに明るい笑顔で映る私の写真だ。
なるほど。私以外がいなくなったのではなく、
気づけば、私は鉄塔の上にいた。
自分の意志で登ったのだろうか。まあ、何でもよかろう。私は両耳にイヤホンを押し込み、再生ボタンを押した。ずっとずっと大好きだった曲だ──いつもこいつに勇気をもらっていた。が、もう何も怖くはない。
私は大きく一歩を踏み出した。
AM10:22
世界、不在通知 鯰屋 @zem
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