ソラへ・・・
@BlueCosmos
第1話 変わる世界
今から100年ほど先の近未来
科学によって種としてより強く進歩した人間の新たな姿は、大きく2つに分かれていた。
遺伝子操作により、作者の理想を約束され製造される、デザインボディ。
その体へ脳を移し替え続け、永遠の生命を手に入れた、富める者達。
強き体による不死を願い、進んで機械化したサイボーグ。
死の恐怖から逃れることが出来ず、安価に不死が手に入るサイボーグになった者も居た。
外見にあまりの多様性がああり、肌の色による人種差別などはなくなっていた。
過去の人間からすれば、とても進歩した世界に見えるかもしれない。
しかし人間が人間である以上欲は消えず、富の支配への飽くなき野望はとどまることを知らない。
大金を生むには大金が必要であり、富めるものは富める者達で激しい競争に生きてるのだ。
下々の者へ公平に富を分配なんてしては、弱った自分が敵に刈り取られるだけなのだ。
いつの時代もこの構造は変わることなく、更に酷くなって、未来へと受け継がれた。
生身の体を取っ替え引っ替え命をつなげる富裕層たちは、自らは働くことなく、サイボーグに多大な労働をさせ、その富をひたすらに吸い上げた。
その富を集め、再分配する。
これは政府の仕事だ。
しかし政府を作る者は富める者達だ。
泥棒が作った規則に何の意味があろうか。
その泥棒共に力を持たせるのは民であるサイボーグなのだから、尚救いようがない。
国家の目に見える対立は、人心を惑わせる道具として大いに利用された。
人は機械化しようと心を持った人間だ、機械ではない。
扇動され、昂ぶり、感情に身を任せて政治を語った。
身体は鉄であろうと、心には温かい血が通っているのだ。
ここは日本。
100年前は少子高齢化に喘ぎ、出生率は結局上向くことはなく、多くの産業に於いて積極的な機械化が行われた。
移民の受け入れも行ったが、言葉の壁と差別から、結局溶け込ませることが出来ず、一時しのぎにはなったが、労働力不足の解決にはならなかった。
先進国というのは国家単位で貧者から搾取することによって成り立つ国体だ。
常に奴隷を欲しているのだ。
しかし国力の衰退は、国外の奴隷をこき使うための体力を、容赦なく奪っていった。
奴隷を求める矛先は、必然と国内に向けられる。
しかし人間は脆い。
疲れるし、簡単に死んでしまう。
少子高齢化で働ける人間は貴重だと言うのに、奴隷としてこき使っていては、自ずと限界が来る。
生活水準を坂道を転げるように落とし、衰退していくしか道はないのかと悩みあぐねていたこの国に、救世的技術が誕生した。
電脳化と義体化だ。
藁にもすがる思いで国家はこの技術に飛びついた。
ろくな実験もせず、疲れ知らずの労働者をただ欲したのだ。
それを進めた者は、当然被験者になる事はなく・・・
第1世代のサイボーグたちは、記憶の移植に失敗したり、四肢を動かせなかったり、体が勝手に動いたり、多くの失敗を重ねた
実験で死んだ者も居る
廃人となり廃棄された者も居る
しかし数多の失敗を経て、安定してサイボーグが供給されるようになった。
彼らの動きを学習させて同じ行動が出来るロボットも製造されていった。
これまで一日8時間しか働かせれなかった人間が、24時間働かせれるようになったのだ。
単純に三倍だ
割れたままの道路や、傾いた電柱、傷んだインフラは急速に修復されていった。
落ちぶれた先進国は息を吹き返したのだ。
しかしサイボーグ化が普及すると同時に、衰退していく産業もあった。
生きた人間のみが欲するもの、食や性にまつわるものだ。
普通の人間は労働力としての価値が無くなり、サイボーグ化せざるを得なかったのだ。
その結果生きた人間は、絶滅危惧種と言えるまでになった。
機械にならなくては生きていけないのだ。
そんな中生きた人間であるのは、元より裕福であった者だ。
電脳が作れる時代にあっては、生きた人間から生きた人間にデータを移植するなど容易いのだ。
しかし彼らとて競争に生きる人間、ただの人間のままサイボーグに負けては、自らの富を減らすだけだ。
富あるもののプライド、特権意識は、一日3回生身を交換するという力技で、サイボーグと対等に立てる道を選んだのだ。
当然だが尋常ではない金がかかる上に、肉体は老化する。
その肉体達を、若さを保つために定期的に交換もする。
これ程特権を行使できた人類は、過去を見渡しても居ないであろう。
そして、これ程浪費する生活を送っていながら、彼らにとってはこの程度、大した金ではないのだ。
休む必要のない労働者は3倍働いても報酬が3倍になったわけではなく、貰うべき報酬は虚しくも特権階級に吸い上げられていったのだ。
こうして格差は更に広がったのだ。
ソラへ・・・ @BlueCosmos
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