第31話:祖父の死去
1987年の夢子の目標は、調理師試験を合格する事であり、昨年の合格者が勉強に使った本を借りて毎晩、勉強をはじめた。工場の生産量も増えてきて3交代制でも人手が足らなくなったので、今年も、近くの中学と高校で20名とパート・アルバイトさんと40名を募集して採用した。店長と夢子が、製麺機械屋に、通い詰めて5ヶ月目の1987年3月に、納得がいく腰のある蕎麦ができた。
その後、その機械ををトラックで工場に持ち込んで4月から、へぎ蕎麦の製麺を開始する事になった。機械屋は、販売用の綺麗な製品を作り完成しだい、ミキサーと製麺機で8千万円で購入することにした。そして、その会社の「へぎ蕎麦セット」をビニールの袋つめする機械も月5万円で、リースした。この機械は200人分/1時間作れる性能で月に1回のメンテナンス作業もお願いした。そうして、駅近くの売店で「へぎ蕎麦セット」を売り出した。
最初は、5百個ずつ製造して試験的に販売したが、千個ずつになり、6月を越える頃には千個では足りない日が、出るようになり、夏場にも販売が減らなかった。4人前で1500円で販売して、トッピングに、天ぷら、唐揚げ、かき揚げなどの売上も上がって来た。
10月過ぎると、1500食、売れるようになり、店長が、製麺機の試験器も安く譲ってと頼むと、宣伝に全面的に協力してくれれば無料で提供するというので了解して、この製麺機の使用マニュアルをつくる手伝いをした。その後、製麺機も数台、注文があった様で、その会社の社長も喜んでくれた。「へぎ蕎麦セット」が12月の年末には、1日で2千食を超える注文があった。そうして1987年は「妻有の里」の利益総額、約15億円で終了した。
1988年となり、「妻有の里」の三波春夫先生のポスターで知名度も高まり、へぎ蕎麦の注文が1日あたり1600食を越えてきた。そして、かつて、売上の落ち込む、梅雨時と夏場、冬場にそれ程大きく落ち込まないようになってきた。今年は、16億円近くの利益が見込まれた。
夢子が。工場長で活躍していた1988年3月18日に義理の祖父、安田清の危篤の知らせが入り、急いで立川共済病院に駆けつけると、枕元に、義理の父、安田治と母の明美と夢子の子供達3人と安田達夫が来ていた。長女の峰子が、お爺ちゃん頑張ってと手を握った。うれしそうに峰子を見つめる祖父だったが、だんだん意識が遠のいて行くのがわかった。
30分位しただろうか、急に看護婦と医者がきて、脈をとり瞳孔をみて、ご臨終ですといった。母は、大きなショックを避けるために老人ホームにいたようだ。なんとも言えない雰囲気になり、廊下に出ると、次男の健二が、お爺ちゃん死んだのと言うので、長女の峰子が神様に召されて天国に行ったのよと言うと、両親が泣き出した。
峰子は優しくて賢い子だねと、両親が頭をなでてくれた。その後、自宅に戻り、達夫が葬儀社や親戚に手際よく電話をして、お通夜を3日後の土曜日、葬式を4日後の日曜日に立川市斎場で行う事にした。
お通夜の日は、寒い日で、本宅の床の間に遺体を安置して和室とリビングを開け広げて近所の親戚、友人など20名が参加した。故人の昔話をしていた。近くに住む叔母の安田駒子が、安田清、兄さんが結婚して子供ができなくて悩んでいたが、やっと男の子を授かったときは、大声を上げて泣いたのを初めて見たと言い、その後、息子の達夫さんが結婚して3人の孫が生まれたのを、いつも自慢げ、親戚の所に来ると話していたのがいじらしかったというと、回りからすすり泣く声が聞こえた。
安田家は、3人の孫がしっかりと引き継いで、繁栄させますから、安心して成仏して下さいと涙ながらに話した。 その時、伯父さんの安田幸雄が突然、以前、安田清さんから、遺言を預かったので、見て欲しいと達夫の両親と達夫に渡した。
その書類を隣の部屋で読むと、持っている株券と納屋においてある、焼き物、掛け軸、貴金属の場所が書いてあり、資産は十分にあるから、争いを起こぬ様にと書いてあり、本家を守っている安田治と明美に、半分、その息子、達夫一家に半分に分ける事と書いてあり、屋敷も半分に分けて、2家族で仲良く暮らして欲しいと書いてあった。
そして、最後に、未来をひ孫3人に託したいので、彼らに、十分な教育を施してやりなさいと書いてあった。この件については、両親と達夫夫婦で、納得して、その通りする事を確認した。
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