第7話 ミーちゃん、お仕事します。
『四十七番、待機』
『二番、決定』
『三十六番、保留』
ギルドが開いてからひっきりなしに、スピーカーから途切れることなく声が聞こえてくる。聞こえてくることを掲示板にチェックしていくだけなのだけど、こりゃ大変だ。まったく休む暇がないうえ、気が抜けない。間違えば誤った情報が掲示板に載り、ハンターさんや受付のお姉さんたちに迷惑を掛けてしまう。ひいては、せっかくの働き口を失いかねない。頑張らねば。
ミーちゃんの飼い主という手前、ニートはいかん。まあ最悪の状況になっても、ミーちゃんの猫缶とミネラルウォーターがあるから飢えることはないけどね。いやいや、そういう楽観的な考えが俺の悪いところだ。改めねば。
ちなみにお姉さんたちが言っている番号は依頼番号で、決定は誰かが依頼を受け決まったこと、保留は受付中のこと、待機は依頼を受けようとしたが条件が合わず受付待ちに戻ったことを意味する。
これが一時間近く続いているんだよね。たまにミーちゃんのミネラルウォーターを飲んで気力回復しているけど、本当にこのミネラルウォーター凄いのよ。疲れが一気に飛ぶし目が冴える。これが受験の時にあれば、合格していたかもなぁ。
おっといけない、いけない、集中せねば。
始まってから一時間半も過ぎる頃になると、聞こえてくる声が少なくなってきた。掲示板の依頼は七割近く決定にチェックが入り、残っているのは依頼料が安かったり、人手が足りていない工事現場などの日雇い労働などだ。
変わったところだと、話し相手募集や実験台募集なんてものもある。実験台って何の実験なのだろう? 依頼料はそんなに悪くはないような気がするけど、誰も受けないってことは危険な実験なのかな? 暇な時に受けてみようか……いや、やめとこう。お金も大事だけど、命や健康の方が大事だ。目指すはスローライフであって、波瀾万丈な生活じゃない。無理せずコツコツといきましょう。それが大事。
「ネロ君。お疲れ。いい動きだったわよ」
「ありがとうございます。正直、一杯一杯ですよ」
「あれだけできれば、優秀よ。受付は一段落ついたから休憩してきていいわ。それから、ミーちゃん預かっていくわね」
どうやら、ミーちゃんのお仕事が始まるらしい。ミーちゃん頑張ってね!
「み~!」
ミーちゃんもやる気十分のようだ。
折角なので、ハンターギルド敷地内を探索してみようと思う。外に出てぐるっと一周してみる。建物は石造りの四階建てで、建物の後ろに結構広い屋根のかかった訓練場がある。その訓練場では、ハンターらしき人たちが訓練をおこなっている光景が見られた。他にも厩舎や倉庫などの建物があった。ハンターギルドが思った以上に大きいのに驚いてしまう。
部屋に戻ろうとしたら、パミルさんに手招きされた。
「向こうの仕事は、今日はもういいわ。夕方に頼みたい仕事の適性検査をしましょう」
適性検査ですか? 連れて行かれた部屋の机の上に色々な物が載っている。
「まず、これから鑑定してみて」
黒っぽい石を渡されたので鑑定してみる。
「ゴブリンのエナジーコア、と出てます」
「じゃあ、これは?」
見た目は同じ物のように見えるけど、それよりコアってなんだ? いやいや、今は適性検査中、鑑定してから聞いてみよう。
「ゴブリンのエナジーコア、破損あり?」
「十分ね。思った以上に優秀ね」
パミルさんにエナジーコアについて聞くと説明してくれた。
コアはモンスターの第二の心臓と言われていて。体のどこかにあるらしく、これを破壊されるとモンスターは一巻の終わり、要するに弱点ということだ。コアはモンスターの討伐証明になっているし、大変利用価値があるという。
説明を聞くと、どうやらこのコアがこの世界を動かしていると言っても過言ではないようだ。このコアから生み出されるエネルギーがあらゆるものの動力源となっているようで、まったく気にしていなかったけど、部屋で使っていたランプでさえこのコアを使っているそうだ。
エナジーコアの買い取り、供給はハンターギルドが一元管理している。たとえ国でも手を出すことは許されない。人の生活に直結するので、権力を持つ者には管理させないルールとなっている。
なので、弱点とはいえ、破壊してしまうとお金にならなくなる。討伐証明としてだけなら壊れていても問題ないということだけど、壊れたコアだけでは生活が厳しくなるのは目に見えている。なかなかに厳しい世界だ。破損具合によって値段も変わってしまうそうだ。
「次にいくわね。はいこれ」
今度は何かの毛皮のようだ。
「ラピットの毛皮」
「じゃあ、これ」
これも見た目には同じに見えるんだけど……。
「ラピットの毛皮、品質良」
「やるじゃない。これなら問題ないわね。夕方からは、買い取りの手伝いをしてもらうわね」
夕方に戻って来たハンターさんたちが持ち込む素材を買い取るのに、鑑定を持たない人はリアルの見識眼で判断しなくてはならないので、時間が掛かってしまう。
少しでも混雑解消の為に鑑定スキル持ちの俺が見て、買い取りの係の人に伝えて値段を決めてもらうことになる。
俺が手伝ったくらいで大した役には立たないかも知れないけど、この世界の価値観を学ぶには持ってこいかも。頑張ろう。
一旦、帰る時間なのでミーちゃんを探すと、受付のお姉さんたちにモフられ中だった。
「ミーちゃん帰るよ」
「み~」
「「「えぇー!」」」
「帰っちゃやだ~」
「私の癒やしが……」
「ペロペロちゃん……」
お姉さんたちの残念がる姿をよそに、ミーちゃんは俺のもとに飛んできて顔をスリスリさせ、お仕事がんばったの~って表情。反面、お姉さんたちの目が怖いです……は、早く退散しましょう。
「それじゃあ、また夕方の四の鐘の前に来ます」
「よろしくね。ネロ君」
さあ、帰って朝ご飯を食べよう。久しぶりに朝なのにお腹がペコペコだよ。うちは両親の仲が悪かったので、高校に入ってからは朝にご飯なんて作ってくれたことがない。なので、朝食は滅多にとったことがない。それが普通になっていた。でも本当の普通というのは、今の状況が当たり前のことなのだろうな。あっちの世界がおかしかったんだよ。
今の俺にとっては、こっちの世界の方が正常に見える。向こうの世界に未練がないかと聞かれれば、あると答えるだろうけど、この世界に来たことは後悔はしていないと思う。
ミーちゃんが一緒だしね。
「み~」
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