すこやかなる君へ

    ねたらいいのにな


 生きる意味を知りたい。生きたことをこの世に残したい。そう思っていたことが、あった。

 でもこの世はけっこう適当なことをいう奴が多くて、生きることを美化しすぎている。


 何一つ不自由することもなく、生きてきたのに、ふと何かを思い出して足が止まるように、僕は人生を止めた。

 神様に問うたことがあった。「なぜ僕は生きるのですか」と。神様は答えてくれた。僕はその答えを聞き、理解しようとしたところで、頭を振った。「やっぱりいい。知っちゃダメだ。」と思ったのだ。その時の答えを、現在になって、僕は自分で導いてしまったのだった。

「この世では参加条件:命の所有を満たしたものはレースに参加しなければなりません。逃げる場合は、あなたに価値などありません。」命が欲しいわけでもなかったのに、命を与えられた。

 この世に生まれるか否かを選べない僕らは、なぜか強制参加のレースで“必死に”生きることを叫ばれる。それが得意な奴ならいい。さぞかし楽しいだろう。それが不得意な奴も、まだいい。最後の集団はいつだって「負けないで」と応援される。(その言葉は、暗にお前は負けそうだぞ、と言っているのだ。負けと勝ちを作ったのはアンタなのに。)レースに必死に食らいついて、調子が乗ることもあれば、うまくいかないこともある。そんな中庸の人たちはレースの上と下を作るための噛ませ犬だ。賑やかしともいえる。そいつらはいつだって苦しい。上に行こうものなら、身の丈に合わない才能人どもと張り合わなければならない。下に行けば、俺はこんなところでくすぶってていい人間じゃあねえとプライドを壊されないように必死だ。真ん中を維持しようとも、同じ実力をもった不特定多数の顔も人生もあれどどうでもいい奴らと命を懸けてバトルの日々だ。どこに楽園なんてあるのか。どこもかしこもレース場だ。

 頼んでもいないのに命を与えられた。

「この世にいるなら「何か」であれ。自分を見つけろ、頑張れ。死ぬんじゃないぞ、生きてたらいいことあるって。死ななくても選択肢はあったはずだ、苦しいのは努力が足りないからだ。死んじゃダメだ。言ってくれれば何かできたかもしれないのに。死んじゃうなんて身勝手だよ。周りの人のこと考えなかったの。私からは君が逃げているようにしか見えない、幼児退行しているんだよ。」

 僕が見たり聞いたりした、受け取った言葉だ。すべてゴミ箱に捨てたい。言葉は呪いだ。解くこともできない。この世で一番タチの悪い武器だ。しかも、人によっては武器の姿をしていない。盾だったり、貨幣だったり、時には薬の形をしているだろう。だから、言葉は取り締まることができない。言葉を取り締まれることがあるならば、それは命を人質にとった時だ。

 この少年はどうなるだろうか。命を自ら投げ捨てるだろうか。それとも、延命運動をやめ、ゆっくり終わっていくのを眺めるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一ページノベル 乃海茜音(なみ あかね) @oopnksuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ