二十円に泣かないように

   月光 3 

お金持ってなくてどうやってコインランドリー使ったんだ……?

お母さんに回す分だけもらってきてたから。

そう言うと、上着の胸ポケットに手を突っ込んでがさごそやっている。

あ、百円だけ余分に持ってた。じゃあ、はい。

ん?

これ、返すね。

ああ……。足りないけどな。二十円。

一回断られたうえで渡してきているんだし、受け取っておかないと面倒なことになりそうだ。

じゃあ、二十円分、待ってるよ。

え、学校で?

いや、それはいろいろまずい。もっと別に、例えばほら、その……。

たとえば?

また次の雨が……上がったら…、とか……。

……。フっ、またここで会うつもりなんだ。

さすがにちょっとキモいか?

うん。

うっ……、そうか、じゃあ…

いや、そうじゃなくて、さ。

ん?ちがうのか?


「次の雨上がりに」…か。ちょっと面白そうって思った私が一番キモい。絶対言えない。


…………その、いいや、違わないや、やっぱ先生ってキモい。

だよなあ、やっぱ私には高校生の感性が分からないんだろうな、参った。

うん、でも悪くはないよ。「キモ良い」、だね。

なんだそれ。学校では絶対言わないでくれよ。

言わないよ。言っても共感してもらえないから。

それって微妙に私への悪口になってないか?

そんなこと、…あるよ。

あるんだな……。もう恥ずかしくて先生ここ来れなさそう

え、それは駄目。

え、でもイヤじゃないのか?

だってさ、二十円分、まだ…渡してないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る