あたら男
安良巻祐介
あたら男は、大抵一人で企業の近くを歩いている。
それは一見、ごく普通な中年男性に見えるけれど、近寄ってよくよく見ると、その目鼻口はのっぺりとした起伏のない顔の上に何らかの不可思議な手段で絵として印刷されただけのもので、呼吸もしていない、つまり尋常の生き物ではないことがわかる。
かといって幽霊の類いかと言えばそうでもなく、肉体はしっかりと存在しており、手に触れればそれなりに温かい。
口が無く喋ることができないため、話を聞くことはできないけれども、調査の結果、人事異動の激しい会社や、離職者の多い会社の周辺に現れるらしいことが判明した。
企業の側からしてみればあまり気持ちのよいことではないので、除疫所に掛け合ってどうにかしてもらおうとしているらしいが、駆除にもそれなりのお布施がいるとあって、はっきりと決められないままずるずると放置してしまっているのが現状らしい。
その後、在野の研究チームがあたら男と接触し、成分や組成の解析などを地道に行って、結果を発表した。それによると、生き物でも幽霊でもないあたら男とは、物理的に観測できる走馬灯の一種だということであった。つまり、つまりだ。死に際に見る夢が物質化してうろついているのだ。なんということだ。研究チームは血走った目でそんなことを報告し終えた後、レジメを燃やして全員失踪してしまった。
結局、世間の者には何が何やらさっぱりで、増え続けるあたら男にたいして、実質的な解決策の目処はまだ立っていない。
あたら男 安良巻祐介 @aramaki88
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます