第10話 ホントはやっぱり
吉谷美百合のコンサルを受けてみていい勉強に、そしてい刺激になったと思うマサエであった。美百合の本意はさだかではないが、あれはあれで美百合なりの精いっぱいだったのだろう。
結局、「3日以内ならこの金額にしますよ」といわれた期間に申し込まなかった。コンサルテーションの翌日の午後、美百合からメールや着信があったがヒロシの言葉を思い出し、マサエはためらいながらもそれらを無視した。あの時美百合が見せた、一瞬の優しいまなざしを思い出すと胸が多少痛むのだが、もう関わり合いにならないほうがいい、マサエはそう決めていた。
実際、「起業コンサル」というものを受けるまでは初心者の自分が一体、何をできるのか、このままでいいのか不安だった。受けてみてわかったことは「この先、本当に困ったら誰かに頼ろう」ということだ。今はまだ、その時ではないと思う。確かに吉谷美百合は、その方面では売れっ子なのかもしれない。でも、何か違和感がある以上、今は焦らないほうがいい。しかしそんなことも美百合からすれば「マサエさんは現実を見てない」などと叱られそうだ。
マサエは自分では気づいていなかったが、あの日以来「美百合だったらどうか」という他人軸で動いているところがあった。ずけずけとものを言い、他人の反応などおかまいなしの美百合。年上の人間にすら平気で偉そうな口をきく美百合のことを理解できないと思う反面、少しうらやましくもあった。(あんなふうに堂々としていられるってのは、『自信のなさ』というよりもホントはやっぱり、自信があるからじゃ・・・)。
マサエはなんだか、自分がもしかしたらとんでもない間違いをおかしたのではという気になった。(吉谷さんは、ああ見えてこの道のプロなんだし・・・)。そしてつい、メールを見てしまった。コンサルを受けた翌日の日付だった。
「マサエさん♡ 昨日はありがとうございました。私つい、お客様のことになると気合がはいっちゃうんです。マサエさん、ビックリしちゃいましたよね。もし、お気を悪くされたらゴメンナサイm(__)mよかったらグループコンサル、申し込んでくださいね♡マサエさんの席、あけておきます(#^.^#) 吉谷美百合」
マサエはため息をついた。
「マジですか・・・」
私は今、大きなチャンスを逃そうとしているのだろうか。
「どうしよう・・・」
そして、自分がまた深く呼吸していないことに気づいていなかった。
とりあえず申し込みのリミットは過ぎてしまった。最初聞いた89000円という金額は今ではもう、もとの15万円戻っているだろう。落ち着け落ち着け。マサエはキッチンにゆき、コーヒーを淹れた。こういうときは焦らず、とにかく落ち着くことだ。そして、カードを引くことだ。
マサエは自分がお客であると仮定して(吉谷さんのコンサルに申し込むことは正しいですか?)とカードに聞いてみた。もういいかな。というまでシャッフルし、これだという一枚を選ぶ。あえて今回は一枚引きで答えを聞いてみた。あらわれたカードは「あなたの中の、内なる子供」というメッセージだった。マサエは思わず、う~ん、とうなってしまった。
カードのそのままのメッセージを受けとらず絵の印象や自分のインスピレーションを信じることが大切である。マサエは目を閉じ、自分の内側に問いかけてみた。(内なる子供、とは・・・?いま、このメッセージを与えられた意味とは・・・?)
美百合が連れてきた女の子のことが思い浮かんだ。あの子、みおちゃんて呼ばれてたっけ。でも、ぜんぜん笑わなくて・・・。それに、「なんで仕事の場に子供なんて連れてくるのよ」って私、思っちゃったんだよね。吉谷さんがその子にあんまり優しくしなかったところも実は、見てていやだった。そして実は吉谷さんの子供じゃなかった。そうか、私、子供を大切にしていないお母さん、ていうのを見るのがいやだったんだ・・・。
よく聞く「インナーチャイルド」という言葉が思い浮かんだ。私の中のインナーチャイルド。今回のメッセージは、その子からのものかもしれない。だとしたら私は今、どうしたらいいだろう・・・。
ヒロシは美百合のことを「人より優位に立とうとするのは自信のなさのあらわれ」と言い、客に対してそのような態度をとる美百合とは関わらないほうがいいと言った。自分でも感じた違和感から、マサエはそれはそれで正しいと思う。しかし・・・。
マサエは、一通のメールでなぜこんなに自分の気持ちが揺れるのかわからなかった。ガサツで乱暴な物言いをすると思ったのに、今度はその美百合に申し訳ないとすら思い始めている。
思わず、美百合のブログを開いていた。「満席♡グループコンサル」というタイトルに目が行く。開くと「お申し込みいただきました~♡人生変えちゃう、デザインコンサル」とあって、先日の写真が投稿されている。ピースをする美百合の横でみやびもマサエも顔は、隠されている。一応そのへんの配慮はしてくれたようだ。そして「お客様の声、続々と頂いてまます♡」と大きな文字の下にはいくつもの感想が寄せられていた。
「みゆさんのコンサル受けたら、臨時収入が!超ビックリ」(30代・Mさま)
「カウンセリングで泣きました。そしてその日から人生変わりました♡毎日が幸せに。ほんとうにありがとう!」(40代・Yさま)
「終了後もきめ細かいフォローがあって、助かります。素敵なみゆさんとの出会いに感謝♡乾杯」(30代・Hさま)
など、いくつもある。マサエは、食い入るように画面を見つめた。と、画面の端にメール着信があった。タイトルは「お申し込みフォーム」とある。申し込み?まさか・・・。マサエは申し込み専用アドレスの新着メールを開けた。
「あ・・・」
そして、息を飲んだ。ヒーリングサロン・えびす、初めての申し込みだった。
ヒーリングルーム・えびす 犬神まき子 @momobuta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒーリングルーム・えびすの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます