第2話
サマースクールの初日は7月下旬にしては涼しく感じたことを覚えている。
そのためか珍しく目覚めのよかった私は、予定より一本早い電車で会場である大学に向かうこととなった。
私の通っていた大学は山に囲まれており、最寄り駅からあぜ道を歩いて15分という場所にある。
先輩の話では数年前までは今私が通学に使っている駅は存在せず、当時の最寄り駅は大学から20km離れたところにあり、車のない学生および教員は実質的に大学の寮に入る以外の選択肢がなかったらしい。
私はこのあぜ道の通学路が気に入っている。
田畑やその傍で焼かれる枯れ草から上る煙が構成する長閑な景色は美しかった。
特に秋は棚田いっぱいに広がった稲穂に夕暮れがかかって金色に輝き、その絶景を写真に収めようと他県から人がやってくるほどだ。
その日も変わらず穏やかな田舎道で、私はいつものようにとりとめもないことを考えながら道を進んでいた。
前方にサマースクールの参加者と思しき小学生が見えてくる。時折立ち止まって周りを見渡している。
小柄でやせた男の子のようだ。キャップに白いシャツ、青いデニムのハーフパンツという組み合わせが小学生の夏らしい。
私はなんとなく気まずく感じて男の子を追い越すことのないよう歩みを遅らせた。
だがそれでもジリジリと私と男の子との距離は近づいてき、大学の門に着く頃にはほぼ並ぶことになった。
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時間を確認すると集合時間まで少しあったので昼食と飲み物を学内のコンビニで買っておくことにした。
コンビニを出る頃にはギリギリの時間になっていたので小走りで広場を横切る。
ふと視界に子どもの姿が入ってくる。
先ほどの男の子だ。キャンパスマップを見上げている。
もしサマースクールの参加者だとしたら、そろそろ会場に着いていないと遅れる頃だ。今からキャンパス内を迷っていたら開講した後に会場に入ることになるだろう。
それは気まずい思いをしてしまうかもしれない。
少し逡巡した後、私は彼に声をかけることにした。
「あの、もしかしてものづくりサマースクールの参加者ですか?」
小学生相手でも敬語になってしまう癖は抜けない。
別に問題はないはずだけど堅苦しすぎるきらいがあることは自分でもわかっている。
男の子がパッとこちらの方へ向く。
「はい、そうです。けど会場の情報科学研究科C棟というのがわからなくて困ってて」
くりっとした目がまっすぐに私を見上げてくる。
これは将来美少年に成長するな、とどうでもいいことを考える。
「案内するからついてきて。私もチューターとしてサマースクールに参加するの。ミツキね。よろしく」
こうして私はハルに出会ったのだった。
ある夏の くさかべ @mizuki_kusakabe
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