戦慄の白いマジック

ドルファイ76

第1話 蔑む瞳を乗り越えて


「大きくお願いしますね!!!!」


彼女の声はどこか急ぎながらも苛立ちを感じさせた。


そんな視線を真っ向から受けても


臆病な私は表面上は同意をしつつも、密かに抵抗をしようとしていた。


「わかりました。ですが大きくとは具体的にはどれくらいなのでしょうか?」


私は彼女に尋ねた。


彼女は一旦私の言葉を飲み込んだ後に

そんなことも分からないのかと言わんばかりな表情を見せてから素早く答えた。


「そうですね、野球ボールぐらいでしょうか?」


「野球ボール!?種類は軟球ですか?まさか硬球とか言いませんよね」


「それって両方とも大きさは一緒なんじゃないですか?

 種類で違いなんてあります?」


心の中で「しめたっ」と私は思った。


「そうですね。硬球は直径 74.8mm、軟式球A球は直径72.5mmだと言われています。 硬球の方が大きいんですよ。同じだと思っている人が多いですがね」


「へー、そうなんですね」


すかさず私は新たな情報を提示する。


「もっと言うと軟式球は他にも種類があるんですよ。

 軟式球B球と軟式球C球と少しずつですが小さくなっていくんです」


「C球だと子供でも確実に片手で握れますね」


「A球は少し大きくて片手だと上手く握れないかもしれないなあ。

 ただ大きいので、間違っても子供が飲み込んでしまうことはないと思いますけど」


私は種類によって大きさが違うことをアピールした。


「全然知りませんでした。物知りなんですね」

「分かりました。それじゃあ、硬球ぐらいの大きさですかね」


彼女は私にニッコリ笑って言った。


微笑む彼女は私の全てを見透かしていることなんて知っている。


それでも!!なんとかこの場を終わらせたくないんだ!


何か話す事がまだあるはずだ。


何か・・・彼女に


話すことが・・・


その時が迫っていた。


時間稼ぎもここまでなのか・・・

自分の不甲斐なさに軽くため息をついた。


彼女はこちらを真っ直ぐ見据えている。

そして私に問いかける。


「痛かったら手を上げてくださいね」


「はい・・・」


私は諦めて軽く目をつぶって衝撃に備えることにした。


甲高い機械音が聞こえてくる。


・・・やっぱり歯医者は苦手だ。


私はゆっくりとC球ぐらいの大きさで口を開けていた。

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