崔暹⑤東魏文官4人のまとめ。
東魏の文官の伝を読んできました。
官僚としてはそれぞれ、
孫搴 :文書技能者
杜弼 :法治主義
陳元康 :調停者
崔暹 :法治主義
という感じに色分けされますね。
ここまでで見えたところを
整理しておきたいと思うの。
北齊の文官たちもその延長線上にいるはず。
▼行政的な晋陽の独立性
孫搴はさておき、
その他は
繰り返しになりますが、
鄴は東魏・北齊の政治的な中心、
一方、
別に
晋陽には
それぞれで府を開いており、
そこにも官僚が多くいます。
都督中外諸軍事府は史書の
大行台の職位は高氏に継承され、
武定八年(550)
この職権でもって晋陽を含む
独立性が保たれたものと考えられます。
高洋の即位後は高氏の者の着任はなく、
北齊の建国とともに大行台は省かれた、
と思われますが実態はたぶん違います。
たとえば、
「并省尚書令に除せられた」記事があり、
おそらく、
高洋即位までの
并州尚書省となって機能を引き継ぎます。
晋陽を含む并州の独立性は変わりません。
しかし、
なんで北齊建国後も維持する必要あんの?
よくよく考えると不思議なお話なのよね。
▼并州尚書省
まずは、
『北齊書』本紀から并省絡みの人事を抜粋。
天保八年(557)
天統五年(569)
婁定遠:
武平三年(572)
武平四年(573)
并州尚書省から鄴への異動が多くあり、
これらが北齊の政治の一貫性を奪って
迷走させたことは容易に想像できます。
北齊朝廷の鮮卑語優位の原因もたぶんコレ、
晋陽は鄴より鮮卑色が濃かったはずですね。
そもそも高歓は日常語が鮮卑語の人ですし、
鮮卑文化と西域趣味は晋陽由来だと思うの。
西域趣味?
それについては後ほど。
当然ですけど、
并州尚書省の求心力は高歓によっており、
大行台府または中外府に属する鮮卑武人の
存在がその背景となっていたのであります。
鮮卑武人というのもちょっと語弊があり、
実際には
鮮卑だけじゃなくて
多く含まれていたはずであります。
勲貴は一般に鮮卑武人も含みますけど、
あえて鮮卑武人を別にする方がよさげ。
そうなると、
従った
勲貴が構成されるので分かりやすいです。
一部では重なり合ってしまいますけどね。
▼鄴・晋陽二元体制
鄴と晋陽の二元体制の理由を振り返ると、
晋陽の高歓が鄴に継承された北魏の機構を
制御するために行われた体制だったワケね。
その前提において、
杜弼や崔暹を使って制御しようとしたのは
鮮卑武人および高歓と密着する勲貴たちで、
それはつまり、鄴からの晋陽の制御であり、
当初の形を逆転させようとしていたのです。
一方、
晋陽は軍事拠点でもあって南の
西魏が迫っており、軍事力でもある勲貴や
鮮卑武人を排斥する選択肢はムリがある。
完全にダブルバインドな状況になっており、
これが東魏・北齊にとって致命的なのよね。
武人連中の組織については不明ですけど、
高歓が高澄に与えた遺言を見てみますと、
「
という言葉もあって、鮮卑や勅勒=高車は
部族的紐帯で結ばれていた可能性が高そう。
そう考えないと、
老公という語がイマイチ理解できません。
それならば、
抜本的には軍制改革を行って鮮卑武人の
部族的紐帯を解体し、并省が担う機能を
鄴に回収するのが是正の道でありますね。
それこそ、
今さらながら部族解散しないといけない。
しかし、
そこまで劇的な改革者は
東魏・北齊には現れない。
そもそも、現状だけを見れば東魏は
優位にあって焦る必要はありません。
そんな状況で抜本的な改革は難しい。
その上、
晋陽にいた高歓もそこまでの改革を
志向するタイプの人ではなかったし。
何かすると鮮卑武人や勲貴がガタガタ言う。
それならやらない方がマシ、というワケで。
それでも、
高歓と杜弼のやり取りかた見ても、
高歓にも問題意識はありましたね。
そこで、
折衷案として高歓と高澄が役割分担、
高歓:鮮卑武人・勲貴寄りの庇護者
高澄:漢人官僚寄りの綱紀粛清者
という立ち位置を敢えて採った上で
嫌われ役を崔暹に担わせたワケです。
ただ、
問題の根本原因は東魏の体制にあり、
崔暹が勲貴をいくら弾劾してもムダ。
晋陽から鄴への反感が増すだけです。
まあ、
三途の川で石を積むっぽく
不毛ではありますよねえ。
▼高氏の根拠地としての晋陽
お話を并州尚書省に戻します。
高歓の死後も晋陽には高歓の妻の
つまるところ、
高澄=
高洋=
即位:鄴南郊-没:
高演=
即位:
高湛=
即位:
すべて婁太后の子でありますので、
晋陽の影響力の排除は難しかった。
各人の即位と没した場所を合わせて
記してみましたが、高洋以外は晋陽。
婁太后は高湛の即位時も存命でしたし。
婁太后の孫世代、
高洋の子の
高湛の子の
晉陽宮で即位しております。
高緯の子の
この時には晋陽はすでに失陥済み。
つまるところ、鄴で即位したのは、
建国時の高洋と亡国時の高恒だけ。
高氏の軸足はあくまで晋陽にあった。
大寧二年の婁太后の死後、晋陽の力は
低下したものと推測しがちですけど、
実際にはそうでもなさそうなんですよ。
婁太后の死後、
高湛が上皇、高緯が皇帝の期間にあたる
天統年間の移動記事を追ってみましょう。
天統元年(565)
4月:高緯即位(晋陽)
11月:晋陽→鄴
12月:晋陽→鄴★
天統二年(566)
正月:鄴→晋陽
2月:晋陽→鄴
8月:鄴→晋陽
天統三年(567)
正月:晋陽→鄴
9月:鄴→晋陽
11月:晋陽→鄴
天統四年(568)
4月:鄴→晋陽
5月:晋陽→鄴
12月:高湛死去(鄴)
★は高緯の移動が明言されています。
それ以外はすべて高湛の移動ですが、
高緯も同行していたと推測されます。
たぶん鄴より晋陽にいる時間が長い。
結局、
永熙元年(532)から大寧二年(562)の
30年に渡って高氏の根拠地だったために、
それ以降も二元体制は動かしがたかった。
というより、
高氏は鄴より晋陽の居心地がよかった、
そういう風に読み取れる気がしました。
逆に、
晋陽が呪縛となった可能性もあるのかな。
▼高氏政権は北魏のオデキ
これより推して、
東魏~北齊という政権は実態として
鄴に継承された北魏統治機構に対し、
晋陽が外部装置として機能していた、
とも推論できるのかも知れませんね。
まず、
北魏の統治機構は変わらず存在しています。
北魏の統治を乱した六鎮の兵戸は回収され、
晋陽の隷下に置かれて旧態に復してますね。
少なくとも、
北魏時代の統治機構が回復されたのです。
だから、
孫搴のように北魏時代と何ら変わらない
振る舞いの官吏が存在していたワケです。
これで、
支配者も
以前の北魏と何も変わらない。
違いは、
洛陽から鄴に遷った統治機構に対して
晋陽の高歓が大丞相の位でもって容喙、
好き勝手に乱すことができたワケです。
この容喙の形が、
・勲貴の大官への任用とそれに伴う汚職
・鮮卑武人による統治機構への実力行使
という国力を弱める方向にしかないのよ。
無論、
大義名分としては叛徒=西魏への備え、
というモノが当然にあるワケですけど、
それを切り離すとそのようになるのね。
そして、
鄴にある北魏の統治機構への容喙は
北齊建国の後も本質的には変化なし。
支配者が高氏になったといっても、
鄴の統治機構にとってはそれほど
変化がないモノと見られたハズね。
だって、
晋陽からの容喙は続きましたから。
いわば、
高氏は北魏という機構に発生した
デキモノみたいなモノですわよね。
東魏は、
北魏から関中以西の土地を奪って
まったく違う国となった西魏とは
国のなりたちが違うワケですよね。
思うに、
高歓は東魏内の分断に自覚的で、
高澄はそれを融合させようとし、
高洋から後にはその自覚が薄い。
高澄に力量があったかはまた別。
北齊朝廷では、
鮮卑語と
これは、
北齊に仕えた漢人官僚、
『
琵琶は
だから、一種の西域趣味も交じっている風味。
『三國志』魏書の張既伝に引く『魏略』では、
(游)楚は學問せず、
而して性に遊遨、音樂を好む。
乃ち歌う者を畜い、琵琶・箏・簫、
每に行來するに將て以て自ら隨う。
所在には樗蒲・投壺、歡欣して自ら娛む。
西域に接する
これが正史としては古い用例ですので、
まあそっち方面と見ていいのでしょう。
この事象からして、
行政能力を求める統治機構に対して
外部装置は異なる論理で動いていた。
そういうことかと思うのですよねえ。
その外部装置の所在地が晋陽であり、
その機構が并州大行台尚書省であり、
跡を継いだ并州尚書省だったっぽい。
ただし、外部装置の原理は不明。
と考えますと、
東魏・北齊という国家がよく見える、
かも知れないし、そうじゃないかも。
検証はこれからのお話です。
少なくとも、
北齊は構造の捻じれた国であり、
皇帝でも是正できなかったのです。
東魏の文官4人の列伝を読む限り、
そのように考えられるのですねえ。
その検証は、
北齊時代に活躍した文官たちの伝を
読むことで可能かなと考えています。
なお、
天統五年(569)に後主=高緯が晋陽に
行幸した折、詔して并州尚書省の建物を
思うに、
この頃には北齊の外部装置の中の人は
晋陽の并州尚書省がなぜ必要だったか
忘れてしまっていたのかも知れません。
北齊建国から20年が過ぎていますからね。
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