杜弼⑨北齊名物「ナゾ誅殺」エンド(北齊とは?)
さて、
有能な行政官として働きつつも
なんか報われない感じですけど、
しかし、絶望的に報われないタイトル、、、
▼
弼儒雅寬恕、尤曉吏職、
所在清潔、為吏民所懷。
耽好玄理、老而愈篤。
又注莊子惠施篇、易上下繫、
名新注義苑、並行於世。
弼は儒雅寬恕、尤も吏職に曉るく、
所在清潔にして、吏民の懷くところとなる。
玄理を耽好すること、老いて愈々篤し。
又た莊子惠施篇、易上下繫に注し、
新注義苑と名づけ、並びに世に行わる。
▲
杜弼という人は地方官として
メチャクチャ有能であります。
行政に
当然、官吏にも民にも大人気。
余暇には『老子』『荘子』の注を作り、
『
まあ趣味人。
ある種、
▼
弼性質直、前在霸朝、多所匡正。
及顯祖作相、致位僚首、
初聞揖讓之議、猶有諫言。
顯祖嘗問弼云、
「治國當用何人?」。
對曰、
「鮮卑車馬客、會須用中國人」。
顯祖以為此言譏我。
高德政居要、不能下之、
乃於眾前面折云、
「黃門在帝左右、何得聞善不驚、唯好減削抑挫!」。
德政深以為恨、數言其短。
又令主書杜永珍密啟、
弼在長史日、
受人請屬、大營婚嫁。
顯祖內銜之。
弼恃舊仍有公事陳請。
弼は性質直にして、前に霸朝にあり、匡正するところ多し。
顯祖の相と作るに及び、致して僚首に位す。
初めて揖讓の議を聞くに、猶お諫言あるがごとし。
顯祖は嘗て弼に問いて云わく、
「國を治むるに當に何人を用てすべけんや」と。
對えて曰わく、
「鮮卑は車馬の客、會ず須く中國人を用てすべし」と。
顯祖は以為えらく、此言は我を譏れり、と。
高德政は要に居るも、之に下るあたわず、
乃ち眾前に面りに折りて云わく、
「黃門は帝の左右にあり、何ぞ善を聞きて驚かず、唯だ好みて減削抑挫するを得んや」と。
德政は深く以て恨みと為し、數々其の短を言う。
又た主書の杜永珍をして密かに啟すらく、
「弼の長史にありし日、
人の請屬を受け、大いに婚嫁を營めり」と。
顯祖は內に之を銜むも
弼は舊を恃みて仍お公事の陳請するあり。
▲
そんな杜弼、北齊みたいな泥沼にあっても
行政官として抱負を持つ人でありまして、
「言うべきことは言う」がモットーでした。
待って、それ超キケン。
実際のところ、
ちょっと不満げな顔をしておったようです。
で、
キ●ガイ皇帝=高洋とのアブナイやりとりが。
高洋
「中国を治めるには何人を用いるのがいい?」
杜弼
「鮮卑はつまるところ遊牧民、
中国を治めるには漢人を用いるべき」
高洋
(ワシ鮮卑やがな、DISっとんのか!)
これは高氏の民族自認が表れています。
また、
史家による高氏への認識でもあるかな。
民族的なアレコレはさておいて、
ここで怒る高洋の自認は鮮卑です。
高洋の自認が鮮卑であるとして
高歓が漢人意識だった可能性は
あんまり考えられないと思うの。
まあ、高洋の母親は
ガチンコ鮮卑族なわけでありますが。
話は変わりまして、
高歓が自称する「
杜弼を弾劾した
高洋が皇帝になる前から付き合いは長く、
本人も高洋の腹心を自任しておりました。
高洋の即位の首謀者でもあったらしく。
即位した高洋は母の疋婁氏に怒られて、
「オマエの父は龍、
オマエの兄は虎、
それでも人臣として終わった。
オマエが禅譲なんで許されるかね。
高德政に唆されただけじゃねえの」
高洋の評価メッチャ低いな。
それだけに高洋に重用されていました。
まあ、
コイツも悲惨な末路が待ってますけど。
ブイブイいわせている高德政にも、
杜弼は容赦なく苦言しちゃいます。
「帝の左右に侍る
余人の善行を伝えることなく、
好き嫌いで余人を退けるのか!」
しかも、面折=面と向かって罵言、です。
あーあ、、、漢人の逆鱗に触れますわな。
マジギレの高德政は高洋に悪口を吹き込み、
さらに、
「杜弼は陛下の長史であった頃、
その身分をカサに着て有力者と
縁組を進めておったのですぞ」
お気づきのとおり、杜永珍は杜姓、
たぶん杜弼の身内の人間ですわね。
当然のように高洋はムカムカイライラ、
もはや、
キ●ガイメーターは振り切れんばかり。
それでも杜弼は統治に関わる陳情を行います。
これを『北齊書』は「旧を恃み」、
つまり「かつての厚遇に驕って」、
という感じで記述しておりますが。
しかし、
杜弼のこれまでの行いを見る限り
「やむにやまれぬ行政官魂の発露」
だったと解釈したいところです。
周りも見えずにひたすら施策実行、
そういう人だったんじゃないかな。
こういう風に
史書の記述に違和感を感じるのも、
読み込みの楽しさですわね、奥様。
▼
十年夏、上因飲酒、積其愆失、
遂遣就州斬之、時年六十九。
十年夏、上は飲酒に因りて、其の愆失を積み、
遂に州に就きて之を斬らしむ、時に年六十九なり。
▲
天保十年(559)の夏、
高洋が酒を飲んでいると何かがフラッシュバック、
ナゾに杜弼への怒りの炎が三千丈燃え上がります。
アル中コワイ。
さっそく徐州に使者を遣わします。
使者に命じたのは杜弼の斬刑です。
スゲーわ。
使者はフツーに徐州に行きつき、
杜弼の首を斬って任務完了です。
享年69歳、
これだけワケ分かんない死に方も稀少。
合掌。
▼
既而悔之、驛追不及。
長子蕤、第四子光、遠徙臨海鎮。
次子臺卿、先徒東豫州。
乾明初、並得還鄴。
天統五年、追贈弼使持節、揚郢二州軍事、
開府儀同三司、尚書右僕射、揚州刺史,
諡曰文肅。
既にして之を悔い、驛にて追うも及ばず。
長子の蕤、第四子の光、遠く臨海鎮に徙らしむ。
次子の臺卿は、先に東豫州に徒さる。
乾明の初め、並びに鄴に還るを得る。
天統五年、弼に使持節、揚郢二州軍事、
開府儀同三司、尚書右僕射、揚州刺史を追贈し、
諡して文肅と曰う。
▲
一応、高洋も酔いから醒めたら
後悔して中止の使者を送ります。
結局、時間差のために追いつけず、
杜弼は斬られてしまったのでした。
飲み過ぎなんだよ、、、
とばっちりを食らい、
長子の
懐かしの
次子の
何してんだよ、オマエも。
なお、
高洋はその年の十月に死に、
子の
これが
杜弼の息子たちは翌年の
みな
たぶん、
廃帝即位の際の大赦じゃないかなあ。
ちなみに、
廃帝は乾明元年(560)に廃され、
この時、
杜弼とともに実務派の柱である
政争の中で命を失うこととなります。
杜弼の死は楊愔の死と並び、
漢人実務派官僚の敗北の象徴、
そのような気がしなくもない。
※
ちょいと私見を語らせて頂くならば。
(翻訳もたいがい私見ですよねえ?)
杜弼という人の重要性は、
「東魏成立後に高歓に従った新参者」
「高歓の統治観に真っ向勝負(そして粉砕された)」
「毎度、渤海蓚の漢人に陥れられる」
という点にあると思うのです。
名理の論とかどうでもいい(偏った見方
この伝に引かれている通り、
東魏にあって高歓は絶対権力者ではなく、
鮮卑武人と漢人官僚の板挟みにあります。
バランスしないと東魏は成立していない。
その二極が鄴と晋陽なわけでありますね。
鄴に東魏帝と漢人官僚、
晋陽に鮮卑武人と六鎮の鮮卑兵。
杜弼はあきらかに鄴側の人間です。
だから、
汚職鮮卑武人を排斥したいわけで。
でも、高歓から見ると
鮮卑武人を繋ぎとめるには
利を喰らわせるよりなくて、
汚職には目を瞑るよりない。
沙苑の役に先立って
兵士の間を杜弼に歩かせた逸話は、
両者の断絶の象徴みたいなモノで。
一方、
鄴側も一枚岩というワケにいかず、
杜弼はたびたび左遷されています。
なもんで、
不死鳥ジジイにならざるを得ない。
左遷は、
「竇泰の戦死による連座」
「封靜哲による弾劾」
「高徳政との政争」
という理由によりますけど、
後二者はともに渤海蓚の漢人との争い、
彼らは高歓の挙兵から従った家なので
立ち位置が他の漢人官僚とは違います。
彼らは鮮卑武人に近い既得権益者、
つまり、
漢人官僚も二分されておりました。
杜弼という人は、
鮮卑武人でもなく既得権益層の漢人でもない、
かつ、能力的には最高レベルにあったことで、
「あるべき東魏」を目指してしまうわけです。
その行動の結果として、
「あるべき東魏」を望まない人が姿を現します。
それが、
鮮卑武人の繋ぎとめに苦労する高歓であり、
既得権益を守りたい渤海蓚の漢人なのです。
一方、
杜弼という人は確かに有能ですが、
新しい国家は志向していませんね。
これはおそらく楊愔も同じ。
彼らが志向したのは「勲貴の横暴がない国家」、
さらに、「姓族による秩序が遵守される国家」、
つまり、北魏の時代への回帰だと思うのですね。
別の角度から見れば、彼らも既得権益層ですわ。
そういう意味において、
孫搴も杜弼も楊愔も封靜哲も高徳政も同じ。
小さな相違はあっても行き先は変わらない、
というような気がしてならんのですよねえ。
私利私欲か姓族秩序かの違いはあっても、
志向は現状維持または北魏時代への回帰。
西魏の「六條詔書」のように国家観を
明らかにする必要もなかったわけです。
だから、彼らの施策は魏が東西に分かれて
河北を二分した時代に適していなかった。
洛陽遷都後の北魏を範にとっても、
状況が違うから適合しないですよ。
ちょろっと見ると皇帝の暴虐や名将の誅殺で
北齊の国力が低下して北周がタナボタした、
という風にも見えがちなところですけども。
根本的には国の目指すところの違いが、
北周の北齊併呑に結果したと思います。
うーん、マニアック。
そして、
これから陳元康や楊愔などの北齊文官の列伝を
読み込むことにってどのように変わっていくか、
そのあたりが一番オモシロいところなんですね。
ただ、ここまで解像度を上げて細かく観ると、
他の時代に手を出す余裕は全然なくなるのね。
三国志マニアが他時代に手を出さない理由も
たぶんコレなんでしょうね。
まる。
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