杜弼④文官in汚職やり放題パラダイス

ハデに左遷された杜弼とひつですが、

不死鳥のように復活いたします。


『稲中卓球部』の校長先生かよ(謎




元象初、

高祖徵弼為大丞相府法曹行參軍、

署記室事。

轉大行臺郎中、尋加鎮南將軍。

高祖又引弼典掌機密、

甚見信待。

或有造次不及書教、

直付空紙、即令宣讀。


元象の初め、

高祖は弼を徵して大丞相府法曹行參軍と為し、

記室事を署す。

大行臺郎中に轉じ、尋いで鎮南將軍を加えらる。

高祖は又た弼を引きて機密を典掌せしめ、

甚だ信待さる。

或るとき造次にして教を書くに及ばざるあり、

直だ空紙を付し、即ち宣讀せしむ。



元象げんしょう年間(538-539)のはじめ、

高歓こうかんは杜弼を大丞相府だいじょうしょうふ法曹行參軍ほうそうこうさんぐん

ついでに文書事務を任せることにします。


何この唐突感。


実際のところ、杜弼の召喚は

これよりもっと早かったみたい。


そのあたりはまたおいおいと。


そこから大行臺郎中だいこうだいろうちゅうに転じ、

機密に関与するようになる。


とんとん拍子。


その信頼ぶりは宇文泰うぶんたいにおける蘇綽そしゃくさん、

白紙を渡してみんなの前で読ませる感じ。


単なる羞恥プレイにも見えますが。


いずれにせよ、このあたりから杜弼は

高歓のハートをガッチリキャッチです。




弼嘗承間

密勸高祖受魏禪、

高祖舉杖擊走之。

相府法曹辛子炎諮事、

云須取署、

子炎讀「署」為「樹」。

高祖大怒曰、

「小人都不知避人家諱」。

杖之於前。

弼進曰、

「禮、二名不偏諱、

孔子言『徵』不言『在』、

言『在』不言『徵』。

子炎之罪、理或可恕」。

高祖罵之曰、

「眼看人瞋、乃復牽經引禮」。

叱令出去。

弼行十步許、呼還、子炎亦蒙釋宥。

世子在京聞之、語楊愔曰、

「王左右賴有此人方正、

庶天下皆蒙其利、

豈獨吾家也」。


弼は嘗て間を承けて

密かに高祖に魏禪を受くるを勸め、

高祖は杖を舉げて擊ちて之を走らす。

相府法曹の辛子炎の事を諮るに、

須らく署を取ると云うを、

子炎は「署」を讀みて「樹」と為す。

高祖は大いに怒りて曰わく、

「小人は都な人家の諱を避くるを知らず」と。

之を前に杖せり。

弼は進みて曰わく、

「禮に、二名は偏諱せず、

孔子は『徵』を言いて『在』を言わず、

『在』を言いて『徵』を言わず。

子炎の罪、理に或いは恕すべし」と。

高祖は之を罵りて曰わく、

「眼に人の瞋るを看て、乃ち復た經を牽き禮を引かんや」と。

叱して出で去らしむ。

弼の行くこと十步ばかり、呼び還し、

子炎も亦た釋宥を蒙る。

世子は京に在りて之を聞き、

楊愔に語りて曰わく、

「王の左右に此人の方正あるに賴り、

庶くは天下は皆な其の利を蒙らん、

豈に獨り吾が家のみならんや」と。



高歓の信任を得た杜弼、

皇帝位即位をオススメしてブッ叩かれるという

ほっこりエピソードを間に挟んで避諱ひいのお話。


北朝ではちょっと珍しいね。


丞相府じょうしょうふ法曹参軍ほうそうさんぐん辛子炎しんしえんという人があり、

なかなかのウッカリさんだったようです。


この人が「しょ」という文字を誤り、

じゅ」と読んでしまいます。


なんでやねん。

音が近かったのかも知れません。


高歓の父の名は高「樹」生、

ガッツリいみなを踏んでます。


『世説新語』を読まれる方はご承知の通り、

亡父の諱、つまり下の名を呼ぶのは非礼。


母親はどうなんかな。


漢人ぶった高歓が怒り、

「バカモノは他人の家の避諱を知らんのか!」

と叱りつけました。


習俗鮮卑のクセに。


見かねた杜弼が口添えしてやります。

「礼には二字名のいずれかのみを避けません。

孔子の母は顔徴在がんちょうざいですが、徴のみを言わず、

在のみを言わぬことはありませんでした」


あー、

やっぱり亡母も諱は避けるのか。


杜弼は内心思ったでしょうね。

「バーカバーカ、バカ鮮卑」


無知を指摘された高歓は逆ギレ。

「他人が怒っているのに経書とか引用すんな!」


パーフェクトな言いがかりで

杜弼を下がらせてしまいます。


しかし、杜弼が10歩ほど行くと、

高歓は思い直して呼び戻し、

ウッカリ辛子炎も許しました。


この頃、高歓の長子の高澄こうちょうぎょうにいましたが、

この話を聞くと楊愔にこう言いました。


「オヤジの近くにカタブツ杜弼がいると、

 我が家だけじゃなくて天下も助かるわ」




弼以文武在位、罕有廉潔、

言之於高祖。

高祖曰、

「弼來、我語爾。

天下濁亂、習俗已久。

今督將家屬多在關西、

黑獺常相招誘、

人情去留未定。

江東復有一吳兒老翁蕭衍者、

專事衣冠禮樂,

中原士大夫望之以為正朔所在。

我若急作法網、不相饒借、

恐督將盡投黑獺、士子悉奔蕭衍、

則人物流散、何以為國?

爾宜少待、吾不忘之」。


弼は文武の位に在るものに廉潔あるなきを以て、

之を高祖に言う。

高祖は曰わく、

「弼よ來たれ、我は爾に語らん。

天下は濁亂し、俗に習いて已に久し。

今、督將の家屬は多く關西に在り、

黑獺は常に相い招誘し、

人情の去留は未だ定まらず。

江東に復た一吳兒の老翁、蕭衍なる者あり、

專ら衣冠の禮樂を事とし、

中原の士大夫は之を望みて以て正朔の所在と為す。

我れの若し急に法網を作して相い饒借せずんば、

恐るらく、督將は盡く黑獺に投じ、士子は悉く蕭衍に奔らん。

則ち人物は流散し、何ぞ以て國たらんや?

爾は宜しく少しく待つべし、吾れは之を忘れざるなり」と。



このあたりからいよいよ杜弼が絡む

構造的な問題が俎上に上がります。


当時、高歓に従う文官も武官もともに

汚職やり放題パラダイスを満喫中です。


杜弼はそれが気に入らず、

汚職した者を罰するよう願いました。


おそらく杜弼への信任が篤かったか、

ようやく高歓も本音を漏らします。


「杜弼よ、ちょっとコッチ来いや。

 ワシの考えをオマエに教えてやる。

 天下は混乱して久しく乱れておる。

 武官の家族の多くは関中にあって

 宇文泰が常に裏切るよう唆しとって

 連中がこのまま従うかは分からん。

 江南には蕭衍しょうえんが漢人の文化を保ち、

 河北の漢人は江南を正統と仰いどる。

 ここで厳罰主義に転じてしまえば、

 武人は関中に、文人は江南に逃げ、

 國を維持することもできまいよ。

 しばらく時を待て、忘れはせん」


もうそのまんまの発言ですよね。


東魏という国家の本質はたぶんコレ。

なかなか重要な発言なのであります。

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