爾朱榮⑥戦&戦&戦、全部勝ったらまさに「ナントカに刃物」でした。

漠北から還った爾朱榮ですが、

お待ちしているのは叛乱の山。


以下、

先に整理した部分ごとのご説明です。



▼秀容の叛乱の平定


▲秀容の胡民の乞扶莫于が郡守を殺し、

▲南秀容の牧子の萬子乞真が太僕卿の陸延を

 殺し、

▲并州の牧子の素和婆崘嶮が叛乱し、

▲これら三つの叛乱を平定し、

 直閤將軍、冠軍將軍に任じられた。



お膝元の秀容では、

乞扶莫于という人が郡の治所を破り、

郡太守の首級を挙げてヒャッハーです。


史書での乞扶莫于の肩書き?は、

「秀容內附胡民」ですから、

もともと秀容の土着ではなく、

北魏の軍勢に投降した遊牧民、

というように解すのがよさげ。


ただ、

乞扶姓なんて初めて見ますが、

おそらく

乞伏莫于きつふくばくうの転訛でしょう。


乞伏であれば、

乞伏きつふく国仁こくじんでお馴染み隴西ろうせい鮮卑せんぴやんけ!


こんなところまで出張してやがりましたか。


叛乱はそれだけに留まらず、

お隣の南秀容では、

萬子乞真が太僕卿の陸延を殺害します。


萬子乞真の萬子姓も見たことないです。


『北史』あたりを漁ると、

この時期に萬于ばんう菩提ぼだいという人が

涼州にあって叛乱したという記事がありました。


萬于ねえ。


『魏書』の本紀では「于乞真」ですね。


于姓ということは、

萬紐于ばんちゅうう氏の省略と見るのがよさげ。

つまり、

萬紐于ばんちゅうう乞真きつしんが正しそう。


おそらく鮮卑なんでしょうけど、

経緯などは明らかにできそうにないです。


F**k!


犠牲になった陸延は歩六孤氏の人です。


で、

太僕卿がなんでこんな所にいるかというと、

叛乱の撫順のために寄越されていたのです。


ちょっと考えてみましょう。


太僕卿の仕事は叛乱の鎮定ではない。

皇帝の乗輿に関わるのが職務ですね。


それにも関わらず、陸延が遣われされた。


さらに情報を追加すると、

陸延の字は契胡提でした。


冒頭で暴走した際に、

契胡=稽胡

ではないかと疑っていました。


また、

歩六孤氏は歩落稽と近しいのでは、

という疑いも持っておりました。


その憶測が正しいならば、

歩六孤氏は稽胡の出自、

それなら、

南秀容は陸延の故郷界隈、

イコール、

叛乱した人たちも御馴染み。


萬紐于乞真は鮮卑と推測されるので、

稽胡が乞真に従っていたのかなあ。


そんな感じで

撫順に遣わされたという推測が

成立するような、しないような。


まあ、

期待虚しくバッサリいかれたわけですけど。


叛乱はまだあります。


肆州の南にある并州では、

牧子の素和婆崘嶮が叛乱します。


素和婆崘嶮。


素和そわが姓で、

婆崘嶮ばろんけんが名です。


メチャクチャですね。


素和姓は北魏の初期の重臣に

和弼わひつという人がおりまして、

和姓を名乗っております。


ちなみに、

北齊の奸臣として著名な和士開わしかいも同族っぽい。


ワシかい?

てなことを申しましてな(噺家風味)。


そんなこんなの3つの叛乱でありますが、

爾朱榮は率いる騎兵集団で彼らを蹂躙、

ご褒美に朝廷から

直閤將軍、

冠軍將軍

に任じられましたとさ。


でもまだ叛乱はつづきます。




▼肆州、瓜州での叛乱の平定


▲歩落堅の劉阿如たちが肆瓜で叛乱し、

▲敕勒の北列步若が沃陽で叛乱し、

▲これら二つの叛乱を平定し、

 安平縣開國侯、食邑一千戶に封じられた。

▲さらに、通直散騎常侍に任じられた。



こんどは瓜州と肆州で叛乱が発生です。

瓜州って敦煌とかそのあたりですけど。


えー、

山西の肆州から黄河を西に渡り、

オルドス=河套地方を横断して

さらに黄河を渡って河西に入り、

そのずーっと西の方にあります。


広すぎるわ!


ただ、

原文がぶっ壊れているクサイです。

ナマではこんな感じ。


內附叛胡乞、步落堅胡劉阿如等作亂瓜肆


この「瓜」も誤字なのかなあ。

まあ、いいや。


歩落堅胡の劉阿如りゅうあじょもいいとして。

ただ、

劉氏というのは匈奴臭くてGOODです。


その前、

「內附叛胡乞」

「內附せる叛胡の乞●●●」

って感じで脱落していることは明らかです。


推測ですが、

先に秀容で叛乱した乞扶莫于のご一族、

あるいは同姓の方の叛乱ではないかと。


内附は部族単位で行われたでしょうから、

おそらくは乞伏部の連中が復讐に挙兵、

歩落稽と結んで叛乱した感じですかね。


それに加えて、

沃陽では敕勒の北列步若という人が叛乱。


沃陽は恒州善無郡にあり、

代郡平城も恒州に含まれます。


しかし、

勅勒で北列=ホクレツねえ。


これって、

斛律=コクリツの転訛では?


歩若も孔雀の転訛クサイなあ。


そうなると、

斛律孔雀=コクリツコウジャクとなり、

あからさまに朔州勅勒な感じがします。


でまあ、

それらも爾朱榮は平定し、

安平縣開國侯、食邑一千戶に封じられ、

前後の軍功で通直散騎常侍に任じられます。


さらに戦はつづきます。




▼朔州勅勒と費也頭の叛乱の平定


▲敕勒の斛律洛陽が桑乾の西で叛乱して

 費也頭の牧子と結び、

▲斛律洛陽を破り、費也頭を河西に逐い、

▲軍功により平北將軍、光祿大夫とされ、

 安北將軍を假されて北道都督とされた。

▲武衞將軍に任じられた後、

 使持節、安北將軍、都督恒朔討虜諸軍を

 加えられ、

 さらに撫軍將軍を假され、

・賊を討って博陵郡公に封じられ、

▲邑五百戶を増され、

・梁郡公の爵位は第二子に与えられた。


戦闘マシーンと化した爾朱兵団、

今度は明らかに勅勒斛律部の叛乱です。


斛律洛陽が河西の費也頭の牧子と結び、

平城の南にある桑乾の西で挙兵しました。


場所は代郡平城の南の桑乾、

先ほどの北列歩若の叛乱と関係あり?


で、

この「牧子」という語ですが、

先の叛乱では、

・南秀容「牧子」萬子乞真

・并州「牧子」素和婆崘嶮

のように、

「地域+牧子+姓名」

という形で正史に記述されておりました。


よって、

牧子は彼らが遊牧民であることを除き、

何も意味しない語であると考えています。


で、

斛律洛陽と結んだのは、

費也頭「牧子」

と史書に記されておりますので、

これは、匈奴系で河套地方にいた、

紇竇陵部や万俟部のように

費也頭ひやとうと呼ばれる種族に

属する遊牧民を意味すると推測します。


費也頭も色々調べているのですけどね。


唐の頃に名を隠されてしまった感じで

イマイチ詳細がよく分かりません。


ちなみに、

費也頭姓(破也頭の場合もあり)も

存在はするのですが、

名が牧子はちょっとおかしいだろうと。


なので、

朔州に強制移住させられていた勅勒が

黄河の対岸で遊牧していた費也頭と結び

叛乱した、

これがこの叛乱の実状だろうと考えます。


この叛乱も爾朱兵団はあっさり平定、

斛律洛陽はおそらく討ち取られてしまい、

費也頭のみなさんは黄河の西に逃亡、

爾朱榮は

平北將軍、光祿大夫

に官爵を進め、

安北將軍

を假されて北道都督となります。


これで、

北の叛乱の記事は一段落となります。


それにしても爾朱兵団、

まさに戦闘マシーンですねえ。


ここでかなりの軍事力を培ったこと、

疑いないでしょう。


それが証拠に、

この時期に爾朱榮に従った人は

かなりの数に上っているのです。


主だったところを挙げてみますね。


記載以下の規則に従っています。

姓名(出身地:居住地、爾朱氏との関係)


 叱列延慶(恒州代郡、爾朱世隆の姉婿)

 慕容紹宗(恒州代郡、爾朱榮の姻戚)

 劉貴(肆州秀容郡陽曲)


以上の人々は六鎮の乱の前に

爾朱氏に従っていたっぽい。


 斛律金、斛律平(朔州敕勒)

 厙狄迴洛(恒州代郡)

 梁椿(恒州代郡)

 樊子鵠(恒州代郡平城)

 步大汗薩(恒州代郡西部)

 竇泰(朔州太安郡捍殊)

 賀抜允、賀抜岳(朔州神武郡尖山)

 侯深(朔州神武郡尖山:杜洛周)

 念賢(武川:杜洛周)

 趙貴(武川)

 侯莫陳順、侯莫陳崇(武川)

 破六韓孔雀、破六韓/常(懐朔鎮)

 賈顯度(定州中山郡無極:薄骨律鎮)

 侯莫陳悅(恒州代郡:河西)

 斛斯椿(朔州附化郡廣牧:河西)

 李弼(隴西成紀)

 宋顕(敦煌効穀)

 劉靈助(燕郡)

 常善(高陽)


以上はいずれも六鎮の乱の発生以降、

爾朱氏に身を投じているようです。


肆州秀容郡は六鎮の叛乱に与さない

代や六鎮の人々の拠りどころでした。


兵の練度が上がるとともに、

これらの人材を確保できたことにより、

爾朱氏はさらに力をつけたわけですね。


まさに、

キ●ガイに刃物というわけです。


その刃物がいよいよあらぬ方に向かいます。

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