韋孝寛⑪玉壁争奪戦Round2
▼攻車でGO!
モッコリもダメ。
穴掘りもダメ。
韋孝寛にヤラれっぱなしの高歓ですが、
むろん、諦めるワケには参りません。
何しろ玉壁城はまだ河東、
その先の蒲坂から黄河を渡れば関中、
宇文泰が待つ関中の全ッ然手前です。
この戦で西魏を滅ぼして河北を統一する。
その大望のためにコケてはいられません。
不屈の高歓は諦めることなく、
次の策を繰り出します。
『周書』韋孝寬伝
城外又造攻車,
車之所及,莫不摧毀。
雖有排楯,莫之能抗。
城外は又た攻車を造り、
車の及ぶ所、摧毀せざるなし。
排楯ありと雖も能く抗うなし。
次に登場したのは、
一般には、
城門を破るのに使われる
丸太に車をつけたヤツ
がメジャーです。
しかし、
コイツはどうもそうではない。
おそらく、
下部の台座に車が取り付けられ、
前後に動くようになっていますが、
台座の上には楼閣様の組木を建て、
その上部に丸太が取り付けられて
いたのでしょう。
それなら、
車をうまく進めると上部の丸太で
城壁上の構造物を衝き壊せます。
何しろ、
「丸太があたって壊れない箇所がない」
というハナシです。
けっこうな重量があったと思われます。
そうなると、
車が進む先を版築のように突き固め、
沈まないようにしていたのでしょう。
城内は大きな楯を出して
丸太を防ごうとしたようですが、
攻車の重量を支えられるわけもなく、
焼け石に水だったようでした。
さーどうする? 韋孝寛?!
▼まさかの布。
韋孝寛のアタマが柔らかかったのか、
攻車の防禦術も定石があったのか、
あっと言う間に対策を編み出します。
アタマの切れる韋孝寛、
周囲の部下にこう言います。
「とりあえず、布を縫い合わせておっきな幕を作ってくれへん?」
『周書』韋孝寬伝
孝寬乃縫布為縵,
隨其所向則張設之。
布既懸於空中,
其車竟不能壞。
孝寬は乃ち布を縫いて縵を為り、
其の向かう所に隨いて則ち張りて之を設く。
布は既に空中に懸かり、
其の車は竟に壞す能わず。
ワケも分からず
布を縫い合わせるタフガイたち。
玉壁に将兵の妻子がいたか
分かりませんが、
たぶんいたと思うので、
婦女子で縫い合わせた
のかも知れません。
おっきな幕ができました。
韋孝寛はその幕の四隅を広げ、
丸太の前に突き出せるようにしました。
それで、
突っ込んでくる丸太を
ポヨンと受け止めます。
固いモノなら丸太で破壊できますが、
布で柔らかく受け止められると
丸太は十分な破壊力を発揮できません。
それに、攻車は重いので
方向転換に時間がかかります。
他の場所を攻めようとすると、
そちらに布を張られてしまう。
結局、
たかだか布に攻車は無効化されました。
残念。
▼攻車をムダにしちゃダメ! 布を何とかしちゃいなYO!!
布ピラ一枚で無力化された大攻車は、
戦場にぽつねんと放置されざるを得ません。
しかし、
けっこうな費用がかかっております。
ムダにするわけには参りません。
高歓は布ピラを何とかするべく、攻略を命じます。
『周書』韋孝寬伝
城外又縛松於竿,
灌油加火,
規以燒布,
并欲焚樓。
城外は又た松を竿に縛り、
油を灌ぎて火を加え、
規して以て布を燒き、
并せて樓を焚かんと欲す。
布ピラに対抗するべく、
東魏軍は知恵を絞りました。
出た結論は「焼け」。
長い竿に松の枝を縛りつけ、
そこに油を注いだ布をグルグル巻きます。
火をつけると
布ピラ対策兵器「火竿」の完成です!
フェイントで攻車を向けると、
城内は「はいはい」という感じで
布ピラを広げます。
そこに登場する火竿。
布ピラを燃やすだけでなく、
一緒に木を縛った楼閣も焼き払っちゃうよ、
くらいの勢いです。
さすが火竿!
東魏の最新兵器「火竿」を見た韋孝寛も
対策を練りました。
『周書』韋孝寬伝
孝寬復長作鐵鈎,
利其鋒刃,
火竿來,
以鈎遙割之,
松麻俱落。
孝寬は復た長く鐵鈎を作り、
其の鋒刃を利ぐ。
火竿の來らば、
鈎を以て遙かに之を割り、
松麻は俱に落つ。
鉄で鉤、
つまり、
鎌みたいなのを造ってシャコシャコ磨ぎ、
鋭利な刃物とします。
それを長い竿につけ、
火竿が来れば鎌で松の枝や布を切り落とします。
燃える松と布がハラハラと地に落ち、
火竿はただの竿と化しました。
それからは、
東魏の攻車&火竿 VS 西魏の布ピラ&鎌
の戦いになりますが、
結局は攻車の動きが遅いので、勝敗は明らかです。
高歓はまーた、
次の策を考えなくてはならなくなりました。
▼あの素晴らしい城壁崩壊をもう一度。
過去に高歓が攻め落とした城で最大のものは、
14年前の中興元年(532)一月、
爾朱氏からの離反を決意して攻めた鄴でした。
この時は衝撃的な攻城法をとり、
約2ヶ月ほどで陥れています。
人間は過去の成功事例に捉われ、
高歓もその例外ではありません。
イノベーションのジレンマ。
鄴攻めの再現を狙ったのです。
『周書』韋孝寬伝
外又於城四面穿地,
作二十一道,分為四路,
於其中各施梁柱,
作訖,以油灌柱,
放火燒之,
柱折,城並崩壞。
外は又た城の四面に地を穿ちて
二十一道を作し、分かちて四路と為す。
其の中に各々梁柱を施し、
作り訖らば,油を以て柱に灌ぎ、
火を放ちて之を燒く。
柱は折れ、城は並びに崩壞せり。
ゴチャゴチャ書いていますが、
玉壁の城壁下に21本の地下道を掘りました。
その際、
城壁の下には柱を立てておいたのですね。
これで、
地下道を掘っている間は
城壁が崩落したりはしません。
城壁が崩落するくらいに地下道を掘り終えると、
その柱に油をブッカケて火を放ちます。
焼けた柱が城壁を支えきれなくなると、
一気に崩落します。
ここを先途と攻め込んで落としたのが、
鄴攻めでした。
しかし、
この攻城法を韋孝寛は事前に知り、
警戒していたようです。
『周書』韋孝寬伝
孝寬又隨崩處
竪木柵以扞之,
敵不得入。
孝寬は又た崩るる處に隨いて
木柵を竪てて以て之を扞ぎ、
敵は入るを得ず。
事前に東魏軍が狙ってくる場所を予想し、
木柵を用意していました。
城壁が崩落した箇所に木柵を建てて侵入を防ぎ、
結果として高歓の狙いは阻まれてしまいます。
それでも諦めない高歓は、
その後も地味な小細工をいくつか弄したようです。
『周書』韋孝寬伝
城外盡其攻擊之術,
孝寬咸拒破之。
城外は其の攻擊の術を盡くすも、
孝寬は咸な拒みて之を破る。
しかし、いずれも韋孝寛に阻まれ、
高歓は玉壁城外に釘付けにされてしまいます。
えーっと、
そんな大軍なら、
別軍に玉壁を包囲して身動きできなくし、
本軍は蒲坂に向かえばよかったのでは?
この声は高歓に届くことはありませんでした。
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