韋孝寛⑩玉壁争奪戦Round1

▼もっこり土山で捕まえて。


九月に玉壁の包囲にかかった東魏軍ですが、

ここからは

攻める高歓と守る韋孝寛による

知恵比べの様相を呈します。


それでは、

神武とおくりなされた高歓の攻城戦と

応じる韋孝寛のお手並みを拝見しましょう。



『周書』韋孝寬伝

連營數十里,至於城下,

乃於城南起土山,

欲乘之以入。

當其山處,

城上先有兩高樓。

孝寬更縛木接之,

命極高峻,

多積戰具以禦之。


 營を連ぬること數十里して城下に至り、

 乃ち城南に土山を起こし、

 之に乘りて以て入らんと欲す。

 其の山の處に當り、

 城上に先に兩つの高樓有り。

 孝寬は更に木を縛りて之に接ぎ、

 命じて高峻を極めしめ、

 多く戰具を積みて以て之を禦ぐ。



東魏の軍勢はさすがの大軍、

玉壁の城下まで数十里に渡り

軍営が連なっていたようです。


「数十里に渡って軍営を連ねた」と聞くと、

そんな軍営を火計で焼き払われてしまい、

多くの人材を失ってから白帝城で世を去った

昭烈帝=劉備を思い出しますが、

今回は焼き払われる危惧はなかったらしい。


援軍が来ればその限りではないのですが、

宇文泰は関中で東魏軍に備えておりました。


玉壁を包囲した東魏軍は、

城南に土山を造って城への侵入を図ります。

すなわち、

城壁近くに山を造って城壁を越えようとした。


その土山を造ったところは、

楼閣があった場所のようです。


楼閣の奪取も狙いだったのでしょう。


一方、

韋孝寛は楼閣に木を接いで高くします。

こうすれば、

常に土山を見下ろして攻撃できます。


さらに、

楼閣に戦具を集めて攻撃を防いだとあります。

おそらく、

上から落とす岩や弓弩を揃えていたのでしょう。

こうなると、土山の上の東魏兵は恰好の的です。


矢雨やらなんやらを降らされては、

土山から城壁に攻め入ることもできません。


そのため、

せっかく造った土山ですが、

あまり活用できませんでした。


せっかくモッコリさせたのに!



▼バトル・イン・地下道。


城南のモッコリ土山を活かせず傷心の高歓、

気持ちを切り替えて次の攻め方を考えます。


『周書』韋孝寬伝

齊神武使謂城中曰:

「縱爾縛樓至天,

我會穿城取爾。」

遂於城南鑿地道。

又於城北起土山,

攻具,晝夜不息。


 齊神武の使いは城中に謂いて曰わく、

 「縱し爾が樓を縛りて天に至らば、

 我は會ず城を穿ちて爾を取らん」と。

 遂に城南に地道を鑿つ。

 又た城北に土山を起こし、

 攻具は晝夜息まず。



何を思ったか、

玉壁城に使者を遣わし、

韋孝寛に伝えさせました。


「オメエが木を縛って天まで届かせるつもりならよお、オレは地面を掘ってオメエを捕らえてやんよ!」


黙ってやりなさい。


宣言したとおり、

モッコリの後は穴掘りです。


東魏の兵が城南に地下道を掘り始めました。

地下道で城壁を越え、城内に兵を送り込む、

誰でも考えつく攻め方です。


ついでに、

城北にもう一つ土山をモッコリさせ、

激しく攻め立てます。こちらは陽動。


さて、

韋孝寛がどう応じたか、です。



『周書』韋孝寬伝

孝寬復掘長塹,要其地道,

仍飭戰士屯塹。

城外每穿至塹,

戰士即擒殺之。

又於塹外積柴貯火,

敵人有伏地道內者,

便下柴火,以皮韛吹之。

吹氣一衝,咸即灼爛。


 孝寬は復た長塹を掘りて其の地道を要え、

 仍りて戰士を飭えて塹に屯せしむ。

 城外の穿ちて塹に至る每に、

 戰士は即ち擒えて之を殺す。

 又た塹外に柴を積みて火を貯え、

 敵人の地道の內に伏す者有らば、

 便ち柴火を下して皮韛を以て之を吹く。

 吹氣の一たび衝くに、咸な即ち灼け爛る。



地下道からの侵入は古典的手法なので、

対策は『墨子』の頃に立案されています。


1000年遅い。


韋孝寛は城内に塹壕を掘りました。


東魏兵が地下道を掘り進むと、

突然にぽこっと先が抜けます。


気づいたら塹壕に出るようにしたのですね。


で、

そこには屈強なタフガイが配置されています。

地下道を掘り進んできた東魏兵のみなさん、

ここでタフガイに襲われてしまいます。


アッー。


よほど東魏兵が多かったのか、

イチイチ殺るのも面倒ですから、

地下道出口に燃え盛る柴を積み、

フイゴでもって強い風を起こし、

火と熱を送り込んでやったようです。


地下道に潜んで隙を窺う

東魏兵に逃げ場はなく、

こんがり焼き上げられます。


そうなると、

怖くて地下道なんて使えません。


結局、地下道からの侵入も

諦めざるを得ませんでしたとさ。

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