王思政(西魏)「忠義という名の下にメンヘラ気味」
王思政①ウス汚れたオトナのための「忠孝論」
▼王羆さん?王思政?尉遅迥=王軌=楽運
何だこのタイトル?
これから説明します。
『周書』では
ニコイチにされています。
つまり、一つの巻に同居。
『北史』では
といったフレンズも加わり、
にぎやかです。
尉遅迥?
王軌?
楽運?
誰だよ?
これから説明します。
知っている人もいるかもですが、
尉遅迥は北周宗室の宇文氏の姻戚です。
蜀を平定するという
老い先短い身ながら、
簒奪を図る
=後の隋の文帝
の前に立ちはだかったお方。
楊堅が放った対抗馬は
七十二歳の
敗れた尉遅迥は
合掌。
ちなみに、
勝者の韋孝寛も凱旋直後に死にます。
ドラマチック。
楊堅ツキまくり。
意味深。
この戦、
短い北周を論じる上では
最後の盛り上がりです。
しかも、
『隋唐演義』で活躍する
や
といった楊堅の腹心たちが暗躍し、
一大世代交代絵巻の感あり。
なかなか面白い。
さすがの「名将」韋孝寛も
ややモーロクしてますし。
&
の名残はこれで消え、
いよいよ隋唐時代よのお、
という感じです。
それより前に死んでいます。
世代的には尉遅迥より
一周り下なんですけどね。
宗室に連なる
とともに北周の武帝を支えた名臣、
武帝時代の鉄壁さがスゴイ。
しかし、
武帝の子の宣帝に疎まれ、
死を賜わりました。
粛清。
神挙と孝伯も右にならえ。
彼らの死により
楊堅が台頭する空白
が生まれたとも言えます。
その空白を作った下手人、
宣帝こそまさに逆神。
楽運はそんな宣帝を厳しく諌め、
当たり前のように左遷されました。
命があるだけありがたいと思え。
宣帝のタコっぷりは、
北周時代後半のオモシロさでして、
北齊を滅ぼして天下統一を企てた
パパン武帝の偉業を粉砕していきます。
武帝ファンは涙なしに読めません。
粛清に次ぐ粛清の上、
皇后を五人立ててみたり、
宦官を重用したり、
どこかの『続三国志演義』で見た
&
の暗君テンプレを忠実にナゾってくれます。
オリジナリティゼロ。
しかも、
皇后の父に楊堅みたいな大物もあり。
これで滅びなければウソ、
ってくらい正統派の暗君。
こうして見ると、
尉遅迥、王軌、楽運の3人に共通するのは、
「ムリ筋の忠義」の一語に尽きます。
人間味満載、陳情したら2秒でHitの
王羆さんとはやや毛色が違いますね。
そうすると、
王思政がその間をつなぐキーに、
なるのかなあ。
時間もあるし、
ちょっと見てみましょうか。
なんか興味薄っ。
▼史家のご意見と「忠孝」プロパガンダ
『周書』の列伝では王羆さんと同じく、
王思政にも評が付されています。
要するに、史家の評価ですね。
▽
王思政驅馳有事之秋,
慷慨功名之際。
及乎策名霸府,作鎮潁川,
設縈帶之險,修守禦之術,
以一城之眾,抗傾國之師,
率疲乏之兵,當勁勇之卒,
猶能亟摧大敵,屢建奇功。
忠節冠於本朝,義聲動於隣聽。
雖運窮事蹙,城陷身囚,
壯志高風,亦足奮於百世矣。
王思政は有事の秋に驅馳し、
功名の際に慷慨せり。
霸府に策名するに及びて鎮を潁川に作し、
縈帶の險を設けて守禦の術を修め、
一城の衆を以て傾國の師に抗い、
疲乏の兵を率いて勁勇の卒に當り、
猶お能く亟ち大敵を摧いて屢々奇功を建つ。
忠節は本朝に冠たり、義聲は隣聽を動す。
運窮して事は蹙み、城陷り身は囚わると雖も、
壯志は高風にして亦た百世を奮わすに足れり。
△
ざっと訳してみましょう。
王思政は有事の際に活躍し、
功名を立てる機に
宇文泰の覇府に名を連ねるや
険要の地を占めて敵を防ぐ策を講じ、
たった一城の軍勢で東魏の大軍を拒み、
疲弊した寡兵で強盛な大軍を迎えて
度々奇功を挙げた。
その忠節は中国に冠たるものであり、
その名声は聞く者の心を動かす。
武運拙く時勢は窮し、城は陥って身は虜囚となるも
その壮志は高く、
百世の後の人々をも感奮させるに足ろう。
激賞。
王羆さんは「TENGAじゃない」ってことで
減点されていましたが、それもなし。
「百世を奮わすに足れり」とか相当ですよ。
当時の士大夫がもっとも欲した言葉の一つ、
なんじゃないですかね。
彼らは後世の評価を気にしますから。
それくらいの激賞。
ちなみに当時とは唐代初めくらいになります。
編纂時期がそれくらいなんで。
『北史』成立時期の事情を考えてみますと、
歴史大好き唐太宗=
編纂は
たぶん「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」で
虎になった
この時期、
『晋書』
『北史』
『南史』
『北齊書』
『周書』
など河北王朝の正史が編纂されました。
『晋書』は河北王朝ではない?
いやいや、五胡十六国の記事は
『晋書』載記にまとめられています。
『晋書』も含めないと、
河北王朝の始末は分かりません。
ちなみに、
河北を統一した北魏=拓跋魏=元魏は
北齊の頃に
『魏書』にまとめております。
だから、
西魏の人たちは『魏書』に伝がありません。
東魏を正統とする齊からしたら逆賊ですから。
さすが魏収さん、世渡り上手です。
ワイロ&袖の下で捏造曲筆ドンと来いの
オモシロ史家ですが、一応は正史です。
実際、
読んでみると『魏書』はオモシロいです。
ってほとんど誰も共感できねえ。
『北史』はちょっと特殊で、カバーする範囲は
『魏書』
『周書』
『北齊書』
『隋書』
とかぶるんですよね。
鮮卑の歴史と言っても過言では、、、
南北朝期の河北王朝詰め合わせです。
江南派には『南史』もあるでよ。
五胡十六国もやってくれたら
よかったんですけどねー。
ちっ。
で、
建国からそんなに時間が経っていない
唐王朝&仕える士大夫ズとしては、
安定第一です。
こういう時、
毎回都合よく持ち出されるのが、
みなさんご存知「忠孝」となります。
「忠孝」
心から腐った響きですね。
「君に忠にして親に孝」となると、
とっぱずれたことはデキんわけです。
イイ子、
安定、
保守、
中庸、
前例踏襲、
それが「忠孝」の近道ですからね。
そんなんじゃ、
「打倒!新王朝」
とか言い出せない。
ヤクザ気味の
奸雄自慢の
首が180度回る
恐妻家の
どう考えても「忠孝」とは言いがたいです。
マジメな
なんで、
みんなが「忠孝」を大事にすると嬉しい、
少なくとも唐王朝&士大夫ズとしては。
そういう事情があり、
いつの時代もそうなんですけど、
正史では「忠孝」を称揚します。
それこそ、「これでもか」って感じで。
別に、
「忠孝」には実用的意義もあったのですが、
それは史書が称揚する目的ではないので割愛。
地縁・血縁・門閥って素晴らしい。
国家を安定させたい。
国家の安定のため上に逆らわない人を増やしたい。
上に逆らわない人を増やすには
「忠孝」を奉じる人を増やせばいい。
「忠孝」を奉じる人を増やすには
「忠孝」に憧れる人を増やせばいい。
「忠孝」に憧れさせるには
「忠孝だと後世にも称賛されますよ!」
と宣伝すればいい。
そういう理屈で正史は「忠孝」を称揚し、
「忠孝=美」
という図式を浸透させたようにも思えます。
断言はできませんけど。
忠臣ってカッコイイじゃないですか。
それが国家にもありがたかった。
もしかすると、
国家にとってありがたいから、
忠臣=カッコイイ
になったのかも知れませんよ。
読む方が無意識に染まっている可能性は、
ありますよねえ。
このあたり、
気をつけた方が歴史を読む際には
虚心になれるように思うのです。
少なくとも、
忠臣じゃない人にも
ひとかどの人物はいたわけで、
道義的にどうこうは抜いても
クレバーだったりするわけですよ。
みんな大好き曹操とか。
だから、
「忠孝」概念だけで人を評価すると、
けっこう色々と失敗する気がします。
平板でつまんねーんだよ、
という意見もありますし。
で、
王思政に対する史家の評を見ると、
忠節は本朝に冠たり、義聲は隣聽を動す。
「忠義ッスねえ」
壯志は高風にして亦た百世を奮わすに足れり。
「後世に称揚されてますねえ」
モロにプロパガンダちゃいますか、これ。
もちろん、
唐初の士大夫ズが王思政の忠義を
高く評価したことは事実なわけですけど、
それ自体がポジショントークなわけです。
さらに、
『北史』で詰め合わされた
尉遅迥
王軌
楽運
を考えるとですね、
尉遅迥 =簒奪目前の隋文帝に抗った
王軌&楽運 =北周のアホ宣帝に抗った
※宇文神挙と宇文孝伯は北周宗室なのでそっち。
王羆 =高歓の大軍に抗った
「勝ち目はほぼないけど忠義に従って抗った人々
(王羆さんは動機が忠義なのかはかなり微妙)」
の詰め合わせの観があります。
尉遅迥と一緒に挙兵した
や
が入らない理由は何だろうなあ。
まあいいや。
実際今でも
「忠孝プロパガンダ」は現役続行中で、
「忠」と「不忠」なら前者を美しいと感じる、
それが一般的ですよね。
しかし、それは
「前者を美しいと感じる人が多い方が都合がいい」
事情があるわけです。
その事情により、
史書や物語などで「忠孝は美しい」と
刷り込んできたわけでして、
別に「国家に忠」が無条件に美しい、
わけではないです。
「正しい」「美しい」は
時代により変わるものですからね。
それでは次回から、
「忠義に従って抗う人」
王思政が何に抗ったかを
悪意にあふれた目で
観ていきたいと思います。
オマエ、
実は王思政のこと好きじゃなくない?
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