第131話 ラナスティ → 再起動

 ラナスティさんはシルフィほど立派ではないけれど、それでも思春期になりつつある僕にはちょっと刺激が強い柔らかさのものを押し付けてくるので、少し困ってしまった。

 でも、ラナスティさんの様子からは本当に僕たちに謝ってくれているのが伝わってくる。だけど、僕たちは自分たちで冒険者になるためにここに来て、自分たちの責任で行動して活動しているんだ。父さんたちの知り合いにまたひとり出会えたことを喜ぶことはあっても、ラナスティさんを責めるような理由はないんだよ。


「ラナスティさん、僕たちは冒険者です。まだなりたてで右も左も分からないひよっこですから、いろんな人に助けてもらうこともあると思います。でも、助けてもらえることを当たり前だと思うような冒険者にはなりたくないです」


 そもそもラナスティさんに僕たちを助ける理由もないよね? 友達の子供だからってそこまでする義理も義務もないんだから。


「ふふっ……そうね。そうよ、冒険者はかくあるべきだわ。でも、その融通のきかなそうなお堅いところはガードンそっくり、間違いなくキミはガードンの子よ。だから、同じ面倒を繰り返さないために、いつかガードンに言った言葉をあなたにも言うわ」


 ラナスティさんは僕を腕の中から解放すると、僕の両肩に手を乗せて視線を合わせてくる。寝癖まじりの乱れた髪と、頬についた枕の跡はちょっと残念だけど、とっても美人さんだ。ほんの少し耳が細長いから、もしかしたらエルフかもあとで【鑑定】してみよう。

 ラナスティさんは真剣な顔で僕を見つめ、大きく息を吸うと僅かに口角を上げてから口を開く。


「私があなたを助けたいの。あなたに私の気持ちを否定する権利はない。だから大人しく助けられなさい。このことについて一切の反論は認めない、よ」

「は、はい!」


 有無を言わせないラナスティさんの、真っすぐぶつけられた強い言葉に僕は背筋を伸ばして素直に頷くしかできない。……たしかにこれなら父さんも抵抗は出来なかっただろうな。


「よし!」


 僕の返事を聞いた途端に、ほわっとした微笑みを浮かべて頷いたラナスティさんはすっくと立ちあがってゴートさんに向き直る。


「ゴート、迷惑をかけたわね」

「いや……もともとは俺の力不足もある。お互いさまだ」

「ガードンやマリシャたちが、生きていくのも困難な場所でこんな宝物を育んでいたのに私たちは……」

「そう悲観するな、俺たちとて何もしていなかったわけではない」

「……そう。わかったわ後で詳しく現状を教えてちょうだい」

「わかった。だが、お前はまず身だしなみを整えてこい。話はそれからだ」

「え?」


 ゴートさんがラナスティさんを上から下まで眺めて大きな溜息を漏らす。さっきの乱れた髪やほっぺの寝跡に加えて、適当に羽織ったローブも乱れていて胸元からふくらみがこぼれそうになっているし、白い太ももも片方丸見えになっている。うん、眼福……とタツマが言っています。ぼ、僕はそんなこと思ってないよ。


「あら、私は気にしないけれど……キミには刺激が強かったみたいね。ふふ、顔が赤いわよ。ガードンは堅物であんまり反応してくれなかったけど、これはちょっと新鮮ね」


 胸元を強調しながら楽しそうに笑いをこぼすラナスティさんに見惚れていると脇腹に強烈な痛みが走る。


「りゅーちゃん!」

「あう! 痛いよ、リミ! べ、べ別に見てないってば!」

「ふふ、みんな可愛いわ」


 身をよじりながら脇腹をつねるリミから逃れる僕たちを見ているラナスティさんは楽しそうだけど、被害を受ける僕の身にもなってほしい。


「といってもこれじゃ話にならないわね。ボウロ! ナーナはいる? いたら手伝いに寄こすように言ってちょうだい。それから従業員用の食堂に6人分の食事をお願いね」

「はい! ラナスティ様!」


 受付のほうからボウロさんの嬉しそうな声が聞こえてくる。ラナスティさんが部屋から出てきたのがボウロさんも嬉しいらしい。どれだけ引きこもっていたのだろう。


「ごめんなさいね、ちょっと時間をもらうわ。そこの食堂で待っていてもらえる? いろいろ話を聞かせてちょうだい。こちらから話しておかなくてはならないこともありそうだし」

「はい、わかりました」 


 このあと、僕たちはどうして父さんたちがこの街を出て、ポルック村を作ろうとしたのか。ゴートさんたちがなぜ僕たちを守ろうとするのか……おそらくあえて父さんたちが教えてくれなかったであろう真実を知ることになる。

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