書くことがない
えのき
書くことがない
文章を書いてみたい。でも書くことがない。どうやって書けばいいのですか。
とにかく書けばいい。いいから書け。
なるほど、じゃあ何を書けばいいのですか。
なんでもいいから書け。書けないなんてことはない。もし書けないなら、もうそれで書けないという内容のことを書けるではないか。
書ける、確かに書ける。
そんな内容でいいなら書ける。ではそのあとに何を書こう。なぜ書きたくなったのかを書けばいいのか。なぜ書きたくなったのか。
書くことは、やっぱり自分を残すことだ。でも自分に何があるのだろう。残すほどのことが自分にあるのだろうか。
無いかもしれない。
ではやはり書かなくてもよいのか。でも待てよ。
書きたいという思いのみで文章を書くなんてことは大抵の人にはできないことだ。だから、ほとんどの人は書きたいと思っても書かないのだ。
なら私はそれを書こう。ここで何も書くべきことがない、少なくとも見当たらない私が文章を書くこと、それだけでも、人とは違う自分を残せたことになる。
書けた。書けた書けた。ついに文章が書けたぞ。しかもほとんどの人が書けない文章だ。
文章を書ける人はこんな内容を書かないし、書けない人はそもそも書かないだろう。
でも、この文章に価値がありますか。
内容は、書きたい、書けない、書く、書けた、だ。あえて言うなら豪華な五段活用だ。でもただそれだけ。感動する愛の物語も、息を飲むスリルも、はっと目の前が開ける知識も、何も無い。
そんな文章の価値は無いに決まっている。
では、この文章はなんのために書かれたのか。読まれることもなく、心に残ることもなく、ただそこに漂うだけの文章。なんにもありゃしない。
しかし原点はとにかく書くことだった。いいから書く、とにかく書く。
そのことに対しての書くという行為が成功する事例としての価値はあるかもしれない。
これは書くことがないがそれ自体ですら書けるという実例としての価値を持った。やった。
私は価値のある文章を書けた。これこそが私の文章、創作物だ。何も無くても書ける。価値が生まれる。
そんな喜びだってある。文章は楽しい!
書くことがない えのき @enoki_fugue
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