女流騎士ミナリー ②
ミナリーは魔法戦争のことが書かれている魔法戦記を読む。
この前読んだ歴史書とは別物だ。
魔王ジェナスの描写が引っかかった。
“黒い影が大きくなり、都市を飲みこんで行く”
まるで、自分が見た夢と一緒だ。ミナリーは魔法戦記を凝視する。
ハヤテがやってきた。
「魔法戦記を読んでいるのか?」
「別にいいじゃない。アンタには関係ないでしょう」
「どれどれ?」
ハヤテがミナリーに近づく。ハヤテの近さにミナリーは恥ずかしくなる。
ハヤテの顔はかっこいい。ミナリーは顔だけだと思い、心の中で言い聞かせた。
ハヤテはミナリーと目が合う。
「なんだ?どうした?」
「いや、ハヤテはなんで、魔法使いを嫌っているの?」
ハヤテは苦い表情を浮かべる。心の底から嫌がっているように見えた。
「悪いやつらばかりだ。魔法使いなんてのは」
「なんで?どうして?」
「悪いやつだから、ジェナスは封印された」
「そうかもしれないけど、魔法使いは」
ハヤテは遮る。
「だから、魔法は災いをもたらす」
ハヤテは暗い声色だった。
その時だ。物凄い強い風が吹く。
ミナリーとハヤテは飛ばされそうになる。
ハヤテはミナリーを抱き支える。
ハヤテは何かをつぶやいていた。
そんなハヤテをミナリーは少し、恐く思った。
黒い影がもくもくと現れてきた。
“やっと外に出られた。ふふふふ”
ミナリーはその影が何者かわからなかった。
ただ、夢に出てきた影に似ているように思えた。
「これは、一体何?」
「魔王ジェナス……だよ」
「え?」
ハヤテは再び、何かを唱えている。
今度ははっきりと聞こえた。
「アイラスヤキグントレイホダイ」
ハヤテが唱え終わると、手のひらから光が出て、その黒い影の魔王ジェナスを攻撃した。
「どういうこと?ハヤテは魔法使いなの?」
「今はそんな問いに応えている暇はない。お前は剣を持っていないのか?」
「どういうこと?剣って」
ミナリーはこの前、拾った剣を思い出した。
あの剣が封印を解いてしまったのか。
ミナリー混乱した。
「お前がこの森で拾ったやつだ。その際の抜き方が悪かったみたいだな。ついでに封印まで解いてしまったらしいな。お前の剣は間違いなく、魔法戦争で青バラの騎士団の騎士団長が使っていたものだ」
「はぁああ?」
「お前がその剣を抜くことができたなら、お前はその力が目覚めたってことだ」
ハヤテはミナリーを見つめた。ミナリーは目をそらした。
決して、カッコイイなんて思わない。ミナリーは自分に言い聞かした。
”何を言っている。ハヤテ。お前は”
「うるさい!」
ハヤテは魔王ジェナスの言葉を遮る。更に魔王ジェナスに向かって攻撃した。
「俺がコイツを相手している間に、お前は剣を取ってこい。いいな!」
「わ、わかった」
「よし、いい子だ」
ハヤテの表情に、ミナリーは感じたことない感情が芽生えた。
気のせいだと思い、ミナリーは急いで家に向かう。
家に向かっていく途中、クイナに心配をかけるわけにはいかないと思った。
ミナリーはやはり、家の裏口から入る。
クイナは食事の準備で台所に居て、気づかなかった。
ミナリーは自身のベッドの下に置いた剣を手に取る。
ハヤテを助けなくてはいけない。
ミナリーは急いでハヤテのいる場所に向かう。
ミナリーはやっとのことで、ハヤテもとについた。
けれど、黒い影の魔王ジェナスの姿はない。
どういうことだろう。
ミナリーはハヤテに近づく。
「お待たせ」
ハヤテの様子が可笑しい。ハヤテは笑う。
「やっと来たか。アイラの娘。この時を待っていた」
ハヤテはミナリーの首を掴み、締め始める。
ミナリーは抵抗するも、びくりともしない。
「魔王ジェ……ナスなの?」
「ああ、そうだ。お前はアイラの娘だから殺す」
魔王ジェナスに乗っ取られたハヤテは邪悪な笑みを浮かべている。
「ハヤテを返して!ハヤテ!目を覚まして!」
「無駄だ」
乗っ取られたハヤテはミナリーに
ミナリーは持ってきた剣を一振りした。乗っ取られたハヤテはミナリーから離れた。
「おのれ………」
乗っ取られたハヤテの目には黒々とした
ミナリーは剣を握った。
ミナリーは乗っ取られたハヤテと
乗っ取られたハヤテが笑う。
「お前は、この体の持ち主のハヤテが好きか?」
「何を言っているの?」
「好きかどうかを聞いている?」
「そんなの貴方には関係ない!」
「今ハヤテを自由にできるのは俺だ」
「だったら、ハヤテから出ていきなさい!」
ミナリーが恐れることはなかった。恐れはいつの間にか消えていた。
ミナリーにはそれがはっきりと解った。
乗っ取られたハヤテは少し沈黙し、再び笑い出した。
「ふははははは。それはできない。この体は若くて丁度いい。だから、アエラの娘のお前をこの体で殺す」
「できるかしらね」
ミナリーは鼻で笑った。
剣を使ったことはない。
けれど、ミナリーに流れる血は、剣の使い方を知っていた。
乗っ取られたハヤテに向かって剣を振る。
避けられてしまった。
乗っ取られたハヤテは呪文を唱え始める。
「ハヤテは、魔法使いだったのね」
「ああ。そうだ。ちなみにこのジェナスの子孫さ。お前の天敵かもしれないな」
乗っ取られたハヤテが言った。ミナリーは衝撃を受ける。
ハヤテが魔王ジェナスの子孫?
「……本当なの?」
「だから、コイツに世界を乗っ取ってもらおうと思っていたんだよ。俺はずっとハヤテの心の中に話しかけていた。けれど、ハヤテはそれを無視した。そんな時に、お前がミスして封印を破ってくれて助かったよ」
「……っ」ミナリーは何も言えなくなった。
「余分な話をしたな。お前はここで死ねぇ」
乗っ取られたハヤテが再び、呪文を唱える。ミナリーはどうするべきか、瞬時に考えた。
ハヤテの目を覚ます方法が見当たらない。
一瞬よぎった考えに寒気がする。
この剣でハヤテを刺せば、戻るだろうか。
ハヤテは死ぬかもしれない。
ミナリーはイチかバチかを掛ける。
「ハヤテ………。目を覚まして!」
ミナリーはハヤテの胸を目掛けて剣を刺した。
”うっ………”
黒い影の魔王ジェナスがハヤテから飛び出るのが見えた。
”お、覚えてろ………”
黒い影の魔王ジェナスは、次第に影が薄くなり消えた。
ミナリーはハヤテの症状を見る。不思議なことにハヤテに刺した剣の傷はない。
出血の痕もなかった。ミナリーは安心する。
「ハヤテ、しっかりして」
「………っ」
ハヤテは息を吹き返す。ミナリーは安堵した。
「よかった」
「……ミナリー?」
目を覚ましたハヤテは微笑んだ。ミナリーは驚く。
ミナリーはハヤテを抱きしめた。
「?なんだ?どうした、ミナリー」
「ごめん。本当に無事でよかった」
「大げさだな」
ミナリーはハヤテが無事であることに胸がいっぱいになった。
ハヤテはゆっくり、途切れ途切れに話し始める。
「さっきも……聞いたと思うが。俺は魔王ジェナスの子孫だ。お前は騎士の血筋。相対するもの同士だ。けれど、俺は……お前が好きだ」
ミナリーは突然の告白に戸惑う。
ハヤテの顔は見えない。
ミナリーは抱きしめているハヤテから離そうとする。
しかし、ハヤテはそれを許さずミナリーを強く抱きしめた。
「お前が俺を嫌っていても構わない。今は少しだけ、そのままでいてくれ」
ミナリーはハヤテの鼓動の音が聞こえ、自身の音と重なっていくのを感じた。
「私、その」
「今だけは拒絶の言葉を聞きたくない」
「違う。私もハヤテが…好き」
ハヤテは抱きしめる力を強めた。ミナリーは恥ずかしくなってくる。
「ちょっと苦しい。ハヤテ」
「いいじゃん。ちょっとくらい」
「ちょっと、誰かが来たら困る」
ミナリーは慌てて、ハヤテから離れようとする。ハヤテは微笑みながら、離れた。
「これからも俺と一緒にいてほしい」
「ハヤテとやっていけるのは私くらいかもね!」
「言うな~ミナリーは」
「当然!」
たとえ相対する騎士と魔法使いでも、自分たちなら乗り越えられる。
ミナリーはハヤテの見たことない表情を見て、そう思った。
ミナリーはハヤテの笑顔をずっと見ていたいと思った。
騎士と魔法使いのその後は、また別の話。
女流騎士ミナリー ②(了)
女流騎士ミナリー ①、② 製作時間85分48秒
女流騎士 ミナリー 深月珂冶 @kai_fukaduki
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