女流騎士 ミナリー

深月珂冶

女流騎士ミナリー ①

とある世界の、とある都市のことだ。

その都市では人間、魔法使い、騎士が住んでいた。


魔法は有難いもので、生活を豊かにした。

魔法使いの中でも、強力な力を持つ魔王ジェナスは人間と騎士たちと対立をしていた。


魔王ジェナスは、【魔法使い】を“純血じゅんけつの者”だけのものにしたがった。


しかし、混血児や人間、騎士たちは反発。

そのことにより、魔法戦争が始まった。

戦争は長きにわたり起こり、沢山の命が奪われた。


その都市を統治する王、ライナスはジェナスを剣で殺害し、魔法は闇に葬られた。

その後、ライナスはジェナスを封印し、魔法戦争は終結。


それから二十年が経過しても、その都市は平和の一途をたどった。


ミナリーは歴史書を読んでいた。

魔法と騎士の剣が対立し、熾烈しれつな戦争が描かれた歴史書。

ミナリーはそれに魅了された。

今でも魔法があったら、どんなに楽しいだろうか。

ミナリーは本を閉じてうっとりした。


「おい。何やっているんだ?」


幼馴染のハヤテがミナリーのところにやってきた。

ミナリーはハヤテに気がつくと、嫌そうな顔をする。


「あなたが嫌いな歴史書よ」

「歴史書か。また魔法使いに憧れているのか?」


ハヤテは魔法使いを嫌っている。

ミナリーはハヤテの魔法使い批判を聞きたくないと思った。


「大体、魔法なんてのは」

「やめて」

「何だよ?」

「どうせ、魔法使い批判でしょう?」

「本当のことを言っているんだよ。まったく」

「聞きたくないわ」


ミナリーはハヤテに背を向けた。ハヤテは言う。


「魔法使いなんてのはロクなものじゃない」

「あなたに何がわかるの?」


ミナリーは自分の家に帰った。分からず屋のハヤテにいらった。

家に帰ると、おばあさんのクイナが出迎える。


「どうしたの?ミナリー。またハヤテくんと喧嘩したの?」

「だって、ハヤテが魔法使いのことを悪く言うから」

「そう。でも、無理もないわ」


ミナリーはクイナが、ハヤテの味方をしているように見えて不満に思った。


「どうして?魔法自体は沢山の夢を与えてくれるわ」


クイナはミナリーの言葉を聞いて、苦い表情をした。ミナリーは嫌な気分になる。


「魔法使いにだって、いい人はいたはずよ!」

「ミナリー。落ち着いて聞いて。今は魔法使いなんていないの。悪い魔法使いは封じ込められたから」

「なんで、そんなことを言うの!」

「魔王ジェナスは悪い魔法使い。その子孫だってもしかしたら」

「それは違うんじゃないの?だって、その子孫は関係ないじゃない」


ミナリーはクイナの言葉を遮って反論した。しかし、クイナは恐い顔をした。


「違うわ」


クイナは強く否定した。


「何で。そんなに目のかたきにしているの?」


クイナはため息をつく。


「貴女に言っていなかったけど、あなたの本当の母親のアイラは、魔法戦争で青バラの騎士団の団長だったのよ」


ミナリーは衝撃で本を落とす。


「どういうこと?」

「あなたの死んだ母はその戦争で、負傷し、後遺症が残った。貴女を妊娠したとき、体力無かった。貴女を生んで死んだのよ」

「なんで、黙っていたの?」

「言う機会を逃していたのよ。けれど、貴女はもう十七歳」

「言っている意味が解らないわ。じゃあ、私は魔法使いと相対する存在?」


ミナリーは混乱している。クイナはミナリーを真剣に見て言う。


「驚くのも無理は無いわ。貴女には純血の騎士の血が流れ、剣を操る才能があるのよ」


ミナリーはにわかにクイナの言葉が信じられなかった。


「クイナの意地悪!」

「ちょっと待ちなさい!」


ミナリーは家を飛び出した。夢中で走り続け、森の奥まで入ってしまう。

森の奥に入るのは初めてのことだった。



静かな森に風吹く。森は昼間なのに暗い。

ミナリーは少し震える。

普段、クイナから森の奥に入ってはいけないと注意されていた。

その理由を教えてもらったことはないのだ。

ミナリーは息を飲む。

森の風は強くなっていく。ミナリーの頭をなでるように風が吹く。

ミナリーは驚いた。


何かの咆哮ほうこうが聞こえてくる。

ミナリーは聞こえてくる方向へ行く。

ミナリーは木の下に行くと、剣を見つけた。

剣は木の根に絡まっていて、取れなさそうだった。

ミナリーは吸い寄せられるように、その剣に触る。

力を込めて、引っ張ると剣は抜けたのだ。


金色に輝く剣は、重厚な作りで主人を選ぶような雰囲気さえ感じるものだった。

ミナリーはそれを振ってみる。意外と簡単に振ることができた。


ミナリーはクイナに見つからないように持ち帰ることにした。

こっそり家の裏口から自分の部屋に戻る。幸い、クイナは気づかない。

ミナリーが裏口から、自身の部屋に戻ってきたのは解ったらしく、クイナはドア越しに声を掛ける。


「ミナリー。帰ってきたの?」

「うん」


ミナリーは適当に返事をした。


「急に教えてごめんね」

「うんうん。いいよ」




クイナはミナリーの声色が落ち込んでいないことに安心する。


「いずれ、ミナリーは騎士としての血が目覚めるわ」


ミナリーはクイナのその言葉を聞いていなかった。

ミナリーは剣に触る。不思議な魅力の剣をベッドの下に仕舞う。


その日から、毎晩、ミナリーは夢を見るようになった。


黒い影が都市を襲い、沢山の人が死ぬ。

その都市を守るために自分が戦っている夢 だ。

森で拾った剣を使い、立ち向かう。

黒い影に覆われ、もう駄目だと思った瞬間に目が覚める。


ミナリーはその夢の続きが気になった。けれど、その夢の続きを見ることはなかった。

繰り返すだけだった。


女流騎士ミナリー① (了)

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