第1話 骸骨の世界へ

 何処か暖かい場所で重かった身体が軽くなっていく。春の陽気みたいな、ポカポカした暖かさ。もしかして生きているのかな。そう思ったけれど、瞼は全く上がらなかった。


 だんだん目が開くようになってきた。「あっ!目が覚めたみたい!」澄んでいる若々しい声が聞こえる。誰だろうと声のする方を見ると、なんと声の主は学校の人体模型と同じ位の骸骨がお洒落な紺色のブレザーを着て他の人がいるであろう方向に向かって喋っていた。驚きのあまり、「うわっ!」と叫んでしまった。ブレザーを着た骸骨がこちらを振り向くと、「大丈夫?」と私に優しく声をかけ、微笑んだ(原理は知らないが骨がぐにゃりと曲がった)。よく見ると可愛らしい青色のヘアピンが付いていた。もう私、ツッコまないぞ?口はまだ動かないので頭の中でそう思っていると、また新たな骸骨が来た。

「こら、龍海。目が覚めたばっかりの人に話しかけてはいけませんよ?」落ち着きのある大人のような声だった。医者のような白衣と赤い眼鏡を身につけている骸骨だが、息を飲み込む程、不思議な雰囲気が醸し出されていた。

「えぇー?何でダメなのぉー?大輝さぁん?」龍海と呼ばれた骸骨が白衣を着た大輝さんと呼ばれる骸骨に話しかけた。「『何で?』じゃなくて、突然話しかけたら、この人ビックリしますよ?そのままという珍しい状態でこの世界に来たんですし…」大輝さんと呼ばれる骸骨は困った顔をしながら言った。「あの…」私は思わず声をかけた。「あぁ、すみません。龍海が突然話しかけてきてしまって。」「僕が悪いみたいに言わないでよ!」大輝さんの発言に龍海がツッコむと(『と呼ばれる骸骨』と言うのはやめた)、「そう言えば、君の名前は?」と、龍海が聞いて来た。「私の名前は『舞津 涼花』です。」そう答えると、「涼花ちゃんかぁ!可愛い名前だね!」龍海は嬉しそうに笑った。すると、「自分の姿はわかっていますか?」と大輝さんが聞いて来た。まさか、私もこの人達と同じ骸骨に?と思い、近くにあった手鏡で自分の姿を見るとーーー、

 骸骨になっていなかった。むしろ、死ぬ前よりも髪の毛は深く綺麗な藍色になり、腰の辺り位まで伸び、目は澄んだ黄緑色をしていた。ここで私は「死んで良かったな。」と思ってしまった。「この世界に人間のままで来れる人は、ごく稀で珍しいんです。なので、人間のままの人を高値で売りさばいたりする極悪な輩が沢山います。そこで私達は人間のままの人を保護して輩から守る仕事をしているのです。」私が自分の姿を確認したのを見ると話し始めた。

 ちょっと整理すると、彼等は骸骨の姿にならずに、前の世界で言うところの『死後の世界』と呼ばれるこの世界へ来てしまった人を保護する団体、『HHPS』の一員だった。

『HHPS』という団体は、色々な特殊な能力を持った人達で結成されているらしい(敵に必ず勝てるようにだと)。一方、その輩と言うのは『HBC』の社員の事らしい。『HBC』は一般的には知られていないが、裏社会ではとても有名な企業で、さっき言った人身売買から、闇金まで幅広く取り扱っているが、至る所で『HBC』が上手く人を騙し、何も知らないその人に会社を立ち上げさせているので、本社は不明らしい。

「じゃあ、私も『HBC』に狙われるという事ですか?」私がそう尋ねると、「その通りです。でも、私達のいる所からこの世界へ来たので、すぐに保護出来ました。」大輝さんは優しい口調で答えた。「ねー!涼花ちゃんの手続きしないといけないんじゃないの!?」2人の話に取り残された龍海が大きな声で言った。「そうでしたね…忘れてました…」大輝さんはため息まじりの声で返した。「手続きでも、住居探しが1番大変なんですよね…費用がとてもかかったり…」大輝さんが話そうとすると、「そうだ!僕達の家で良いんじゃない?」

「「え?」」思いもよらない言葉に私と大輝さんは唖然とした。「一体、どうしたらそんな事が思い浮かぶんですか?」「そうですよね…」顔をしかめた大輝さんの言葉に相槌を打った。「とても良いアイディアです!」…えっ?ダメな方の言い方じゃなかったのか?

私の頭が真っ白になっている間にも大輝さんは手続きを進めていた。私に拒否権は無いのか…

「それでは、手続きも終わりましたし、涼花さんの体調が良ければ、私達の家へ行きましょうか。」「わ、わかりました…」大輝さんにそう言われ、起き上がる私の手を龍海がギュッと掴むと、「わぁーい!涼花ちゃんが僕達の家に来るー!」と言うと、嬉しそうに笑った。


骸骨の世界で骸骨とシェアハウスか…




どうなるんだろう、私の新たな人生は…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

骸骨の世界で生きる 夜迷 メア @yomayoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ