第34話 店員さんの夢

「夢、ですか?」

綺麗な店員さんが困惑した表情になる。

その店員さんに向けて、淡々と伝える。

「はい。あくまで、我々の仕事は夢を見せる仕事です。あなたの夢が叶う一助を行うことが事業内容となっていますので」

すかさず、優希から余計な横槍が入る。

「ちょっとー、何シラけること言ってるわけ?助けてあげなよ。みみっちぃ男はモテないよ」

いちいち、つっかかってくる女だ。つっかかり女に改名してやろうか。

優希を無視してお姉さんを真っ直ぐ見つめる。

「もし宜しければ、教えて頂けないでしょうか?」

お姉さんは少しの間、健太から視線を逸らした後に恐る恐るといった様子で答える。

「.....その夢の内容によって、依頼が破棄されたり、することはありませんか?」

「無い、とは言い切れません。ただ、基本的に夢とは目標のようなものです。目標を叶えるためには、今抱えている悩みの解消は不可欠だと思いますので、今回は依頼を引き受ける方向になるかと」

綺麗な店員さんに向けて、小さく笑みを作る。

「ですので、安心してお話し下さい。まー、今日会っただけの人間に全てを話すことは難しいと思うので、話せる範囲で大丈夫ですので」

そこまで説明すると、いくらか店員さんの表情も緩やかになったように思えた。願望かもしれないが。

「なるほど、わかりました」

店員さんは小さく頷くと、考える素振りを見せた後、健太の質問に答えた。


「私、実は女優になりたいんです」


おぉ!と優希が小さく感嘆の声を上げる。

「凄いですね!そんな大きな夢をお持ちだったんですか!絶対向いてますよ!」

さっき酔っ払いの演技してた奴が何言ってんだと言いたいところだったが、ぐっとこらえてお姉さんに声を掛ける。

「良い夢ですね。まぁ、夢に良いも悪いもないかと思いますが。お姉さんの夢が叶うよう、全力でサポートさせて頂きます」

お姉さんの揺らいだ瞳を見ながら伝える。

「あ、ありがとうございます!」

お姉さんから感謝の言葉を貰う。

ただ、ありがとうと言いたいのはこちらの方だ。そう言おうとしたら優希に先に言われた。

「ありがとう、なんてそんな.....私達はただ初仕事貰えてラッキー位にしか思ってませんから。依頼が完遂しましたら、今度は3人で飲みましょう」

「お前は自分が飲みたいだけだろ。飲んだくれ女。いや飲みったくり女」

「無理やりフォーマットに合わせようとしなくていいからね?」


こうして、夢見屋としての初仕事が始まるのだった。




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シラケン あめいろ @kou0251

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