選び取れないものたちは

死んで行くたびに俺は大切を奪ってしまう。けれどその度に何人も救っている。清算は取れているのだろうか。

そして今、俺の中に入っている【生】は誰のものだろうか。

地球のどこかの身寄りのない子だろうか。それともどこかに暮らしていた老人の灯火だろうか。はたまた身近な人間の時間だろうか。けれどもう関係ないのかもしれない。

なんせ俺の目の前には、失ってしまった者が立っている。

「どうして君は俺を殺そうとするの?」

俺は問う。失った者は殺すための道具を持って立ち止まる。

何も言わずにただ止まる。

「ただ恨みがあったから?大切なものを俺が奪ったから?それとも理不尽な殺人?」

失った少年は首を横に振る。

「じゃあ何で俺を殺す?」

少年は何もないように一歩を踏み出す。

「欲望のままに殺すならそれは生に対する冒涜だ。復讐のために殺すならそれは正当な悪行だ。奪った人間のためならばそれは全て勘違いだ」

少年は踏み出すことをやめなかった。虚ろになっていく目を見て思う。

彼は生きていないんだ。俺とは違う意味で死んでいる。【自分】に殺されている。そんな彼だからこそ俺を殺そうとするのだろう。自分が生きていると言う確証が欲しいから。

「そんな君に俺は殺されたくないよ」

殺すように伸ばしてくる手を抑え、殺すための道具を奪い取る。

抗うことに理由なんてない。俺が死んで彼が生きれるなら死んだほうがいい。

けれどこの生は俺のものじゃない。俺の自己満足で奪ってしまった誰かの生なんだ。

俺は彼に死を差し込んだ。

間違いない悪を働いた。

「さようなら、次は自分他人を愛してあげて」

赤が漏れ出す少年に呟いた。


痛みを吐き出す口を動かし彼は生を喜んだ。


それは悪者に吐く感謝呪詛の山。


————さようなら、ありがとう————

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死にゆく命の最終明言 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven

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