第7話 終わり

 夜更け。城の外が騒がしくて目を覚ますと、城の外には大勢の人間がいた。俺達がいる古城を嗅ぎつけた勇者の仲間、市民達が城を攻めてきたのだ。松明がゆらゆらと揺れ、それ自体が意思を持っているようにも思えてきて、背中がぞくりとした。


「おい、勇者。起きろ」

 呑気に寝ている勇者を叩き起す。

「遊びは終わりだ。来い」

 彼女の手を引き、城の一番高い位置まで浮かんで行く。


「愚かな人間共よ。この勇者を返して欲しくば、俺を倒しに来るが良い」

 そう言って、彼女の首元に短刀を突きつけた。当たるか当たらないか、寸前の位置で。

 彼女は俺を訝しげに見上げる。

「お前はもう用済みだ」

 きっと。俺が魔王でお前が勇者である限り、勇者と一緒にいる事は叶わないのだろう。このまま俺と一緒にいれば、彼女は魔王の俺と一緒に殺されてしまう。だからこれは……俺の最初で最後の彼女への礼で、気持ちだ。彼女に出会い、初めて魔王でない俺を見てくれようとした。それだけで俺は、満足だ。だから……サヨナラだ。


「共に逃げましょう」

「……は?」

「逃げましょう、と言ったんです」

 何を言い出すんだ、この人間は。

「私は……貴方に死んでほしくないのです」

「……なんだ、それは」

 人間が、しかも勇者が言う台詞じゃないだろう。そう思うのに。

 彼女は俺の返事も聞かず、俺の手を引き飛んだ。


「待て」

「逃げるな」

と、怒号が飛び交う中、俺は初めて笑う。


「お前は、やっぱりおかしな奴だな」

 おかしくて……愛おしい。彼女の手を握り返し、手を引く。彼女を横抱きにして、どこまでも続くような闇の中へと身を投じる。


 俺の生は、始まりから終わっていた。……そう、思っていた。だが、そうでも無いらしい。


 先の見えない闇の中に、ぽつりと。小さくも眩い光が見えた。……そんな気がした。


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魔王の恋は始まりから終わっていた @yo-ru

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