幸せとは・・・

 誰もいない屋上に風が吹いていた。その冷たさから、もう、夏ではないんだな、と実感する。

 岩木と小野田は戦友と話すために屋上に来ていた。

「勝手に作戦と違うことしてごめんね」

 小野田は柵に手を置き、街を見下ろして言った。

「あのスタッフロールは最初から流すつもりだったのか?」

 コクンと彼女は頷く。

「岸森くんへの復讐は岩木くんが罠にはめるだけで十分かな、って思ったんだ。

 それよりもエンドロールって本来、スタッフロールのことでしょ?そこが気になっちゃって。それにそっちの方が岸森くんの写真より、面白そうだから」

 彼女らしい、と岩木は思う。実際、彼女がスタッフロールを流したことで岩木たちは首の皮一枚繋がったわけだから、彼女の『面白そうだから』には感謝しなくてはならない。

「それなら俺に言ってくれても良かったのに」

「ダメだよ。そしたら、岩木くんをびっくりさせられないでしょ?」

 実に彼女らしい。

「なあ、小野田」岩木は彼女の背に呼びかける。

「何?」

「自己満足、できたか?」

 そう尋ねると彼女はくるりと振り返った。

「もちろん!!」


 その後、彼らはひとしきり笑った。

「えー、ちょっと、フフっ、これ岸森くん。すごい格好だね〜」

 やはり元祖宙吊り娘は岸森の宙吊り写真を見て大変お気に召したらしい。

「もう、この写真が岸森くんの黒歴史だね」

 彼女のいう通りだな、と岩木は思う。岸森のぶら下がる姿はSMプレイを連想させる。この変態写真がある限り、岸森も報復することはできないだろう。

「あれ、そういえば、岸森くん、今どうしてるの?」

「あっ」と岩木。「下ろすの忘れてた・・・」

 彼らは再び大笑いするのだった。


 気がつけば、太陽が傾き、あたりがオレンジに染まっていた。

 正門の方を見ると、帰路につく来場者の行列ができている。

「文化祭、終わっちゃうね」

 どこか寂しげに小野田がつぶやく。

「ああ」

 多分、そんな感傷的な雰囲気だったせいだ。岩木の口が思わず本音を滑り出してしまったのは。

「俺は、自己満足したな」

 小野田は岩木の顔を見る。

「なんか言った?」

 聞き取れなかったようだ。

「何にも」

「え〜、絶対何か言ったって。隠されると気になるじゃん!」

 せがむ小野田に岩木はとぼけてやる。

 たまには俺だって反撃するんだ。

 いつの間にか、岩木はいたずらっ子のように笑っていた。


                         [ fin. ]

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青くない春に僕たちは 下谷ゆう @U-ske

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ