弱者のエンドロール

 

 俺の負けだ。

 

 岩木は走っていた。途中、何度も人にぶつかり、「すみません」を連呼しながら。

 俺は何も出来なかった。ただの弱者だった。結局、俺は高一のときから何も変わっていなかったんだな。

 3年8組の教室にたどり着く。絶望の面持ちで彼はその扉を開けた。


 薄暗い教室。100人が押し込まれているので少々蒸し暑い。

 エンドロールはもう流れていた。静かで優しい音楽とともに。

 あれ、と岩木は思う。エンドロールの音楽はもっと陽気な音楽じゃなかったか?彼らの作戦では岸森の写真をすり替えるだけで音楽はそのままのはずだった。

 そして、岩木は驚くことになる。舞台に今流れている映像を見て。

 それは、元のエンドロールでも、岸森の愚行でもなかった。


『小宮駿』

 内装チーフ。

 今まで観客の皆様を驚かせ続けた仕掛け満載の舞台は全て彼の設計による。

 その設計過程は迫り来る納期と各部署の要求によって苦難を極めた。それでも、彼は設計を完成させた。自分の体を犠牲にしてまで。我がクラスの功労者。


 そこに写っていたのは、病室で恥ずかしそうに笑う小宮駿の写真と、彼の紹介文だった。

 スライドが切り替わる。


『雨宮千鶴』

 音響チーム所属。

 この夏に10以上の夏期講習をこなしながら、隙間時間を見つけて効果音のタイミングを暗記し・・・


『高梨広人』

 外装チーム所属。

 度重なる、「外装の電飾がなぜか消える問題」の原因究明をコツコツと続け・・・


 それはスタッフロールだった。キャストも『リーダー』も関係なく、全員分の。

 そして、岩木は自分の顔を目にする。その岩木はだいぶ不機嫌そうな顔をしていた。

 あれは岸森に納期延長を頼んで断られた後の・・・


『岩木京平』

 内装チーフ代理。

 チーフが倒れたことで急遽代理になる。この舞台を実際に作ったのはほぼ彼と言ってもいい。人手がほとんどないつらい状況でも、たった一人、ひたむきに木材と向き合った。愛想はないが、我がクラスにとって、かけがえのない人物。


 アイツめ。

 岩木は体の力が抜けるの感じた。

 そして、思わず笑ってしまった。

 お前の方がツンデレじゃないか。


 いつの間にか、教室にいた8組の生徒は涙を流していた。自分たちにスポットライトが当たると思ってなかったスタッフたちにとって、嬉しいサプライズだったのだろう。

 さてと、岩木はあたりを見回す。アイツはどんな顔をしてるかな? 

 そして、彼女を見つけた。

 小野田理恵は笑っていた。いつものように、いたずらっ子みたいな顔で。

 岩木もつられれて口元を緩める。

 

 そうだ、お前はその方がいい。

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