第4話
地獄だ・・・。
土曜の昼下がり、もうすぐ春が訪れようとしている三月の耳鼻咽喉科はとても混雑していた。決して大きいとは言えない正方形の待合室は、普段なら寒いほど空いているのだが、今日は部屋の四隅までぎっちりと人で埋まっていた。気休めのように流れているヒーリングミュージックは子供の鳴き声で全く意味を成していない。子供は嫌いではなかったが、今ばかりは睨んでしまいそうだ。何故子供というのは、こんなに煩いのだろう。泣き声、叫び声、喋り声、うめき声、まるで何か別の動物の鳴き声の様だ。こんな時、世のお母さんは凄いなあと尊敬する。私だったら、子供にわんさか泣かれたり、叫ばれたりしたら私の方が泣き叫びたくなってしまいそうだ。
鼻水が垂れてきたので、慌てて啜った。鼻をかもうと上着のポケットからティッシュを取り出すと、残り一枚しかなかった。仕方がない、この一枚で何とかかみきってみせよう。マスクを顎にずらして、ええい!と鼻をかんだは良いものの、私の花粉症はかなり酷いようで手持ちのティッシュだけでは収まりきらなかった。慌てて手のひらでティッシュと鼻を覆い、窓際に置かれている患者用箱ティッシュのもとへ向かう。一気に3枚ほど豪快に抜き取って、鼻に押しあてる。鼻の外で居場所を失っていた鼻水を全てティッシュに包んであげて、隣に置いてある水玉模様のくずかごに捨てた。ついでにポケットに詰め込んでいた少し湿っ気のある丸めたティッシュも捨てておく。なぜだか気分がスッキリした。人の気持ちと体の状態は連動しているのだろうか。今なら鼻も詰まっていないし、子供達にも優しい視線を投げかけてあげられそうだ。人間は意外と単純なのかもしれない。ティッシュを生み出してくれた人に感謝状を送りたい気分になった。贅沢保湿とか、鼻セレブとか、鼻に優しいティッシュを生み出してくれた人にも感謝状を送りたい。マスクを定位置に戻す。マスクの下で少し微笑んだ。
或17歳 小嶋 @sorrow_fin
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