淀――①

迅護じんご、ご飯できたよ」


 古書店ジーニアスの台所で昼食の皿うどんを調理していた御依里みよりは、畳部屋のちゃぶ台の上に皿を置きながら、壁に背を預けて上の空な様子で障子をじっとみている迅護に声を掛けた。

 しかし迅護は返事もすること無く、そこから動きもしない。


(まったくもう……)


 御依里はあきれたような顔で、プスーと鼻息を吹き出すと、迅護を無視して両手を合わせ、一人で食事を始めた。


「いただきまぁす」


 とろみの付いた具材を端でつまみ上げると、垂れる髪を指で耳の後ろにかき上げ、具材を口の前にまで持ってくるとフーッと息を吹きかけ……るのではなく、脈術で熱を外へ逃がし、瞬時に適温まで冷まして口に運ぶ。

 壁に寄りかかる迅護と向き合う位置に座り、その顔を見ながら食事する。けれど、迅護の目線は機嫌を損ねた動物のように御依里とは別の方へ向けられている。


 ……そんないつもと調子の違う迅護を見ていると、御依里の中にも、何か言いようのないモヤモヤとした物が渦巻きだのを感じる。


「ご飯おいしいのに……」


 口に運ぶ乾麺の食感がパリパリと心地よい。

 

 ――お前には関係ない


 先日、赤い髪の少年……名前を皇円おうまる緋ノ器ひのきというらしいが、彼と話をしてきたという後から、ずっとこんな調子である。

 服装が少し汚れていたので、なんらかの戦いがあったのかもしれないと憶測は立ったが、迅護はそれ以上何も教えてはくれなかった。


 食事を終えて、後片付けをしているうち、迅護はふいに立ち上がり、畳部屋を出て、カーキ色のレンジャーブーツを履いて入り口へと向かう。


「どこにいくの?」

「もうすぐ交代の時間だろ」

「もうすぐって、まだ……あぁ」


 御依里の呼びかけに耳を傾けるまでも無く、迅護はシャッターを抜けて出て行ってしまった。時間を確認するが、見回りの交代の時間まで一時間以上はある。


「もう、ご飯も食べないで……」


 御依里は迅護が出て行ったシャッターの方を見ながら、食事を進める。


「いやはや、今日もなかなか大変だったね」

「あ、疾凍はやてさん」


 入れ違いで裏口から現れた人物は迅護の父、疾凍だった。

 御依里は立ち上がり、姿勢を正して挨拶するが、疾凍は和やかな雰囲気で畳に上がる。そのままちゃぶ台の前に座って「おおっ、おいしそうだね」と迅護のために作った皿うどんを目を細めて物欲しげに見つめる。いつも閉じているような細い目をしているが。


「悪いけどお昼をもらって良いかな? 朝から何も食べて無くてね。外から良い匂いしていたよ」


 御依里の返事を待つまでも無く、疾凍は両手を胸の前で合わせる。

 しかし、


「あ、それ、迅護のなんです」

「……うん? だから?」

「だからそれ、迅護のなんです」

「……食べてはいけない、と?」

「ダメです」

「えぇ~……うん、ああ、そうかい……」


 二人の間にしばらく微妙な空気が流れたが、疾凍はそれ以上無理強いをすること無く、目の前の皿うどんに手を付けることは諦めることにした。


「えっと、じゃあお茶だけでもいいかい?」

「はい、わかりました」


 御依里はちゃぶ台に置かれた急須を手に取ると、急須の隣に置かれていた茶筒から取り出した茶葉を入れる。同じくちゃぶ台の上にあるガラスのポットに手を伸ばすと、急須の中に水を注ぎ、脈術でその水を高温になるまで熱し、湯飲みに注いで疾凍の前に置いた。

 疾凍は湯飲みを手に取ると、これも脈術で熱を逃がしてすぐに飲める温度まで落とし、口に付ける。茶葉は格安の煎茶なので、味は別段よろしくない。

 御依里は食事を再開しようと箸を持ち上げる。が……食がいまいち進まない。


「疾凍さん、迅護ってばどうしたんですか? あの赤い髪の人って……」


 ずずず……と茶をすすると、ぷはぁ、と大きく息を吐き出してリラックス。


「知りたいのかい? まあ、教えてあげても差し支えは無い」


 疾凍は湯飲みを置くと腕を組み、少し考え込むようなそぶりを見せて、口を開いた。


「皇円緋ノ器。いつもと変わらず私も詳しくは調べていないのだけどね……彼はどうやら望魔ぼうまがその手で作り出した生体兵器と聞いている」


【望魔】――それは術界から時折発生するただならぬ存在。


 一人の術者でありながら千に万に値する力を持つと言われ、その存在だけで術界に大きな影響を与え、様々な歴史の節目に術界と敵対することで多大な被害を生み出してきたイレギュラーな存在。


「そんなものが、どうして迅護と?」

「今から半年……いや八ヶ月ほど前になるのかな。まだ死神の称号を冠していた迅護は彼の討伐を命じられ、戦った。しかし迅護は術界に触れてわずか数ヶ月しか経っていないほぼ素人の彼と相打ちになり、死神の名を剥奪された。皇円緋ノ器自身も、乱術衆のトップである四尊の命令により処刑されたと聞いていたのだが……事実は違ったようだね」

「じゃあ迅護は、あの皇円って人に負けたことを未だに気にして――」


 と聞こうとする御依里だが、疾凍の澄ました表情は違うと答えているように見えた。


「君は迅護がどうして強くあろうとするか、聞いたことはあるかい?」

「あ、はい。えっと、この前聞いた時は……疾凍さんをぶん殴れるほど強くなりたいって」

「それは答えの一つだが、本質的には違う。迅護が私を殴りたい、いや、倒したい理由は、あいつがいつまでも囚われている過去に起因している」


 疾凍の手は再び湯飲みに伸びる。ズルズルと茶をすすって一呼吸。疾凍は湯飲みの中で小刻みに波紋を作るお茶をみつめながら口を開く。


「昔話に興味はあるかい?」

「それは、迅護のですか?」

「迅護と私と……もう一人かな。その報酬として、このご飯をいただくというのはどうだろう?」


 御依里は神妙な顔つきで少し考え、


「わかりました。お願いします」


 首を縦に振った。


「わかった。じゃあ迅護が生まれるちょっと前の話になるが……」


 ――時は今から、20年ほど前に遡る。

 不本意なことに、私、大業おおわざ疾凍はやては、すでにいわゆる『天才術者』という呼称で台頭し、術界から休み無く厳しい任務を与えられ、その功績を各所から認められていた。

 しかしその代償として拡散していく私への名声は、私と戦い勝つ事で名を挙げようという多くの術者達を多く生み出し、私の日常は彼らとの戦いの日々へと変わっていた。

 当時はすでに術界の中でのむやみな私闘、決闘は禁止されていたが、それも施行されたのは3年ほど前のこと。多少の時間が流れていたとはいえ、まだ術界全体に浸透しているわけでもなく、地域によっては暗黙の了解程度になっている場所も少なくはなかった。


「え? 二十と……三年前って、意外と最近じゃ無いですか」

「その通り。奇しくも私は、その悪習の最後と向かい合う時代に生まれてしまった」


 それだけ、実力のある術者と戦い勝利したことがあるという実績は、術者の実力評価に重要視されている時代でもあった。


「私闘は禁止……でも私、この前の象霊使いの二人に殺されかけましたけど?」

「あれは権力を笠に着て事実をすり替え、本来やってはいけない決闘を理由を付けて正当化したに過ぎない。現場で盗術者とうじゅつしゃ魔人戒まじんじゅうを発見した上でのやむを得ない戦い、という流れだけを見れば、白か黒かと言えば白寄りのグレーゾーンかな。仕組みは単純だがうまいことやっている。……さ、話を続けようか」


 任務にも私生活にも支障が出るほど追い詰められていた私は、術界の上層部へ繰り替えし訴えかけ、決闘者を処罰するように求めた。

 しかし上層部がいくら飲んでも、下が従わなければ意味は無い。

 私だけの例に終わらず、多くの高い実力を持つ術者が私闘で命を失うことを危惧した上層部は、本格的に私闘の禁止を決めた。……だが、それは逆に術界を抜けてでも戦いたい、言うならば濡常ぬらつね衣月いつきのような者、術界から抜け出す盗術者を数多く作り出す結果にもつながり、術界上層部はそれ以上拘束力を発揮できなくなった。

 その代替案として、私には護衛の術者が付けられることとなった。

 彼女の名前を――継鞠つぐまり凜護りんご。のちの迅護の母になる女性だ。


「迅護の、おかあさん」

「今でも覚えてるよ。彼女と初めて出会ったのは、私がまだ都心の支部に身を置いていて……六車線の車通りの多い歩道橋の上で待ち合わせたんだ」


 私が歩道橋の手すりから下の車を眺めていると、遠くからよたよたと千鳥足で近づいてくる女性がいるのを察知した。

 当時から私は極盾きょくち武器ぶき霊針剣れいしんけん』の力を発揮するため、情報をできる限りシャットダウンしていたこともあり、凜護の顔を全く知らなかった。

 女は近づいてくるなり、歩道橋の柵に身体を預けていた私の肩を思い切りひっぱたき、笑い声を上げながら一方的に自己紹介を始めた。


「にひゃ、な、な、ナハハハハハハハッ! アンタがぁ、そのぉ~……なんだっけ? ああそうそう、護衛のね、対象ね? おおわざはなて、だっけ? んふふふふふ。わぁ~たしがぁ、アンタを守ることになったリンゴ。継鞠凜護って言うの。可愛い名前っしょ? えっと、なんか指令の内容は紙にメモってきてて……アレ? 無いわ。ポケットに入れたはずにゃんだけど……ま、そうだねえ、ハイ、とりあえずよろしくな!」


 1メートル離れていてもはっきりと分かる酒気。赤ら顔に染まった表情はだらしなく崩れており、よたよたと左右に身体が振れて落ち着きようがないという雰囲気。

 身につけているのは赤いスカジャン。その下には黒いタンクトップを着ており、下半身は迷彩色のカーゴパンツとレンジャーブーツ。容姿だけなら、今の迅護をまるごと女性にしたような人物像だった。


「はっきりとね、初対面から感じたよ。こいつには何も期待できない、とね」

「う、うう? ぬぬん……ちょっとキャラクターに意外性が。たまたま酔ってたとか?」

「このあと一緒にいて分かるが、暇さえあれば酒をあおる完全なアルコール中毒者だったね」

「そ、そうですか……」


 挨拶らしからぬ挨拶をするなり、凜護は顔を一気に青ざめさる。すると――


「あ、これやば……うぷ、お、おお、ご……オロロロロロロロロロロォ……っ!」


 歩道橋の上から、大量の吐瀉物をまき散らした。

 それに巻き込まれた下を通る車には、本当に運が無かったと合掌するほか無い。


 凜護は、酒癖となんでも人に絡みたがる性格が面倒ではあるが、笑顔が明るい、すぐに人の内に入り込むような雰囲気をもつ女性だった。

 服装は常にスカジャンをまとい、あまりそれ以外のファッションにはこだわりの無い不思議な人格でもあった。

 そんな性格のくせして、酒の時の記憶はハッキリとしているらしく、シラフにもどると反省した素振りで謝りに来るのがいつものことだった。


「あの、さ……昨日はいきなり殴ったり、目の前で脱ぎだして悪かったよ。……いや、ほんとに悪かったと思ってるって! マジマジ、このとお~りっ! 忘れてくれとは言わないけどさ、今度から反撃する時はもうちょっと手加減してくれればな~って。あばら二本くらいヒビ入っちゃってんだよぉ~。もう呼吸するたび痛くて痛くて……うん? いやいや、別に責めてねーぞ? 責めてねーけど、もうちょっと優しくして? わたくしオンナノコ、OK?」


 そんな凜護に私はすっかり呆れていたが……私から関わらない限りは、ほとんどの場合他の術者と談笑したり賭け事をしたり、知らないうちにトレーニングに行っていたり、一言も残さず旅や冒険に出かけていたりと、比較的気を使わないでいられる関係は嫌いでは無かった。


「ん? 旅とか冒険って、なんですか」

「それを説明するなら、彼女の極盾武器、いや極盾道具について説明した方が早いだろう」


 凜護は出会って間もない頃、まだ私が少しも信用していないというのに、自分からその両手に輝く黒い極盾道具の能力を説明してきた。


「これが私の極盾道具『エクスペディション』だ! 能力はこの猫みたいな鉤爪を自由に出し入れしたりして、崖とか岩場を上るのにめっちゃ役に立つ!」

「崖……? どんな機会があればそんな使い道があるんだ」

「いや~、私ね、実は趣味で冒険に出たりロッククライミングするんだけど、その時にめっちゃ役立つんだわコレ。昨日もヒマみて南の方まで登りに行って、てっぺんの見晴らしの良いところで酒を飲んで……いやほんっと爽快感ハンパネェ! もう止められないんだよねえ! ちなみに崖から落っこちたときも、手のひらから落ちればどんな衝撃でも吸収できるぞ。吸収したエネルギーは色んな形で放出することができるけど……まあ基本的に戦いじゃコレがメインだわな」


 そういって凜護は両手のひらを向けて、直径5メートルほどはあるバリアを展開して見せた。


「こうやって戦いの時は盾として戦いをサポートすることが多いんだよな。まあ、それでなくても脈術の実力は乱術衆の上位術者クラスはあるから、ぜんっぜん心配しなくて良いぞ。大船に乗ったつもりで私に守られるといい!」


 そう言って初めて私を狙いに来た術者と戦いに挑んだが……。

 結局はすぐに凜護が死にそうになったため、最終的に私が助けて、敵を瀕死まで追い詰めた上で追い払うという結末に終わった。


「あちゃ~、いや、マジでさっきの人めっちゃめちゃ強かったって! 私が弱かったわけじゃ無いってば! あ……オイ、くそ、何か言え! 頼むよぉ~信じてくれよぉ~! あーもう、この仕事けっこう楽なのにクビになるのはやだぁ~!」


 やっぱり、こいつはアテにならないと思った。

 なにはともあれ、私と凜護は本格的にパートナーを組むことになり、ともに行動する中で共同で戦地に赴く事も多くなった。あえて言えば、彼女の極盾武器『エクスペディション』はそれなりに私の背中を守ってくれた。


 敵対術者集団、盗術者、魔人戒との衝突の際、その力を幾度も目にすることになる。

 敵に追われ、背後からの攻撃に傷ついていく仲間を守るため、敵の前に立つ凜護はその両手を広げ、すべての攻撃を受け止める。


「そのくらい余裕なんだよォ!」


 叫び、手のひらの中心からバリアが生まれる。そのバリアは敵術者の攻撃をすべて吸収し、漆黒のグローブの中に力を蓄える。

 そしてその吸収した力をすべて、強烈な波動の脈術に変えて打ち返す。敵術者もその威力に隊列を乱し、追撃の手が止まる。

 だが、一人残された凜護へと複数の敵術者が迫り、その息の根を止めんと脈術を構える。


 ――その術者達の頭部が、音も無く迫る影により断ち切られ、宙を舞う。

 

 両手に金と黒の短剣を握り絞める私が走っていた。


「なんだあ、疾凍か。うぃっ……アンタの攻撃、速すぎてタイミングがよくわからねえよ。にひ、へはは」

「敵の前に立つ前に、撤退の手段も考えておけと何度言っただろ。あと酒を飲むな。死ぬぞ」

「ンにひひひひひっ。それでも、今までギリで死んだことねーんだよなぁコレが」


 無邪気な笑みを浮かべる凜護の手を取り、共に向かい来る術者達を倒し続けた。

 その後も私たちは共に戦い続けたが、その多くは私が守られると言うよりは、凜護を守る事の方が遙かに多かった。

 凜護は高い実力者ではあったが、私と決闘して名を上げたいと敵対する術者達は本来、天才と評される者と戦おうという実力と気概のある術者達だ。凜護だけで私を守ることは叶わず、結局は私自身が戦い、決着を付ける機会が多かったのが現実。

 強いていえば、凜護と共闘することで私への負担は少しばかり軽くなったようにも思えた気がした。

 また結果として「大業疾凍個人と戦えないのでは意味が無い」という理由で挑戦してくる術者の数もわずかばかり減少傾向にあるように思えた。


 ――人と建前以外のコミニュケーションを好まない私

 ――誰にでも明るく絡んでいく性格の凜護


 性格はほぼ真逆ではあったが、共に生活を送る二人の接点は多く、出会って半年も経てば、親兄弟のように意思疎通をすることができるようになっていた。

 とある日の朝食中、凜護は私に尋ねた。


「なあ疾凍、お前は何人くらい子供が欲しいんだ?」


 飲みかけていた牛乳が軽く逆流した。


「げほっ……どうしてそんな質問がくる?」

「いやさぁ~、私たちこれでもヤることはヤってんじゃぁん? 少しは将来みたいなもんを考えてもいいだろ? ……オイオイオ~イ、それとも何か? 私が親しくなった男とすぐにそういう関係になる女と思ってんのか?」

「…………ん??」

「ハァ~~~ン!? なんで『そうなんじゃないのか?』みてーな顔してんだよぉ!」

「誘ってくるときは必ずお前からじゃないか。それにお前の過去の交際関係なんて聞いたことがない」

「オオウ……ぶゥ……」


 ふくれっ面で不満げな様子を現す凜護。その様子がおかしくて、私は人前で取り繕う笑顔とは違う、本当の笑みを浮かべていた。

 単純に、心地よかった。

 人と共にいて安心を感じることなど、まだ誰にも狙われていない自由に生きていられた幼少期を除いて、そうはなかったと思えた。

 ねじ曲がった性格のせいで人とまともな関係を築けないと思い込んでいた私の気持ちを、凜護の存在が包み込んでくれたのは間違いのないことだった。私と凜護は、正当な婚姻関係こそ結ばなかったものの、共に生涯を過ごすことを誓いあった。


「えっと、素敵な……素敵な話、のはずですよね? なんか私の考える結婚像とだいぶ違ったところが……」

「なんだかんだ、凜護の勢いに乗せられたのは否定できないね。私もひねくれた性格が原因で、凜護よりも前に別の女性と付き合うというような経験は無かったからね、正直、自分の気持ちによく分かっていないというところがあったことは否定しないよ」

「否定しないんですか」


 その一年後、私たち待望の子である迅護が生まれた。

 白いベッドの上で大切そうに赤子を抱えながら、凜護は語る。


「私さあ、思うんだ。この子には、私たちと同じような戦闘術者にはなってほしくないな、って」

「なぜそう思う?」

「私はともかく、疾凍の子供だ。その貴重な才能を受け継いでなんていたら、疾凍みたいにいっつも変な奴らから狙われ続ける人生を送らなきゃいけなくなるかもしれない。そんなの大変だろ」


 その言葉に、私はとても安心した。

 わずかだが心の片隅に、凜護もまた私の才能、血統を望んで近づいている女ではないのか……という疑念があったからだ。

 それが取り払われたことで、私は救われた気がした。

 私は、病室の窓から外を眺めながら、カーテンを軽く握りしめてうなずいた。


「その前に術界が変わればそう悩むこともないのだが……そうだな。お前の思うように、その子には育って欲しい」


 私自身、自分の人生をただ投げやりに不幸だとは感じていない。

 しかし、術界に身を置く以上、強い力を持つ者は自身が望まずとも相応の責任を与えられ、戦いから逃れることは容易ではなくなる。それを思うと、生まれてきた子供には、凜護が望むように戦いから離れた生活を送ってもらうことが望ましい気がした。

 

 それから数年後。私は現在の任務、この小さな田舎町の守護を任されるようになった。


「……なんだこの看板は」


 古書店を隠れ蓑にしている『ジーニアス(天才)』という屋号の拠点。

 それは術界が管理を始める以前から使われていた屋号であり、私への皮肉では無いが……私はその屋号が気に入らず凜護に変えるべきか相談をした。


「うぅん~? 別にいいじゃねえか。私は気に入っているぞ。ヒック」

「なんというか気持ちが悪い。自己主張が激しいみたいで恥ずかしいんだよ。……というか、また飲んだなお前」

「そうれぇ~っす。飲みまひたぁ~。てへ☆」

「子供を産んでからは控えるとか言ってただろうに……」


 顔を手で覆いながら溜め息まじりに語る私とは対照的に、凜護はひとり愉快そうな様子で私の顔を覗きこんできた。


「にひひひ。だいたいよぉ、こんなシャッター街でいちいち人の店の看板に深読みするようなヤツなんていねーよ。それに私は、天才と呼ばれる疾凍の奥さんになれたことを、ちっとも恥ずかしいとは思わないぞ。アヒャヒャヒャ、良いこと言ってるわぁ~ワタシ」

「それで言いくるめようとしているつもりか」

「そォ~んな意図は無ぁい。本心を言ってるだけだ。うんうん」


 その日の夕方、私はやはり気になって看板を下ろした……はずだったのだが、朝になるとウキウキとした様子で看板を直す凜護の姿があった。

 私は諦め、屋号に文句をいうことはこれきり止めにしようと誓った。


 それと同時期を皮切りに、術界からは個人同士の決闘がより厳しく処罰される規則が敷かれたため、私に挑んでくる術者達の数は急速に激減した。術界から抜け出して盗術者となる者も、その多くが私との対決を叶えることなく術界によって討伐されるようになり、私はようやく平穏を過ごせるようになっていた。

 一方、凜護は我が子を連れて、国内や世界を旅するようになっていた。

 もともと、彼女の極盾道具『エクスペディション』は、冒険先でのサバイバルの道具として使用することが目的とされているもの。冒険も脈術で空を飛んで楽に回るのではなく、自分の足で歩いて探索し、黒い爪で崖を掴んで登り、自然の息吹を感じながら夜を過ごすことを生きる楽しみとしていた。

 それに付き合わされる迅護は……いや、無理矢理連れ回されている迅護は、


「ぎゃぁああああああんっ! 待って、待ってってば、お母さん、待ってよぉおおお!」

「にひひひひひっ、やぁだね~。まったくぅ、ほんっと遅いんだよ迅護は。おかあさんは先の岩場で待ってるからゆっくり来な」

「おがあざあぁん、待って、行かないでってばぁああああんきゃぁああああああっ!」


 今の時代ならほぼ虐待と言われて仕方ないが、凜護はまだ四、五歳程度の迅護を荒れた山道に置き去りにして行くことなどザラにあった。

 それだけならまだしも、迅護が泣きじゃくって動かなくなったまま夜になっても、手を伸ばすことなどせず、一人で酒を飲みながらテントの中で過ごすなんてことも少なくはなかった。


「おーい迅護、はやく泳がないと川に流されるぞ~」

「おーい迅護、日が沈むまでに昇らないと、この辺夜は凍り付くほど寒いぞ~」

「おーい迅護、母さんお酒飲みたくなったから、一人で登ってテント立てといて~」

 …………

 ……


 そんな虐待まがいのいい加減な子育てをしていたにも関わらず……その背中を追いかけて成長してゆく迅護は、母親に絶対の信頼を寄せるようになり、自分も母親と同じように自由に冒険をして暮らしたいと望むようになっていた。

 そう言い出したのもまだ八歳になったばかり。小さな子供の夢であるが、その気持ちは確かに心深く根付いていた。


「ん? んん~? どうしてそんな結果につながったんですかね……」

「さあね、私にもわからない。わからないが母親には絶対の信頼を持ち、私に対してはむしろ避けるようになったくらいだ」


 当時の迅護は泣き虫で母親に甘えたい盛り。元気なときは快活で人当たりも良く、誰にでも親しみを持つような、子供らしい子供だった。


「今の迅護を見る限り、ちょっと想像つきませんね」

「そうだね……。そしてその迅護を変えてしまうきっかけもまた、凜護だった。ここからの話は私も人づてに聞いた話になるが――」


 その小さな太陽のようだった迅護を、大きく一変させる事故が起こる。

 術界の敵である魔人戒と、それに与する大勢の盗術者が一挙に集結しているという情報を元に、凜護は戦闘術者として戦地に赴くことになった。その傍らに迅護を連れて。

 私は町の守護のため動くことはできない。

 ただ二人の無事を案じつつも、霊針剣の力を高めるため外からの情報をできるかぎりシャットアウト。私自身に霊針剣を使用して、二人に不幸が降りかからないよう、ただ祈るようにして時間を過ごしていた。

 

 ――だが、不運は訪れた

 

 敵の罠により味方術者の部隊が敵に囲まれる事態が起きた瞬間、凜護は前に立ち、『エクスペディション』のバリアを展開させて防いだ。そのまま撤退の道を切り開くために殿しんがりとして立ち続け、敵の攻撃を受け続けたのだ。

 撤退を完了させ、傷ついた凜護が味方から運ばれてきた時……凜護の両足は吹き飛び、背中には氷や石の破片がいくつも突き刺さり、頭部にも大きな傷があり、両目とも失明していた。

 その場にいた医療術者の能力では対処不能なほどの重傷であり、応急処置はされたものの、凜護の命は風前の灯火であった。


「おかあさん、おかあさん! 死なないで! おがあざああああぁんっ!」


 枕元で叫ぶ迅護の声が届いているのか、届いていないのか、凜護は生きるのに必死かのような大きな呼吸で胸を上下させるだけで、返事をすることは無かった。


「は……やて……」

「お母さん!?」


 凜護が小さく呟いた声に応え、迅護は凜護の手を掴み、大きな声を掛けた。


「寒い……明か……りが、無い……寒いんだ……とて、も」

「わたし……死ぬの……死にたくない……は、やて」

「はや……て、どうして……会いに、来てくれない……の?」

「ひとり……で死ぬのは、嫌だ」 

「手……を掴んで……離さないで……よ、疾凍」


 絞り出すような声は徐々に小さくなっていく。それでも迅護は大きな声で呼び続けるが、凜護は迅護の存在に気付かないかのように、私の名前を呼び続けたそうだ。


「会いた、い……疾凍、どこに……暗い……はやて、わたし……まだ、死……たくな……」


 迅護は凜護の手を強く握りしめる。しかし反応は無い。

 声はいつの間にか聞こえなくなり、凜護の胸は呼吸すら刻まなくなっていた。

 迅護はただ凜護の手を握り、下をうつむいて泣き声さえ漏らさなかった。

 

 作戦は、術界側にも大きな被害を出した。

 それでもなお敵に大打撃を上げることは出来ず、敵勢力が撤退していくことで作戦は終了した。

 作戦が終了した後、一人残された迅護はすぐに私の元へと送られる手はずだった。

 しかし、その前に迅護自身から連絡があり、私はそれに応えた。


「……お父さん。お母さんが、死んだ」

「すでに聞いている。本当に残念だ」


 迅護にとって、私のその声は、まるで人ごとのように聞き取れたのかもしれない。

 迅護の中で、何かがキレたようだった。


「お母さんは、最後までお父さんの名前を呼んでたんだぞ……」

「死の間際に頼ってもらえたのか。うれしく思う」

「そういう感じじゃ……そうじゃないだろ! 父さんは……アンタは天才なんだろ! 誰にも負けないくらい強いんだろ! アンタがいれば、お母さんは死ななかったんじゃないのかよ!」

「そうかもしれない。本当に残念だ」


 私は迅護の中で、押さえの効かない熱が燃え上がるような気配を感じた。


「ふ、ざ、け……ふざけるなっ! どうしてアンタはそう……お母さんは最後までアンタに助けて欲しいと思っていたのに、どうしてアンタはそんな……クソヤロぉおおおお!」


 それきり

 それきり、迅護との連絡は途絶えた。

 

 風の便りに、迅護がとある極盾の拠点に残り、そこで戦闘術者としての訓練を始めたと聞いた。しかし、町の守護に当たらなければならない私は、顔を出すことも叶わない時間が数年と続いた。

 およそ七年の時が過ぎ、術界の各所で迅護の名前が聞こえるようになった。次の時代を担う天才かもしれないとささやかれ、私は町に居座ったままただその噂だけを耳にしていた。

 それからさらに時が過ぎたあるとき、術界で多大な功績を挙げ死神の称号を与えられていた迅護が、一人の若い術者と相打ち――実質的に敗北したと言うことを耳にした。

 

「それから半年以上もくすぶっていたらしいが……どのような心境の変化があったのかはわからないが、迅護は私に訓練を付けて欲しいと帰ってきた。そういう経緯がある」


 食事を終えた疾凍は、空の皿の上に箸を置き、手を合わせて小さく「ごちそうさまでした」と呟いた。


「そうだったんですか……。でも訓練なんてどこでしてたんですか?」


 御依里の問いに答えようと、疾凍は部屋の中央に置かれたちゃぶ台を壁際に移動させ、壁に手を付ける。


「君にも見せておこう」


 すると、御依里が拠点としている山にある平屋と同様、壁内部の鍵のような機構が脈術により作動。中央にある一枚の畳が陥没、スライドし、金属製の大きな長方形の枠が現れた。枠の中はただの空洞で、コンクリートの床下が見えるだけ。


「これは、なんですか?」

「転送ゲートだ。いわゆる瞬間移動装置だね。今はセキュリティのために稼働してないが、動いている時はここから遠く離れた術界の訓練施設まで一瞬で飛ぶことが出来る」


 御依里は黙り込み、少し考えるようなそぶりを見せて、顔を上げ、尋ねた。


「……どうして、今になって私に教えてくれるんですか?」


 それは当然の質問だった。

 これまで十年近くこの町で暮らしてきたのに、最近になってほとんど会うことのなかった疾凍本人と接触する機会が増え、さらには昔話。そしてこのような重要であろう秘密まで開示してくれる。


 今までとは流れがまるで違う。


 疾凍は壁に再び脈術を注ぎ、機構を動かして鍵をかけ、畳を元の場所に移動させる。そして腰に手を当てながらのびをすると、フーっと大きく息を吐いた。


「以前、少し話しただろう。私たちはこの町を離れるかもしれないと」

「はい」

「それが現実になりそうなんだよ。私は今の任を解かれ、また別の役割を当て――られるのかは定かでは無いが、少なくとも、この町の秘密にこれ以上こだわる必要はなくなる。……妻の凜護を見殺しにしたかのように感じてきていた日々から、ようやく解放される」

「……!」


 その言葉に、御依里は大きく目を見開いた。


「私はね、今、すこし自由を感じているんだ」


 疾凍は微笑むと歩き出し、畳部屋を抜け、カウンター前の椅子に腰掛けた。

 その優しい笑顔はどこか、疾凍の本当の気持ちを現しているように感じられた。


「しかし問題は迅護だ。あいつは今も母親の亡霊に取り憑かれている。自分がもっと強くあり続けなければ、母親をまた守れないと思い込んでいる。すでに死んだ人間に対して、また守れないかも……とは不思議な事だが、あいつはその気持ちを原動力にこれまで強くなり続けている。人の気持ちとは本当に不思議なものだ」

「……わたしは」


 御依里は、目を伏せて呟く。


「わたしは、迅護の気持ちを理解出来ていませんでした」

「無理もない。理解させないようにしてきたのは迅護自身だ。単純にマザコンなんだと自分で理解しているところがあるのさ。ようは気恥ずかしさもある」

「私も陸人りくひと兄さんを失って、いつかまた兄さんみたいに誰かを失うんじゃないのかと、そのためには強くなり続けなきゃって思ってます。でも迅護は違う、本当に昔死んでしまったお母さんを守るため、助けるために強くなり続けている。……そこまでの気持ちには、私はなれません」

「それが普通なんだ。思い込みの力と言えばいいのか、呪いと表現すればいいのか。……そうさせてしまった私にも責任がある、とは思っている」

「だから迅護に訓練を?」

「単純に贔屓ひいきしているだけさ。私はそれなりに凜護を愛していた。その子供である迅護もそれなりに大切に思っている。それだけのことだよ」


 疾凍は外に顔を向けて「ほんとうに、それだけなんだ……」と、まるで自分に言い聞かせるようにこぼした。


「……ちなみに音古鐘ねこがねくん」

「はい」


 疾凍は、首だけゆっくりと後ろに向け、その細い目で刺すように御依里と視線を交わした。


「君は、こっそり濡常くんと極盾術の訓練をしているだろう?」

「……!! 疾凍さん、知って――」

「意味の無いことは止めたほうがいい」


 御依里の背中に緊張の汗が噴き出す。疾凍の表情は、変わらないように見えてどこか冷たい。


「私は、その……もしかしたら役に立つかもしれない、と……」

「もう一度言う」


 疾凍の言葉が、圧を増した。


「意味の無いことは、止めたまえ」


 …………

 ……

 古書店『ジーニアス』を離れ、迅護の様子を見に外へ出た御依里は、脈術『負湖フコ』で姿を隠しながら飛行中、ビル郡の電信柱の上に立ち尽くしている迅護を見付けた。今日は雲が厚く、ビル群全体はその影に覆われている。

 ビルの屋上からその様子を見ていた御依里は、何か声をかけようかと何度も行動を起こそうとした……が、実際の行動には移せなかった。ただ、いつもより寂しげで、頼りないように思わせる迅護の背中は、見ているだけでこちらにも切なさを感じさせた。

 宙を意味も無く眺めていた迅護は、頭の中に浮かび上がる記憶に意識を向けていた。


(なんで、今になって母さんの姿が思い浮かぶ……)


 まだ自身が幼い頃。夜の崖の上にテントを張り、その外に出て岩場に座り、母親の凜護と共に空を眺めていた。

 その当時まだ8歳ほどの迅護に向けて、母親はビールの缶を呷りながら話しかけていた。

 酒を飲んでいる時の母は苦手だったが、嫌いと言うほどでもなかった。


「にひへ、おとーさんには内緒の話だぞぉ」

「うん? なんの話?」


 凜護は缶を思い切り立てて中を飲み干すと、ぷはぁと大きく息を吐いてにこやかな笑みを浮かべた。


「わたしゃーねぇ、昔お父さんには迅護は戦闘術者になって欲しくないな~なんて言ったけど、本当のところはさ、あんたに戦闘術者になって欲しいと思ってたのよね」

「そうなの? はじめて聞いた」

「初めて言ったもんなぁ~、にひひ」


 空になった缶を握りつぶし、無造作に放り投げる。しかしそれは広げていたゴミ袋の中へと落ち、積み上がるビールの空き缶のひとつとなった。


「ねえ迅護。あんた、今から戦闘術者になってみないか?」


 迅護の頭を掴み、くしゃくしゃと撫でる。雑なうえに力任せなので痛みもあるが、母のコミニュケーションはどことなく拒絶しずらい。いや、むしろ単純に好きだ。


「いいよそんなの。小さい子は三つとか四つのうちから訓練してるんでしょ? 今から始めるなんて恥ずかしいって」


「まあそうだろなぁ~。迅護は泣き虫だし、いつまでもヒョロっちいもんなぁ~」

「お、大人になれば違うし……」


 反論しながら凜護の手を振り払い、ムッと頬を膨らませる。その頬を人差し指でつつかれながらも、迅護は凜護と目を合わせようとはしない。

 そのうち凜護の方から離れ、そうとう酔っ払ったのか、岩場の上に仰向けになりながら独り言のように話しを続ける。


「あー……やっぱり思うんだ。私はともかく、疾凍の貴重な才能を受け継いでいるかもしれない子に、こーんな毎日送らせておいていいのかなって」


 迅護は黙って崖の下を眺める。こんな毎日とは言うが、迅護の中ではこれほど充実した毎日に変わる経験を、戦闘術者になることで得られるとは少しも思えなかった。


「……ううん、やっぱダメだ。約束は守らないとなぁ~」

「お父さんとの?」

「そうだぞい。うん。だからさっきのナシ。忘れてくれ~」


 凜護は大きく伸びをすると、そのまま寝てしまったのか脱力して寝息を立て始めた。


「しかたないなあ……」


操身術ソウシンジュツ


 迅護は幼い小さな体でありながらも、脈術で身体を強化し軽やかに凜護を背負うと、そのままテントの方へと移動を始めた。

 かと思うと、


「しゅきしゅきだいしゅきぢごくぅ~♪」


 凜護はいきなり迅護の体に抱きつき、ぶりぶりと体を左右に振り回しはじめる。


「わ、うえ、うなぁああああっ! 起きてるなら自分で動いてよーっ!」

「やだやだやぁ~だっ。速く連れてってくれ~」

「だったら、動かない、でっ! ほんとにもうっ!」


 なんとか歩みを進めながら、母親をテントの中に連れ込み、そのまま寝袋の上に倒れ込んだ。

 凜護が笑い、遅れて迅護も笑った。

 …………

 ……


(――そんな日を、どうして思い出す?)


 回想に思考を巡らせているうち、脈術で姿を隠していた衣月が空から降りてきた。


「どうしたんだい? 考え事をしてるって顔だねえ」

「なんでもねえよ」


 手早く衣月と情報の交換を行うと、迅護はまだ日の高い、曇りの夏空へと消えていった。


(……ああ、行っちゃった)


 軽く周囲を見渡していた衣月は、少し離れたビルの上に立つ御依里の姿をとらえたが……その様子を見て何かを察したらしく、ニコリと微笑むだけで、声を掛けることも無く空を飛んで離れていった。


「わたしにとって、迅護は大切な仲間。家族みたいに思っている。だけど……」


 御依里は顔を伏せ、視線を自分の両手のひらに落とす。


「でも、誰かにとって大事な人になるには、どうすればいいんだろう……」


 無意識に考えていたことは、迅護にとって大切な人とは誰なのか。


(ほんとうに、お母さんだけなのかな……)


 そう思うと

 少しだけ寂しい気持ちになって

 沈んでいく


 けれど御依里は――自身のその気持ちを、まだ確かに感じ取れてはいなかった。


 

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