駆――⑦


「頃合いじゃないか? 女の実力はだいぶ把握できた」

「よし、もう少しだけ距離を詰めてみるぞ」


 右内うないが手を空に伸ばす。御依里みよりの眼には映っていないが、右内の頭上に浮かび上がる尻尾が連結した一対の三つ目オオトカゲの象霊しょうれい『パンキゼン』が陰陽玉のように円を描き、回転。光を灯す。


「くうっ、体が、引っ張られ――」


 すると、御依里の体は見えない綱に引っ張られるように左内さないと右内のいる方角へと少しずつ引きずられてゆく。


「ああもうっ、自由に動けないのがこんなにやりにくいなんてっ!」


 象霊の姿が見えない御依里には、何が起きているのか理解出来きない。いや、仮に見えていたとしても変わらないが。

 それでも、地面を滑って移動する『滑脚カッキャク』という脈術みゃくじゅつを使い、二人との間合いを崩さない。

 左内と右内の二人も、御依里の攻撃術に対応できる距離、脈術の無力化に必要な距離があるらしく、わずかに距離を詰めただけで過剰な接近を続けることはない。


〈はいはいっ、手が止まってるよ~〉

「分かってる!」


 御依里の通信機から聞こえる気の抜けた衣月いつきの声。御依里は衣月言われるまま、脈術による攻撃を継続する。

 右内は得意げに笑みを浮かべ、御依里を嘗めるような眼で見る。


「あの女、適当に攻撃を続けたところで……運良く体にかすめればとでも思ってんのか?」

「俺たちがそこまで馬鹿だとでも思ってんのか? ただの獲物のくせにな」


 右内は尾がたなびくほど長い一つ目のフクロウの象霊『ノグダイラ』を出現させ、浮き上がらせた体を旋風で包み込み、森の中を風のように高速で移動する。左内と右内の二人はつかず離れずの距離を維持したまま、しかし決して木々や障害物にぶつかるような事は無く、御依里の後を追いかけてくる。


「せめて、せめて飛べれば……!」


 逆に、御依里はどんなに空を飛ぼうとしても体が浮き上がらない。

 脈術で空を飛ぶには、主に二種類の方法がある。風を起こして浮力を得る方法と、脈術で重力を打ち消す方法。そのどちらの方法も試してみたが、浮かび上がることは出来ない。

 御依里を追いかける二人は余裕たっぷりなのか、御依里が聞こえるような大きな声で自慢の象霊を解説する。


「地面を這いずり回って惨めだな女ァ。いいか、象霊はそれが持つ能力の表と裏がある。火が使えると言うことは、火を消すことも出来る。浮かぶことが出来ると言うことは、浮かばせないと言うこともできる」

「お前がどんな脈術で飛ぼうとしても飛ぶことはできない。しかも『ノグダイラ』は風の属性を持つため、お前の風を使う脈術もすべて無効化することができる。言わなくてももう分かってるだろ? 嘘だと思うならいくらでも試してみるといいさ」


「「俺たちに狩られるまでな!」」


 叫び、二人は猛風を浴びながら御依里へと距離を詰める。


陸人りくひと兄さん、結雨ゆうさん――)


 頭に浮かぶのは、もっとも親しい二人の顔。

 そして、もうひとり。


(――迅護じんご

「……すぅー……はぁ」


 一度大きく深呼吸。

 気持ちを整える。


「私は、あなた達なんかに殺されない。死んでやるもんかっ」

「……チッ、まだ心が折れてないぞ」

「接近して攻撃の手数を増やすか?」

「いや、それはまだ早いんじゃないか?」


 御依里の動きは素早く、二人は容易に捕まえることが出来ないまま、戦いは十数分を経過していた。

 衣月との訓練の成果が現れたのか、木々の茂る森の中でも自身の行動が左右されづらい。木々の位置を正確に把握し、敵の位置を察知し、それに合わせた攻撃行動を取ることが出来る。


「すぅー……はぁー……」

空牙クウガ散小鳥チリコガラス


 深呼吸を繰り返し、冷静さを保ちながら木々の隙間に姿を隠し、脈術を放つ。しかし二人に近づいた瞬間に風の弾丸は霧散し、全く意味をなさない。


「それなら……火力を上げてみればっ!」

炎鎖エンサ旋弓波センキュウハ


 木々の間から飛び出した一瞬、豪炎をまとう旋風の矢を複数放つ。

 しかし、高温の炎すらも二人の眼前で消滅。御依里の放つ術は何も手応えがない。


 ――そのように思えた。


 無線に通信が入る。空から戦いを見ている衣月からだ。


〈いいかい? 象霊使いは、象霊一匹につき一つの能力しか持てない上に、象霊はいいとこ二匹か三匹しか契約できない。象霊と契約すると言うことは、その数だけ頭の中に別人の人格が増えるというようなものだからね。増やせば増やすほど、精神に膨大な負担がかかる〉


 御依里は耳を傾けながらも、戦いの集中を解かない。

 深く、深く、呼吸をして神経を研ぎ澄ましてゆく。


〈だから、象霊使いは敵の攻撃を無効化できるよう、基本的にチームを組んで、色んな属性の象霊と契約するんだ。だから本来はまず、敵の象霊が何種類いるのかを把握することが大切なんだ。でも今回は、彼らが間抜けなことに自己紹介してくれたから、その必要はない〉

「だから衣月君、あんな気持ち悪……しつこいしゃべり方で、二人の象霊の能力を?」

〈は? 気持ち悪い? え? ……ま、まあとにかくだ。繰り返しになるけど、象霊使いとの戦いは常に、何種類の能力を持っているかを把握することが重要だ。そしてそれが把握出来れば、こちらの戦い方は自然と定まってくる。――それの基本が、攻撃を続けると言うこと」

「やってる、やってるけど、どういうことなの?」


 ただ助けを求めても、衣月の場合は助けてくれないとわかっている。だから衣月の言葉を信じて、戦いを継続することだけを目的に攻撃を続けていた。


〈象霊能力は強力だが、攻撃能力を持つ象霊のほとんどが、その有効範囲は非常に短い。だから十分な分析もなく敵に近づくことは非常に危うい。だからその二人も、余裕ぶってはいるが御依里ちゃんの戦闘力を必死に計測している。彼らの能力も万能じゃ無いから、不意を突くような攻撃を無効化することはまずできない〉

「不意打ち……試してみる、かな」


 敵が御依里の背後を追いかけてくる途中、御依里は地面に脈術のトラップを複数仕掛ける。


土鋲ドビョウ童ノ顎ワラベノアゴ

「はぁっ、はぁっ、クソッ! 右内、だんだん遅くなってるぞ!」

「うるさいっ、森の中じゃこれが限界だ! カリカリすんな!」

「ちっ、やっぱもっと距離を詰め――」


 不意に、御依里を追いかける左内が地面に足を着けた瞬間、


《ボンッ》


「ぐがぁっ!?」


 御依里の仕掛けた術が小爆発し、目潰しのように石や土砂をまき散らす。

 爆発の衝撃が、足の骨の芯にまで染みる。


「痛ってぇ! ……く、そ、クソクソクソクソがぁあああああああ!」


 左内は腕を大きく振り、連続して爆破を起こし、土砂を散らす。


(目潰しは成功しなかった。けど――)


 衣月が言う通り不意打ちによる攻撃には反応が遅れることが確かめら、御依里は小さく拳を握る。


「次はそう簡単には通用しないかも……それでも、細かく、続ける、慌てない」


 学習したことを呟きながら、木々の隙間から二人を冷静に観察する。

 意識をしないうち、徐々に、徐々に、冷静さが上塗りされていく。

 自分は追い詰められる側、という意識が、次第に、次第に薄れていく。


〈いいかい? 象霊使いに対してやる戦術は大きく変わらない。言い切ってしまえば、象霊使いの弱点は持久力だ。逆を言えば乱術らんじゅつの利点は持久力。無効化されるとわかっていても、バンバン術を撃ち続けることだね〉

「持久力?」

〈そう。敵は攻撃を無効化するためにも象霊能力というアクセルペダルを全力で踏まざる得ない。いや、アクセルと言うより、スイッチみたいなもんだね。0か100かしか出来ないんだよ、象霊使いは。精神に負担をかけ続けることで、乱術よりもずっと速く集中力にガタがくる。そうなると思考が乱雑になり、単純化してくる。その瞬間に会心の一撃を打ち込むことで、攻撃面の不利を挽回することができる〉

「クソクソクソ、うっとうしい戦い方をする女だなぁ!」

「コソコソしてないで姿を見せろ! コナゴナにぶっ飛ばしてやる!」


 御依里が仕掛ける術にダメージを受けるほどでは無いが、苛立ちを募らせる二人は叫びながら無謀に速度を上げる。脈術で飛ぶ様子とは違い、彼らの飛び方はまるで風そのものになったように鮮やかだ。

 しかし、森の中に逃げ込んだことが功を奏する。たとえ風になっても、息をつく間もなく迫り来る攻撃と、木々の枝葉をたやすく抜けることは出来ない。御依里にとっては、幼い頃から走り続けた庭同然。脈術で二人を攪乱かくらんすることは決して難しくはなかった。

 これまで衣月と訓練してきたように、敵の動きを先読みして術を打つ。フェイントにもならない、無駄になるとわかっていても撃つ。放つ脈術の種類に強弱を付け、敵の意識を揺さぶり続ける。


(できる。できてる。落ち着けば難しいことじゃない。いくらでも続ける)


 乱術の利点は持久力と言われた通り、無駄撃ちしてもエネルギーが尽きないのが乱術の長所。契約している因魔から、際限無く乱脈が供給されるからだ。

 ただひたすらに距離を取り続け、常に敵の死角に隠れながら小技を打ち続ける。風、氷、火を中心に、『花爪カソウ』や『散小鳥チリコガラス』などの消耗の少ない脈術を、回避だけでは難しい物量で攻撃し、確実に無効化させる。


「クソ、クソ……おい右内、女と距離が離れすぎてるんじゃないか!?」

「わざとそうしてんだよ! 攻撃の無効化が間に合わない!」


 左内と右内は消極的にも御依里から大きく距離を取り、御依里の攻撃を一方的に防御、無効化することばかりに気を取られていた。

 木々を抜ける風のような動きの精彩も、徐々に失われていく。


「クソ、クソ、クソぉおああああああああぁ!」

「ウゼえウゼえウザいウザいウザいぃいいっ!」


 二人は夏の暑さによるものだけでは無い、精神にかかる大きな負担から、尋常では無いほどの汗を流し、叫んでいた。

 御依里は意識していないが、いつの間にだろうか。


 ――恐怖で追い込む側は、御依里の方になっていた。


(あの二人、接近も攻撃も止んだ――)


 途中、御依里は自分の行動がどれだけ制限されているかも確認を行う。

 浮力や揚力を打ち消されていると言われていたが、自分の足でジャンプしたり、斜面を滑る事で、高い方向へ移動することは出来る。


(単純に脈術で浮かんだり、飛ぶという現象に関してだけ、象霊の力が働くのかな? それなら――)

「相手が崩れるまで、追い込む」


 そう覚悟を決めたのもつかの間、それを待つまでも無く、敵の方は崩れ始めていた。


「右内、追い付かないぞ! それにちゃんと避けろ! 攻撃をまったく回避できない!」

「俺が悪いワケじゃ無いっ! 左内の攻撃の射程が問題なんだよ! そんなに言うならお前が自分で動けばいいんだろうが!」

「馬鹿ヤロッ、それを口に出すな!」


 二人とも額に脂汗を流しながら御依里を追いかける。飛ぶ速度も見るからに落ち、木々の枝も避けられずに頭をぶつける始末。


(もっと……もっと追い詰める)


 御依里はかつてないほど、限界を超えるほど神経を研ぎ澄まし、攻撃を続ける。

 頭の中が氷の平野のように冴え渡る。それなのに、その中心はひたすらに熱い。

 脳内の大人しい血液の脈動が、鮮明に感じられる。

 衣月とそう訓練してきたように……いや衣月だけじゃ無い。陸人と結雨に鍛えられたように、鋭く動き、術を放ち、回り込み、敵を追い詰める。


(不思議……焦りが無い。怖くも、無い)


 御依里の眼は、狩る者のものへと、冷たい輝きを増してゆく。


「へえ、御依里ちゃん。前からとは思っていたけれど……フフフ、やっぱり面白いじゃないか」

 それを遠く空から見下ろしていた衣月は、じつに面白そうに意味深な笑みを浮かべていた。

 一方の、すでに防戦一方となっていた左内と右内の二人は。


「ああくそっ痛い! 当たった! 痛てぇええ!」

「がっ!? 痛ったぁ……ちくしょう、無効化が間に合ってない! 左内、もっと集中しろ!」

「やってるっつーんだよクソボケ! 騒ぐな、イライラすんだよ!」


 攻撃を防ぐ力も削がれ始め、単純な攻撃術も防ぐことがきびしくなり、やけくそに叫びながら御依里の攻撃を受け続けていた。

 その動きにはもはや、先ほどまでような鮮やかさは無い。


「なんでだよ……なんで、だよぉッ! いつも通りの簡単な狩りのはずだったのに!」


 吠える左内の言葉に、御依里は高速で木々の影を移動しながら問いかける。


「……教えて。あなたたちはどうして、そんなに簡単に命を奪えるの? 人の未来を奪えるの?」

「ハァ~? 命? 未来? バカじゃねえのか、自分が正義かなんかのつもりかお前は! 言うならお前たちゴミクズの未来なんかとは比較もできない俺たちの、俺の未来がかかっているんだ!」

「そうだ、死神の称号を得て、神罰に選ばれて、習術海しゅうじゅつかいのトップに立ち、俺たちは誰にも支配されない力と地位を手に入れるんだ!」

「そんな、自分中心の考え方だけで?」

「自分を一番大切にして何が悪い! 普通はそうだろうが!」


 左内と右内の言葉を聞いて、御依里は奥歯を強く噛み、息を飲む。


「それが、あなた達の本心……?」


 そして攻撃を再開。無数の攻撃術が左内と右内に襲いかかり、二人はもはや風に乗って移動することも出来ず、立ち尽くすしか無い。


「そんな嘘の実力で得る称号が、そんなに大切なの? 無実の人たちをだまして、殺して……そうやって、家族や友人、ほかにも関わるたくさんの人たちを、どれだけ悲しませたか考えることもできないの?」

「知るかクソ、耳障りだ! 説教なんかするな! 上に立つ者たちは、下にいる奴のことなんかただ見下してりゃいいんだよっ! ……がぁああああっ、また当たった、血が出るっ! クソックソッ!」

「俺たちは常に上だけを見ていれば良いんだよこのザコがぁあああ!」

「なら、まだ続けるというの?」

「人の上に立つ人様に、無駄な苦労を掛けさせるんじゃねぇ!」

「死ね、死ね、しねしねしねシネシネぇえええええええッ!」

「……わかった」


 御依里の中に、一つの決心が生まれる。

 それは今までの自分と一つ違う歩み方を定める、大きな決断だった。


「あなたたちを止める。たとえあなたたちを、大きく傷つけるとしても。これ以上、嘘が悲しみを生まないように――」

「かはぁ……はぁっ、はぁっ……なんだ? 攻撃が、来ない?」


 急な攻撃の中断に、二人は大きく息を吐きながら警戒する。

 御依里の気配がさらに薄れ、二人は完全に御依里を見失う。


青爪アオヅメ


 御依里は土を撫でると、その両手に土中の水分を集め、衣月がいつも使用する氷の小剣に酷似した物を作り出す。

 それらを両手に握り絞め、素早く二人の周囲を移動しながら風を起こし、煙幕を張るように土煙を巻き上げて二人の視界を塞ぐ。


「くっそ……なんだよこれは! 右内、術の無効化だ!」

「風はもう消した! けど巻き上がった煙は消せない! 火でなんとかできねえのかよ!?」

「できるなら、やってるっ、つの!」


 木が生い茂る森の中。さらに巻き上がった土煙により視界は最悪。

 二人が動揺し、すっかり足を止めてしまっている――

 その隙を突いて、御依里の攻撃術が二人に襲いかかる。


「はっ!? 避けろ右内!」


 両手に抱えるほどの巨大な土の塊が飛来し、背中を合わせに立つ右内と左内の間に刺さるような速さで襲いかかる。右内と左内の二人はとっさに二手に分かれるような回避行動を取る。


「クソっ、避け――」


 さらにその二人を引き離すように、土を孕んだ旋風の矢や風の弾丸が襲いかかり、二人を完全に分断する。


「バカっ、離れすぎだ! 俺の攻撃範囲外に――」


 叫ぶ左内の声が届くより早く、右内の隣に立つ木の頭上の枝に、何者かの気配を察知する。


「ぁ……しま、っ!?」


 頭上から、土煙の中を突き進みながら落ちてくる御依里の影。

 右内には、攻撃能力のある象霊が無い。


「――そう、思ってるだろうなぁ!」


 瞬間、右内の両手に炎と白い霜の冷気が発生する。


「言っただろ、俺たち二人は『パンキゼン』の象霊能力で!」


 その両手を迫る御依里の影に突き出す。


「間合いだ! もう逃げても遅いっ!」


 一瞬で御依里の全身が凍り付き、その周囲を激しい炎が覆う。


「そん……くぁ、あああっ!!」


 響き渡る御依里の悲鳴。


「お互いの能力を使うことが出来るんだよ、俺たちはなァ!」


 木の上から着地する時間すら与えられない、その一瞬、


「これで死んだなぁああああああああああァァ!」


 叫ぶ右内が向ける両手を握り絞める。

 火力が増し、業火に包まれる。


《ビキャ―― バキィィンッ》


 御依里の影は爆発し、コナゴナに散った。


『ファーゥン ファーゥン ……』


「……は?」


 木々の間に何かのサイレンが鳴り響く。


(なんの、音だ――)


 その方向を、左内は見た。

 それは御依里が持つカード型の地図端末から鳴り響くサイレン。

 その音によって、本物の御依里が左内の頭上背後に迫っていた事が、察知されてしまう。


「なんだ……そいつ、違うぞ! 左内ィ!」


 右内は異変を感じ、叫ぶ。

 砕け散った御依里の破片は、落ちて地面に突き刺さる。


「くそっ、『カラ』だ!」


 それらは全て、土と氷で作り上げた変わり身だった。


(くっ、しまった。バレるのが早いっ)


 木の表面を『滑脚カッキャク』で滑り上がり、左内の上を取っていた御依里。

 小さく舌打ちをし、それでも両手に構えた氷の小剣を振りかぶる。

 その表情に、わずかな焦りが浮かぶ。


「みつけぇ……たぁ!」


(地図端末のサイレンが、こんな時にっ)


「運が、無かった、なぁあああァァァ!」


 時間が、ゆっくりと感じられる。

 左内の両手のひらが、御依里へと向けられんとする。


(――いや、できる)


 御依里の瞳から、焦りの光が一瞬で消える。

 手にした両手の小剣に、脈術を注ぎ、威力と速度を向上させる。


(自身と確信が、私の中に満ちている)


 自分の体の動きが、細部まで手に取るように分かる。


(最速で、終わらせられる)


 左内の背後に二匹の象霊の姿が揺らぐ。


「バラバラのバラにしてや――」


《 キィン 》

 

 ――御依里の攻撃行動は、瞬くほどの間に終わっていた


 落ちてくる御依里の全身は真っ白に凍り付き、炎に包まれている。

 しかしそれは、ゆっくり、いや速く、御依里が着地するわずかの間に、変化する。

 炎は熱を失い消失。氷は御依里が身につける黒いプロテクターの一部を砕きながらも、バラバラとただの霜に変化して、消失してゆく。

 

 地面に着地したとき、御依里を脅かすものは何も無かった。


「うがぁあああああああああぁぁぁ!」

「いぎぃぃいいいいいいいいぃぃぃ!?」


 気が触れたように叫ぶ二人。

 左内の左手首、右内の右手は失われ、その切断面は刺すような冷気で凍り付いていた。

 御依里が投擲した一対の氷の小剣は、左内と右内がそれぞれ身につけていた、象霊契約の指輪を付けている手首を切り落とし、能力を完全に無力化していた。

 それを空から見ていた衣月は、深く、濃い笑みを浮かべ、叫ぶ。


「あはははっ! うわ、やりやがったよあの子! 教えたばかりの『無拍子』を、変則で! それも、ぶっつけ本番で!」


 切り落とされた二人の手首が山の斜面を転がっていく。そのまま、二人の手首は目の届かないところまで落ちて、土まみれになって留まった。


「う、おぉ、あぁああああああっ!」


 叫びながら御依里につかみかかる右内。というよりは体当たりに近い。それを御依里は落ち着いた様子で軽く回避。


「クソ、アホ、ゴミクズがぁあああああ! 舐めるなよ、象霊使いはな、契約の印がなくても少しくらいは能力を使うことができるんだよぉ! 来いっ『マシダン』、『マクルヴォーデ』!」


 象霊の名前を呼ぶ左内。しかし象霊は答えず、その姿は転がり落ちた手首のところにたたずんだまま、二人を助けようともしない。


「なんで、どうして!?」

「ふざけんなクソ象霊どもがァ!」


 叫ぶ左内と右内だが、御依里は早足で歩いて切り飛ばした二人の手首に近づき、拾い上げる。そして高熱の炎で包みこんだ。

 手首は真っ黒な炭になって崩れ落ち、焼け焦げた指輪だけがそこに残り、御依里はソレをぐっと握りしめた。


「……うっ」

(めまいがする。……緊張が、一気に解けて)


 体をよろめかせる御依里の背後で、左内と右内が姿勢を低く、残された手だけで構えを取る。

 習術海の戦闘衣装、その太ももに下げられた小刀を取り出し、御依里の背後へと迫る。


「「こ ろ すぅ」」


 殺意のこもる声を漏らし、御依里の背に小刀を突き立てるのは、一瞬だった。

 御依里の首筋に迫る刃先。プロテクターで覆われていない生身の部分に、鋭利な輝きが肌に刺さり、赤い小さな血液の玉を作り出した――


 …………

 ……

 だが、それ以上刃先は奥に進まない。

 

 御依里が慌てて振り返る瞬間、突き立てていた小刀の一本に肩が当たり、吹き飛ばす。


《ゴリィッ ミキキ ベキャァ……》


「「ぁぁ――――――――――ッッ!!」」


 迅護じんごの姿があった。

 小刀をにぎる二人の手首をつかみ、その尋常では無い握力で、骨ごと肉ごと握りつぶしている。

 左内と右内は今にも失神しそうな表情で、奥歯を噛みしめて声にならない声を漏らしていた。

 迅護が手を離すと、二人の腕はぐにゃりと曲がり、重力のままに垂れ下がる。二人は息を合わせたように崩れ落ち、両腕に走る激痛にもだえながらバタバタともがき苦しむ。


「迅護……」


 名を呼ぶ御依里。それに答えるように、迅護は御依里と視線を正面から交わした。


「悪いなリーダー。さっさと終わらせるため、二人ほど殺しちまった」

「はは……ええ~、開口一番にそれ?」


 すこし呆れるように、迅護の胸に額をドンとぶつけて、小さく呟く。


「でも、今回は眼をつぶりま、す……」


 そう言い残し、御依里は眼をつぶり、崩れ落ちた。それを迅護は両腕で支え、軽く抱き寄せる。

 意識を失ったワケでは無い……が、ひどく消耗しているのが見て取れる。


「おい、胸がはだけてるぞ」


 破損した胸部のプロテクターの下から、御依里の胸の谷間が露わになっている。迅護は自身の赤いスカジャンを脱ぐと、御依里の背にかぶせてファスナーを上げる。


「……おっと、おでましか」


 その二人の周囲を突如、十を超える数の人影が囲い込む。

 全員が白い戦闘装束を纏い、華美な文様をしたサッシュのような幅広の布を肩に掛ける、習術海の象霊使い達であった。その全員が顔を白い面布で覆い隠している。

 しかし迅護は警戒する様子も無く、その影の一番前に立つ人物に声を掛ける。


「これからどうする? そこのガキ二人を持ち帰って尋問か?」

「ここで話すことではない。……ただ、礼は述べよう」


 といって、迅護の胸の中でうつろな表情を浮かべている御依里に頭を下げた。

 白装束の集団は左内と右内の体を、ほんのりと発光している細く赤い紐で縛り付けると、荷物のように抱えて空へと消えていった。

 それを見送りながら、迅護はぼそりと呟く。


「……ま、どうせ揉み消されるんだろうけどな」 

「それは仕方ないよねえ~。そんなことより、初めての象霊使いとの対戦、それも四種の能力持ちとの戦いにしては上出来すぎる結果だと思うけどね」


 木々の影から、飄々とした様子で現れる衣月。

 迅護はその頭に一発のげんこつを食らわせる。


「おお、怖いねえ。別に大した怪我をさせたワケじゃないのに」


 衣月はダメージもないはずだが、わざとらしく頭を軽くさする。


「前から思ってたけど、御依里ちゃんの潜在能力はとても高い。この短期間で僕の教育を早い段階で身につけて、それを応用する技も自分で作り出している。この先どこまで成長するか楽しみになってきたよ」

「親父との決着が近づくのに、楽しむ余裕があるんだな」

「んーん? 楽しんでなきゃ、やってられないとでも言い直そうか? なんてね」


 衣月の浮かべる生意気な笑顔に、もう一度げんこつを食らわせようと拳を振り上げた瞬間、迅護に通信が入る。


「ああ、俺だ。とっくに帰ってきてるぞ……ああ、んん……ハァ?」


 迅護の上げる素っ頓狂な声に衣月も気になり、耳に手を当てて自分の通信機の回線を開く。


「ああ、春鳴はるなりだろ、わかる。むこうで何度か話したヤツだ。……そいつが? 姿を消した?」


 迅護は大きな溜め息を吐いて「めんどくせえな……」と漏らした。


 ――その同時刻、

 迅護達のいる町から数十キロ離れた上空で、春鳴は迅護達のいる町へ向かってまっすぐに飛んでいた。


「やはりもう一度お会いして、その強さの根源を学びたい。私には、何が足りないかを知りたい」

乱術衆らんじゅつしゅうに黙って抜けなければ、もう会う機会はないかもしれない。ならば――)


 春鳴は迅護の戦っていた姿を思い浮かべ、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。

 それは一人の応援者というより、根深いストーカーのような気質を感じさせるものがある。

 ふと、春鳴は向かう先に何かの姿を捉える。


「……なんだ?」

(こんなところに、術者の姿が)


 春鳴の行く手を阻むように、前方に二つの人影を見付けた。


「もう追っ手が? いや、早すぎる」


 警戒し、二人から距離を置いて飛行を止めた。が……すぐに追っ手とは違うとわかる。

 その二人は、乱術衆の特徴である黒い戦闘装束を身に纏っていない。


「おやおやぁん? ほら兄さん(仮)、なんか都合の良いことに、実験台になりそうな生き物がいるねぇ」


 目の前に立つ一人、若い女の術者は不思議な出で立ちをしている。上半身を包帯で包み込み、その上に医者か研究者のような白衣を身につけ、下半身はグレーのジーンズを履いている。長く黒い髪も包帯で包まれており、先端は大きな蝶々結びになっている。背丈は160センチ程度だろうか。

 並ぶもう一人の男は、女と同じように上半身と頭部を包帯で包まれて淡い空色のジーンズを履いているが、その様子は明らかに異なる。女の包帯はどちらかと言えばファッションのような要素が見えるが、男の方はそのまま、本物の傷を包み込んでいるように受け取れる。体液なのか、薬なのか、赤っぽい何かが包帯ににじんでいる。全身を火傷でもしているのだろうか。


「るる、る、ぅるりりりり……」


 包帯男の様子は、まるで飼い主に制止されている獰猛な犬のように、歯を食いしばり、うなり声を上げて全身を震わせている。

 そして敵意の満ちた鋭い眼。その瞳に不思議と感じる、氷の冷たさのようなものを湛えた――青い光。


 気味、が悪い。


「貴様ら、どこの者だ?」


 春鳴は戦闘態勢を取った状態で、二人に話しかける。


「ん? わぁしはぁ『白艶はくえん蒼手そうしゅ』の魔人戒まじんじゅうあざなを『さなぎ』って言いまぁす。んで、こっちは私の兄さん(仮)」

「カッコカリ……? 蛹だと? ふん、聞いたことも無い。しかも敵対組織の魔人戒と言ったな。なぜこんなところにいる?」

「はえぇ、この人まじめキャラでこっわ。兄さん(仮)、どうしよっか?」

「ぐ、るるるる……」

「ふざけているのか、意味がわからん。……いや、待て」


 春鳴は目を伏せ、顎に手を当ててブツブツとつぶやき始める。「そうなんだ、別に魔人戒でも問題はないじゃあないか」

 そして何かを思いついたようにニヤリと笑みを浮かべると、両手を広げて戦意が無いことを示し、交渉を始めた。


「ほぉー? 何してんの? 何のつもり?」

「私は力を求めている。そのためには今のまま乱術衆に身を置いていても望むような成長は見られないと思い、抜け出してきたばかりだ。白艶の蒼手の魔人戒といったな。使える戦力を求めてはいないか?」

「はあン? いんや、別に求めてねぇっすわ。……ああでも、イロイロ使い用はあるもんねぇ」


 そう言うと、蛹と名乗る包帯の女はポンと手を叩き合わせる。そして口が裂けんばかりに横に大きく開いて笑みを浮かべる。


「くけ、くけけけけけ」


 そして何を思っているのか、隣の包帯の男にゴニョゴニョと耳打ちする。

 そして相談が終わると、手を大きく振って春鳴に合図する。


「そんじゃあ採用テストって事でぇ。今からわぁしの兄さん(仮)と戦ってくださぁい。仲間になるなら殺さないようにしてもらえばー……とは思うけど、そこんところは殺し合う気でやってもらった方が兄さん(仮)のテスト運用的に良いと思います。なので、トドメは刺さない感じでヨロ。ハイ、いきなしですがスタートっ」

「ちっ、いい加減な女だ」


 とっさの事にも関わらず、瞬時に構えをとる春鳴。

 大きく手を広げ、パン、と手を叩く蛹。包帯の男の耳にその音が届いた瞬間、男の体はビクリと跳ね上がり、鋭い眼光で春鳴をとらえ、大声を上げた。


「うわあああああああああああああああァ!!」


 よだれを飛ばし、気が触れた獣のように突進する包帯の男。


「無策で正面から来るか。……つまらん!」

空牙クウガ旋弓波センキュウハ


 春鳴は空中にいくつも旋風の矢を作り出し、一発を放つ。

 続けて二発、三発と撃つ。


空牙クウガ散小鳥チリコガラス


 その合間に風の弾丸をいくつも作り出し、旋風の矢の射出に合わせて放つ。

 春鳴の攻撃に隙は無いように見える……が、包帯の男は止まらない。


「んんんんぬぐぅうううううぁあアア」


 叫び声を上げながら、瞬間的に春鳴が放つ脈術と同規模、同威力の脈術を作り出し、相殺させて距離を縮める。


「はぐっ、はぐっ、はぐはぐはぐあぐあぐあぐあぐあぁあああああああ」


 包帯の男は正気ではないことは確かなのに、その接近を止めることが出来ない。


「ちィッ、実力は上位術者クラスかっ!」


 包帯の男の戦い方は、その容姿とは大きく異なり、驚くほど精密で乱れが無い。

 春鳴はそれ以上距離を詰められるのを嫌い、脈術による攻撃を続けながら空を高速で飛び、自分にとって有利な間合いを保つ。


(戦い方、乱発できる脈術の構成から言って、乱術者。……極盾術者である可能性は低いか? いや、まだ決定すべきではない)


 冷静に分析しながら、空から落ち、下の山肌にある森の中へと姿を隠す。包帯の男が追ってきたところを、風の脈術だけでなく土や石を混ぜて攻撃力を高めた脈術も放ち、接近を許さない。

 その、はずなのだが


「ぅう、うう、うううう誰だ誰だ誰だ誰がダレがだれをぉううううぉぉぉおおおォ」


 包帯の男の叫び声が木々の間に木霊す。そのせいで居場所は丸わかりなのだが、動きが速いため撃つ攻撃がまったく当たらない。

 春鳴は小さく舌打ちをしながら、森の中で動きを止めること無く攻撃を続ける。


(こいつ、森の中で戦うことに慣れている。そして、尋常では無い雰囲気のわりに、動きは冷静で機械的だ)

「死ぬ死ぬ死ぬ死に死に死んだ死んだ死んだんだ俺の俺が死んだぁあああああああ」


 声が間近に迫る。


(やつめ、こちらの居場所を正確に把握しているな)

「……しかし負けるイメージは無い」

土鋲ドビョウ錬粧剣レンショウケン


 春鳴は土を固めたナイフを複数作り出し、自身の周囲に浮かべ、カウンターの一撃を探る。


 ――しかし


「……?」

(声が、聞こえな――)


 男の気配と叫び声が、消えた。

 その一瞬――


「んぐぅうううううぁああああああああああああ」


 真後ろから、春鳴の首にすさまじい力が掴みかかる。


「がぁ、ぐ、ぎぎぃ……ッ!」

(い、いつの間に!?)


 まったく判断が追い付かない。

 強引に持ち上げられ、頭部の付け根に嫌な痛みが走る。


「うぉおおおおお、ぉ、あばぁ、お前、ダレだれ、誰がれですれすかぁ?」


 その脈絡のない包帯の男の声に、殺意を感じ焦りの汗を流す。


「く、離せ……わかっ、私の負――」

「なんだなんだなだなだなだがぁああああああああああッ!」


 包帯の男は叫び声を上げながら、すさまじい腕力を発揮して春鳴の体を地面に叩き付ける。


《ズドォンッ》


「が、はぁ――……」


 顔面がバウンドし、意識が揺さぶられる。春鳴の周囲に浮かべていた土の短剣は脈術による浮力を失い、地面に落ちて突き刺さる。


「……かは、く……こいつ、聞こえてな……」


 鼻血を流しながら地面に倒れ込むも、すぐに包帯の男から距離を取ろうと動き出す。

 しかし、逃げ出そうとするその足首をつかまれ、振り回され、再度、地面に叩き付けられる。今度は術による加速も加わっていた。

 頭が、体が、ゴム鞠のように跳ねる。


「ぐぉ……か、へぁ……」

「やめろやめろばかやめろばかばかやめろやめろれろれろれろるらるらるらぁあああああ」


 二度、三度、四度……と叩き付けられ、意識が四肢に通わず、壊れた人形のように抵抗することも出来ず春鳴は体を土に染める。


「……ぅ……ぅぁ……」


 七度目の衝突が終わると、春鳴の体はぐったりと力なく仰向けで地面に倒れ込む。ゆっくりと春鳴の首に両手を伸ばす包帯の男の接近を防ぐことも叶わない。

 両手のひらが首に掛けられ、血流と気道を完全に塞ぐように力が込められる。


「う……ぶぉ、ご……やめ、ろ……」

「アああああぁ、なぁああん……きききええエエエエ」


 命の危険を感じ、手足がほぼ自動的に動き出し、自身の首を掴む包帯男の手に爪を食い込ませる。バタバタと体全体を暴れさせるが、なんの意味も成さない。

 春鳴は包帯の男の目を正面から覗き込む。


(こいつ、化け物か……)


 意識がかすむ視界ですら感じる、ただひたすらの『虚無』の青色。


「が、がごがががが、やーばやばばっ、こいつまずいまずいまずいまずいこいつ死ぬ死ぬすぬすぬすぬそぬそのそぬそぬ……」

「やめで……俺の、負、け……止め、ろ……」

「うぁああああああああああっ!! 死んだぁああああああああああああッ!!」


《ブギィ ゴチュリュッ――》


 春鳴の首を握りつぶす。骨も肉もまとめて変形させる奇怪な音と共に、春鳴の瞳は白目を向き、手足を地面に投げ出して力尽きた。


「ああああああっ!! やっぱりだ、死んだ、死んだ死んだ死のしのしのしししだぁああああ!!」

「まあまあ、落ち着いて兄さん(仮)、わぁしはここだよ」


 両手から血を流し叫ぶ包帯の男を慰めるように、蛹は後ろから優しく抱きしめる。


「ああ……ああ、いるのか? 死んでいるのか? いるいる、俺が、死なせている?」

「死んでないよぉ。わぁしはここにいるから……ね、兄さん(仮)」

「俺の、殺してない……まだ、殺されてない……なのか、そうか……」

「そうだよ。死んでないよぉ」

「……やっぱり死ししんだんだ?」

「死んでないってば。ちょっとウザいよ~」

「でもででも、死んだ?」

「はいはい死んでませぇん」

「死……死ししし……そ、そか……そそそそ、そか」


 落ち着きを取り戻すと、糸の切れた人形のようにぐったりと力を失う包帯の男。小さな声で「るる、るるるる……」と小さくうなり声を上げるだけ。

 蛹はその背中に抱きつきながら舌をなめずり、怪しい笑顔を浮かべ、何かを企むようにクツクツと笑い声を漏らすのであった。


「本当は兄さん(仮)をお披露目するつもりだったけど……」


 蛹は、遠く、御依里達がいる町の方を眺め、口の端をいびつに歪ませる。


「ま、今回はこれでいっか。もっと私のために動いてね、陸人りくひと兄さん(仮)……」

「ぅうううううぅ……ぅうううう」

 

 包帯の男は、

 ただ苦しそうに、つらそうに、

 その瞳に青い光を灯し、うめいていた。

 

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