駆――③



「ほんとうにニンジンなんて食べるの?」

「ほんとほんと、見ればわかるわ! この子の名前はニンジンが好きだからニンと名前を付けたと、おばあさまが言ってたもの」


 そういって燈水ひすいは、茹でてすり下ろしたニンジンを乗せた小皿を持って、古書店ジーニアスの畳部屋の隅に座り込んでいる猫のニンの前に小走りで歩み寄った。

 猫が本当にニンジンを食べるのか? 半信半疑に成りながらも気になる御依里みよりは、ニンの前に小皿を置いて背中をくすぐる燈水を見守っていた。


「あれ? どうしたのニン。食べないの?」


 しかし少女の期待と打って変わって、猫のニンはゆっくりとした瞬きをしながらも、小皿のニンジンにまったく興味を示さず、ただ身体を丸めて座っていた。

 御依里は首をかしげながら小さくうなる。


「うーん、このニンジンが嫌いなのかな? それともニンジンのすり下ろした部分が美味しくない、とか?」

「ううん、今まではそんなこと気にしなくても食べてたわ。どうしちゃったの、ニン……」


 少女は大人しく丸まっている猫のアゴを撫でる。しかし猫は静かに横たわり、そのまま眠るような姿勢を取って目をつぶってしまった。


「どうしちゃったの……」


 燈水は、ただ不安そうな顔で猫の姿をじっと見つめていた。

 古書店ジーニアスの隅で本棚に背中を預けて二人を見ている迅護じんご。御依里は立ち上がると畳部屋から出て、迅護の側にまでゆっくりと歩み寄り、すぐ隣に背中を預けて並んだ。


「そういえば、あの時は急いでたから聞きそびれたけど、どうしてあの不良たちを脈術で蹴散らしちゃダメだったの? 無力化して燈水ちゃんだけを連れて出ればよかったのに」


 迅護はチラリと御依里の横顔を見て、


「あの方法が最善だったとは言わねえが、それもお前の人殺しアレルギーが理由だ」


 深く、長い息を吐いてから話を始めた。


「今ごろ、術界の調査だの対策だのしてる奴らが、燈水が使った力のせいでどれだけ影響や被害が出たのか調べているところだ。あの象霊の能力は、事前に興味や関心を失うようにしておけば記憶されることもほとんど無いらしいが……事後じゃ意味が無ぇらしい。お前や俺があの連中を脈術で蹴散らしたところで記憶が消えることは無い。そうなると高度な記憶処理が必要になるが、術界もそんな手間暇をかけてはくれない。最悪、削除だな」

「……どうして、すぐ殺す方向に持って行くのかな」


 御依里の声は批判的だが、迅護に向けられた物では無いことはハッキリとわかる。


「逆に、どうしてお前は殺したくないんだよ。生かす方が面倒ごとの多いのが、術界で生きるってことだ」


 聞かれて、御依里は眼を深く閉じる。しかしすぐに微笑を浮かべ、小さく笑い声を漏らした。


「特別、こんな理由があって、っていうほどでは無いかな……」


 でも、といって御依里は古書店の天井を見上げる。蛍光灯が一本、チカチカと不安定に点滅している。


「もう十年前になるんだね。この町に来るほんの少し前の事なんだけど、私とけっこう仲良くしてくれる女の子が一人いたの。その子が飼っている茶色の柴犬とよく遊んでた。……だけど、その子の親が術界の敵、魔人戒だって判明しちゃった。それで術界から襲撃を受けて……運悪く、その子も巻き込まれて死んじゃったの」


 顔に掛けている赤フチの眼鏡を取り、そのレンズを見つめる。ほんの少しだけ指紋が付いているのを確認すると、シャツの裾でぬぐいながら話を続ける。


「でもその時は……まだちゃんと人の死が深く理解出来て無かったこともあるけれど、こんなこともあるんだ、って程度で思ってた。けれど、その子が飼っていた犬を引き取ってすぐ、その気持ちが塗り替えられることになったの」


 眼鏡をかけ直し、胸の前で両手の指を向かい合わせに付ける。そしてぐっと押し込んだあと、力を抜くとバネのように元の形に戻る。それを手癖のように繰り返す。


「その犬は飼い主がいなくなった事に気づくと、水も飲まないくなって、ご飯も食べなくなって、散歩にすら出かけなくなったの。私は私なりに責任を感じてたから何とかしよう、って子供なりに頑張ったんだけど……っていうより、大人たちが何も助けてくれなかったんだよね。そうこうしている内に、どんん痩せ細っていって、結局は何かの病気が原因で死んじゃった」


 思い出し、胸が締め付けられ、唇を噛む。


「ううん、大人にそう言われたからで、弱って死んだのか、本当に病気で死んだのか、あの時の私にはわかんなかった。……けれど、人が死んじゃうと、こんなことが起きるんだって、どうしてかわからないけれど、その時になって私もその女の子が死んだことが本気で悲しくなって……部屋に戻って一人でたくさん泣いた」


 その時の気持ちを思いだしたのか、少し沈んだ声で、けれど微笑を浮かべて、迅護の横顔を覗き込んだ。


「だからかなあ、って思う。あんまり大した理由じゃないでしょ? ごめんね」


 迅護は棚に背中を預けたまま、静かに御依里の言葉に耳を傾けていた。


 ――しかしふと急に、燈水のいる部屋の方に視線を向け、棚から背中を離した。


 御依里も燈水のいる畳部屋の方に眼を向けると、燈水が困ったような様子でこちらを見ているのがわかった。

 異変を感じ、御依里はすぐに燈水の元へ駆け寄る。

 すると燈水の前で横たわる猫のニンは、燈水に強く手で揺さぶられているにもかかわらず、まったく身じろぎ一つしようとしなかった。


「ニンが、ニンが……動かないの」


 燈水の目には、今にもあふれんばかりの涙が浮かんでいた。



 場所は変わり、町の中のとある大きな洋館の応接間にて。


「なるほど、習術海しゅうじゅつかい湖元こもと家との関係を打ち切り、解体すると」

「現時点でそう言い切りませんが、遠くその可能性もあると考えていただきたい」


 静かな空気の中、長椅子に座って対面する疾凍はやてと、背広の中年の男性の視線が交差している。

 時刻はあれから日をまたいで夕方。まだ明るい日差しがカーテンの開いた大きな窓から差し込み、部屋に浮かび上がる小さなほこりをチラチラと輝かせていた。


「今回の件、わたくしの方で出来るだけ穏便に習術海へ報告させていただきました。しかしながら、それとは関係なく、習術海はすでに湖元家に象霊しょうれいティカノンドの管理をさせている必要性は薄れてきていると判断している。そう伝えるよう言ってきました」


 疾凍は笑っているように細められた目をそのままに、表情は真剣な様子で中年の男性と向き合っていた。

 男性の体格は肥満気味の大柄ながら、鋭い視線には力強さを感じる。脂肪により顔の輪郭が崩れてはいるが、目元鼻筋だけなら整って見える。

 燈水の父親であり湖元家の当主、湖元こもと燈陰ひかげである。


「なるほど。その理由が、さきほど言われた習術海と極盾きょくちの共同開発した極盾きょくち道具どうぐである、と言いたいのですな」

「ええ。もともと湖元家が管理しているような象霊を宿した動物の例は、非常に希ではありますが国外にも十数例ほど報告されています。そしてすでにその内で六件、共同開発した極盾道具による管理に習術海は切り替えています」


 疾凍は目の前のテーブルに置かれた紙の資料を探り、その中から一枚の写真を取り出した。

 黒く光る円盤のようなソレは、見ようによっては何かのアンテナのようにも見える。

 燈陰はアゴを上げ気味に、写真を見下ろすような視線で話す。


「ほう。しかしその極盾道具による管理で不備が起こるかどうか、まだ実験段階であると言いましたね? 私たち湖元家は代々、響振きょうしん術者じゅつしゃとして猫たちと共にあることで象霊能力を行使し、町の秘密を守ってきました。その実績と信用を考えれば、まだ不安の大きな極盾道具にこの町を預けるとは……少々無理強いが過ぎるのではないでしょうか」


 指を組んで椅子に深く座り込む燈陰の態度には絶対の自信が感じられる。疾凍は単純に習術海の考える方針を伝えているだけなため、燈陰の少々横柄な態度に、内心わずかな苛立ちを感じていた。


「……面倒くさい」


 思わず、声にもならない小さな呟きで愚痴を漏らした。燈陰の耳には届かなかったらしく、何を根拠にしてか、勝ち誇ったような態度で窓の外を眺めている。

 窓の防音性能がしっかりしているため音はわずかにしか通らないが、外ではセミの鳴き声が騒がしく鳴り響いていた。


「とにかく、再びこのような事件が起これば、湖元家にとって最悪の事態も招きかねないと考えていただきたい。これまで以上に、象霊の管理を徹底していただきたく願います」

「子供がやらかしたことですからなぁ……まあ、厳しくしつけ直すつもりですが、少しは娘の気持ちも考えてやってください。昨年、母親を亡くしたばかりですからね」

「そのようにお嬢さんから聞きました。奥様と、最近お母様も亡くされたとかで」


 言って直後、燈陰は目を丸く見開いて、ゆっくりと首をかしげた。


「何を言ってるのですか。母はいたって健康体です。うっとうしいくらいにね」

「は? しかしお嬢さんは、お婆さまはいなくなったと……」


 燈陰は肩が上がるほど大きく息を吸い込み、吐き出しながら軽くのけぞった。そして目を片手の平で覆い隠しながら「あの婆は本当に……」と地を這うような声を漏らした。


「いや、勘違いさせて申し訳ない。本当に私の母は確かに生きております。今はわけあって館にはいませんが、町の外で元気にしていることは監視から聞いていますので」

「お嬢さんと同じように、家出でもされているのですか?」


 疾凍は若干、皮肉を含ませたように言ったのだが、燈陰は本当に呆れかえったような様子で溜め息を吐き、腹の前で両手の指を組んで、対の親指をウネウネと回転させる。


「実の母に厳しいことを言うようですが……あれは本当にいい加減な生き物です。町の外に出た理由もその……十数年前からパチンコだのスロットだのにハマっていましてね。この町には一軒しかないでしょう? そんなわけで、この町にこれ以上いられないっと言って、金を持ち出して出て行ってしまったんですよ。アホでしょう、正直に言ってしまって」

「はあ」

「娘にも猫の名前の由来を聞かれた時、ニンジンが好きだからなんて適当なことを伝えて、娘もそれを信じてしまいまして。本当は『しのび』と書いてニンと、亡くなった妻が名付けたんですけどね。まあ、猫もなんだかんだでニンジンを食べるようになって取り消す必要もなくなりまして。つまらん冗談でしょう。しかしなぜか娘は私の母に懐いてしまってですね、他にも多々、母のいい加減な言動に困らされました」

「なるほど」


 愚痴を吐き出して少し気持ちが整ったのか、燈陰は姿勢を正してソファーに座り直し、少し落ち着いた雰囲気で語り始めた。

 疾凍の視線は冷たい。


「しかしですなあ……あの猫も十八歳でしょうか。だいぶ高齢になりまして、つい先日の健康診断でもあまり長く生きてはいられない、今年いっぱいと獣医に言われました。娘には黙っていたのですが、なんとなく感じてはいたのかもしれません。今回の家出に猫を連れていったのも、ただの反抗というより、それが関係しているのかもしれません。以前から一緒に外に出たいと言っていましたからね」


 疾凍はふと視線を燈陰からそらす。構造が電気式になっている形だけの壁埋め込み暖炉の上に、一匹の猫が座り込んでいた。

 ニンと同じ黒猫。艶のある毛並みから若さがうかがえる。疾凍の方をじっと見つめる様子は、何か警戒しているように見える。決して人なつっこいタイプの猫では無いだろう事は察することが出来る。

 ふと、その猫が何かを感じ取るように、目を大きく広げ、耳をピクピクと動かした。


「……おお、そんな、今なのか」


 燈陰は驚きながらゆっくりと立ち上がり、その猫の側へとのしのしと近づいてゆく。

 象霊術者である燈陰の目には、猫の背後に浮かび上がる、普通には目視することも困難な存在――下半身が木の根、背中には蜘蛛の巣のような模様の三対の蜻蛉の羽、上半身は長い髪の若い女性のように見える、摩訶不思議な姿の象霊をハッキリとみることが出来た。

 象霊術者では無い疾凍には、なにか錯覚と思い込んでしまいそうな、白いモヤがうっすらと見えるだけだったが、燈陰の表情から察することが出来た。


「ニン、死んでしまったのか。……妻が深く愛した子だった」


 燈陰は暖炉の上で身をすくめる猫に手を伸ばし、そっと抱え上げる。ミャァ、と小さく鳴き声を上げる猫は、まだ自身の身に何が起こったのか理解していない様子。安心を求めて、抱える燈陰の腕の中で目をつぶり、身体のすべてを預けていた。

 疾凍は無関心そうな眼で、猫を抱きかかえる燈陰の後ろ姿をじっと見ていた。

 そのまま十数秒が過ぎて、疾凍は「それでは失礼します」と長椅子から腰を上げた。

 そのとき、背を向けていた燈陰は張りのある声を発した。


「習術海が、湖元家にそのような意識を持たれていることは……理解しましたよ。しかし、我々にも二〇〇年以上にわたる務めと、術界との関係を続けてきた誇り、覚悟があります」

「……ただ術界の庇護のもと、長々と金銭的支援を受けて生きながらえてきたボンクラな一族では無いとおっしゃられる?」


 疾凍の声は攻撃的で冷たい。燈陰は一瞬言葉を詰まらせたが、ソレが怒りによるものか、図星による戸惑いによるものなのか、彼の背中を見るだけでは計れない。


「そのような厳しい言葉は初めて聞いた。あなたと私の付き合いもながいはず」

「ただ永いだけですね。そこに術界の意思を反映させる効力は一切無い」

「響振術者のみではなく、私が持つ、多くの血系統契約けっけいとうけいやく術者じゅつしゃとのつながりも必要無いと言われるのかな?」

「答えは先ほどと同じです。……はっきり言いましょう。このまま、ただ術界の命令を待ち続けるだけならば、湖元家の未来は無い。十年後か、五年後か、たった一年後か、あなたたち家族は術界の庇護を解かれ、路頭に迷う。その後は術界の管理下で目立つ動きも働きも取ることはできず、その年で一般社会の……そう、アルバイトでもしながら死ぬまで細々と生きながらえるだけとなるのかもしれない」


 疾凍はドアに歩み寄りながら語る。そしてドアノブに手を掛けたところで背後へ視線を向けて、その鋭く細い眼で燈陰の背中をにらみつけた。


「そうならないよう早期に意思を示されるのならば、新しい住まいに、勤め、働きをご一緒に探すなど協力は惜しみません。なるべく早く決断下さい。今、術界は時代の転換期を迎えているのです」


 ドアを開き、身体を外へ半分出した状態で、疾凍は最後の言葉を投げた。


「私が求めるのは新しい術界の姿。古い慣習や仕組みに興味は無い」


 ガチャン、と鋭い音を放って応接間のドアは閉じられた。

 燈陰はただ、胸の中に抱える猫を撫でながら――


 強く、歯を、食いしばっていた。


「ニンが、動かな……動かない。息してない!」


 ニンの身体に触れながら慌てた様子で御依里の顔を見上げる燈水。御依里もニンの身体に触れて耳を近づけると、心音が止まり、呼吸をしていないことを確認する。そして「私に貸して」と言ってニンを腕の中に抱え上げた。

 畳部屋のコンセントの側に駆け寄ると、ニンの身体を床に置いて御依里はコンセントの穴に指先を触れる。


(訓練でも人形。まして、動物でするのは初めてだけど……)


 不安がよぎる。一瞬、迅護の方へと視線を向けた。迅護は畳部屋の前のカウンターの横で立ってこちらを見ている。

 その鋭い眼は、御依里の背中を後押しするような熱を帯びていた。


「やってみせる」


 神経を集中させると、脈術を促してコンセントからバチリと電力を取り出す。


操電術ソウデンジュツ


 猫に触れる御依里の指先から紫電が放たれ、そのショックによりニンの身体が跳ね上がる。しかし床に落ちたニンはピクリとも動く事無く、眼を閉じている。


「もう一度……動いて」


 二度、三度、四度……繰り返し繰り返し電気ショックを行うが、ニンの鼓動が再び動き出す事は無い。

 離れて見守る燈水は、事態を察して畳の上に崩れ落ち、嗚咽をこぼして涙を流し始めた。


「……そんな、もう、動かないの……?」


 十回を数えるだけの電気ショックを与えただろうか。しかし、もうニンが動き出すことはないと察し、御依里はコンセントの穴とニンの身体から手を離した。

 その手を、後ろから誰かが掴んだ。


「俺が変わる」

「迅護……」


 振り向く御依里もまた、燈水のように涙を流しそうなほど悲しみを露わにしていた。


「迅護、お願い」


 返事も無く、迅護は御依里と場所を代わり、御依里と同じようにコンセントの前に座る。その両手には鉤爪を持つ黒いグローブ『エクスペディション』を装備し、バチバチとコンセントから電力を取り出し、両手のグローブの中に電力を蓄えていく。

 そして両手の指先を向かい合わせ、抱えるようにして電気を放ち往復させると、次第に電力が増幅していき、火花は激しく光を散らしていく。


「ふっ!」


 そして気合いを入れるように息を吹き出す一瞬、両手を素早く握りしめ、グローブの中に電気をすべて吸収してしまう。握りしめられた拳の表面を、小さな紫電がバチバチと走る。

 そして今度は両手でニンの身体に触れると、断続的に電気ショックを促す。その光は、ただの力強さだけでなく、繊細な技術を感じさせる。

 一度、二度、三度……間隔を空けての電気ショックがニンの身体を跳ね上げる。しかし、ニンの口元からは泡が出てくるものの、意識はもどらない。半開きになった眼からは力の無い光が覗いている。

 わずかに、肉の焦げるにおいが漂い始める。


「……もういい、もういいの!」


 そう叫びながら、燈水は迅護の背中に飛びついた。迅護は素早く放電していた電気をグローブの中に納め、ニンの身体から離れた。


「お母様が言ってたわ。もしニンが死んで象霊が離れていってしまう時、象霊は一緒にニンの魂も持って行ってしまうと。そうなると、もう二度と眼を覚ますことはないと……」


 迅護が立ち上がると、燈水は前に倒れ込むように両手を畳の上に付けた。そのまま四つん這いでニンにゆっくりと近づくと、ニンの身体を抱きかかえ、その小さな胸の中に抱えて涙を流した。

 御依里は燈水の肩に両手を乗せて、その小さな身体を支えた。


「ごめんね、私たちには、どうしようもなくて……」

「いいえ、だいじょうぶ。私は、だいじょうぶだから……」


 強気にそう答えて泣きじゃくる燈水の身体を、包み込むように抱いた。


「ニン、ニン……私の大切なお姉ちゃん……」


 そう呟きながら涙を流す少女の背中は、年相応に頼りない、守らなければいけないか弱さを御依里の両腕に伝えていた。

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