【大本編】お姫様は皇女殿下

第42話 お姫様は皇女殿下

 お召し替えを終えたサラがベルさんを従えて、いそいそと戻ってきた。


 壮然な青と純然な白が互いに引き立て合う美しいドレスに身を包んだサラの姿は、まさしく皇女然としていて、とっても綺麗だ。


 タイパールと呼んでいた宝石のような略章はなく、代わりにさっき僕が着けてあげた首飾りを首元にピタッと提げていた。


 ちなみに、式典の準備は貴族の参列等で大幅に遅れ、一応主賓のような扱いの僕らは最後に入場することになっているらしい。


 だから準備が整うまでの間は束の間の休憩時間、といった感じだ。


「ど、どう……? ドレス……着てみたんだけど……」


 ドレス姿では走るのが大変だったのか、少しだけ息を荒げ頬を染めたサラ。


 そんなに慌てなくてもいいのに……。


 とか思っていると、サラの唇が異様に紅いというか、艶やかになっているのに気づいた。


 ……口紅? サラが着けたところを見るのは初めてかもしれない。

 その効果かサラが大人びて見える。


「うん。いいと思うよ。あ、でも……サラ、少し後ろ向いて」

「え?」

「いいから」

「うん……」


 疑問符を浮かべつつも後ろを向いたサラの首筋に手で触れ……、


「うん。いいよ」


 サラに合図を出す。


 それに合わせて僕の方へ向き直ったサラは、胸元を手で押さえている。


「これで、苦しくないだろう? それに……こっちの方が、似合うかなって」


 お召し替えの前に首飾りを僕が着けてあげたとき、サラの首元には既に略章があったので、ピタッと首に張り付くみたいに着けざるを得なくなっていた。


 けど今、サラは略章を佩用していない。


 サラは駆けてきたから息苦しそうだったし、こっちのほうが綺麗かもと思ったから、少し留め具の位置を変えて緩めてあげたんだけど……。


「……ありがとう。助かるわ」


 サラもそれは感じていたみたいで、はにかみつつ素直に頷いてくれた。

 けど……お召し替えなら他にメイドさんとか色々いたと思うのに、首飾りについてキツイとか緩いとか、何も言われなかったんだろうか。


「よかったですね、殿下。ユウトくんに直してもらえて」


 僕の思考に割って入ったのは、サラに随伴していたベルさんだった。

 その表情は微笑みで満ちている……う、何か嫌な予感。


「べ、ベル?」

「殿下はユウトくんに着けもらったから、苦しくても誰にも触れさせなかったんですよ」

「もう! ベル、それは秘密って言ったじゃない! なんで言うのよ!」


 ベルさんの暴露にサラは顔を真っ赤にさせて激昂している。


「そうだったのか。ごめんね。略章があったから少しキツめに着けたんだ」


 僕はそう言ってサラに謝りつつも、


「でも、お城の人をあまり困らせちゃダメだよ。特にセレナさんは」


 と控えめに釘を差しておく。


 セレナさんというのはサラのお世話係のようなメイドさんだ。


 サラの着替えや身の回りのことをしてくれるお姉さんみたいな人で、僕も会ったことがあり、サラと会う手助けなどもしてくれた理解のある人だ。


「わ、分かってるわよ!」


 サラは目を閉じてプイっとそっぽを向く。


「本当かな?」


 僕は明後日を向いてしまったその顔を回り込んで見つめる。


 ついでに「本当かしら?」とサラがよくするいたずらっ子の笑顔を真似してみせた。


 少ししてサラは半目になり、サラの真似をする僕を見る。


 しばし見つめ合うふたり。


「「ふ、ふふ……」」


 途端に可笑しくなって、堪らずふたりして笑い合う。

 やっぱり、サラの真似をしてるってわかっちゃうかな。


「ユウの言う通りね。気を付けるわ。……でも、これは特別だから」

「そっか。なら、いいんだ」


 サラが大切そうに僕の首飾りを触るもんだから、僕もそれ以上何も言えなくなった。


「……ユウトくん、これをどうぞ」


 話が途切れ、頃合いと見たのか、ベルさんが携えていた木剣を差し出してくださる。


「あ、ありがとうございます」


 恭しくそれを受け取るけど……少し疑問があるんだよな。


「ベルさん。どうして式典に木剣がいるんでしょうか? 僕は剣士ではないと思うのですが……」


 儀礼用の木剣がどうのと言っていた記憶があるけど……。


「ユウトくんは知らなかったのですね。いいでしょう。軽く説明しておきます――本来、皇城はお付きではない平民が入れるものではありません。ですが例外として、神官や貴族の方々を御守りする護り手は入城を許可されているのです。そのため、形式だけでも貴族の護り手である剣士の体裁を取る必要があるのです」


 ベルさんは腰に提げている自分の剣に手を添えて、事細かに説明をしてくださる。


「しかし、平民に本物の剣を帯びさせるというのも中々難しく、神聖な式典で真剣を佩用した偽物の剣士が混ざっていれば、皇王陛下並びに創世神への儀を欠き、不敬となってしまいます。それらを鑑みて、平民には木の剣を帯びさせ剣士見習いのような形で儀に参加させる……というわけです」

「な、なるほど。よく分かりました。ありがとうございます」


 詳しく丁寧に教えてくださったベルさんに、僕はお礼を述べる。


 王族や貴族の慣習や慣わしがあって、儀礼用の剣が作られたってことらしい。


 偽りは神への冒涜、とは聖書にも記されていることだ。


 だからこういう回りくどいような仕組みを考えたのかな。


 うん。難しい世界だな……。


 そんなことを考えながら、渡された木剣を腰に差していると、


「さて、先輩も……先輩?」


 ベルさんの訝しむ声が聞こえた。


「お、おお。すまない。ありがとう。ベル」


 一瞬遅れて父さんが差し出された木剣を受け取る。


 なんか、心ここにあらずと言った感じの様子だけど……。


「……もしかして、殿下に見惚れていたのですか?」

「い、いや、そんなことは!」


 顔を赤くして必死に否定している。

 父さんのこの慌て方は……図星っぽい。


「へえ、私のドレス姿、そんなによかったの?」


 サラは、口角を僅かに上げたいたずらっ娘の笑みで父さんに訊ねる。


「お戯れも程々にお願いします……姫様」

「あら、そんなつもりはなかったのだけれど……私、どう?」


 たじたじの父さんに畳みかけるように、胸に軽く手を当てて、首を傾げたサラ。


 父さんもこれには陥落し、


「う、美しい、です」


 と素直な感想を述べた。


「そう。なら、良かったわ」


 サラは凄く満足そうな笑みを浮かべ、大きく頷いた。


 このやり取り、今日何度目だろうか。

 でも、不思議と新鮮で飽きない感じがするな。


 そうこうしていると、近衛騎士団の鎧を着た人が僕たちの許に近寄ってきて、ベルさんに手を当て耳打ちをした。


 ベルさんは分かったと頷くと、


「やっと式典の準備が整ったようです。さて、会場に行きましょうか」


 といつも通りの、いやそれより朗らかな笑顔を浮かべ、僕たちの向かう先、式典会場を手で導き指した。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 厳かな空気が流れ、粛然とした冷涼な風がまとわりつくピリピリした雰囲気。


 主賓入場の号令と共に扉が開放され、ベルさんを先頭に案内されながら踏み入ったそこは、皇城おうじょう本丸の中央にある――謁見の間だ。


 威風堂々とした旋律――エーメル皇楽隊の入場行進曲が流れる中、見渡す限りの美しい装飾や備えられた品々が飛び込んで来た。大きな教会の造りとよく似ている。


 しかし、教会の比ではないほど広い。

 僕たちが入って来た扉の真向いには、剣覧会のときのような一段と高くなった舞台、その壇上に煌びやかな玉座があり、それを繋ぐように楕円状に誂えられた階段が僕たちの立つ地と繋がっている。


 豪勢な石造りらしい床には、中央を貫くように伸びる紅い絨毯が敷かれ、どうやら蒼い絨毯になっているらしい壇上まで太い道を伝えている。

 その紅い絨毯が蹴立てたように、式典の参列者が放射状、或いは美しい内壁と直列に並び玉座に向けて正対していた。


 各所には、四方領土それぞれの紋章が染め抜かれた旗が掲げられ、眩い衣装をお召しになった貴族様方や近衛騎士団とは違う鎧を纏った剣士が立っていた。


 向かって左にいる蒼い鎧の集団は……アルベント聖騎士団。


 とても仕儀正しくしている。


 如何にも重い空気に気圧されつつも、僕たちは紅い道を進むベルさんの後を追う。


 舞台壇上近くまで行くと、ベルさんは右に方向転換。


 僕もそれに倣って進むのだけど、それに伴い、来た道をサラの親衛隊が塞ぐようにして二列横隊に編隊するのが見えた。


 そしてその後ろを楽器を持ったままのエーメル皇楽隊が四列横隊になり、親衛隊と同じようにして固める。


(え、演奏しながら動くなんて……凄いな)


 一糸も乱れない完成された所作に感心する。

 ベルさんに導かれた方向には……


 ハイリタ正教会司祭様に


 シベリタ卿を始めとする四方領主様、


 国政の方針を決定する元老院の長


 ――皇国議会元老院議会長政令大臣様。


 錚々そうそうたる顔ぶれが連なって、少し床が高くなった場所に座っていた。


 その床が高くなっている場所まで近づくと、ベルさんが止まり、反対を向くように指示された。


 おどろおどろしながらもその通りに回れ右。僕の後に続いていた父さんも僕の隣に並ぶ。


 すると、紅い絨毯から蒼い絨毯へと変わる境界に立つサラが見えた。


 さっきベルさんが方向を変えたとき、その後に続かずに所定の位置まで進んでから歩を止めたためだ。


 そのサラの横顔の向こう側には、近衛騎士団総騎士団長ラフトル様、副騎士団長ステラ様、そしてこの式典会場の至る場所で確認できる金糸が眩しい壮美な衣装を纏う城区近衛騎士団の儀仗隊ぎじょうたいの剣士たちが見える。


 ついでに儀仗隊が厳重に守っている見慣れない存在も確認できた。


 見知らない服を着ている……スロールラバンの外交官の服とよく似ているからきっと、連合帝国の人達なのだろう。


 その最前列に、周囲より豪華そうな服を着た存在を認めた。


 綺麗な金色に、碧色の深みのある瞳が印象的な男の子……きっと、あの人がラルス王子殿下なのだろう。


 僕よりも背が高く、年も二つか三つか上のような気がする。


 あの子がサラのお相手……か。


 複雑な心境で見ていると、エーメル皇楽隊の演奏が止んだ。


 ――いよいよか。


「清き風、兆し良く吹き、蒼き鳥、花の香を知らせるが如く唄う、佳き聖なる生誕の日」

「其の者、彼の日を数えて早十日。未だうら若き穢れを知らぬ無垢の乙女なれど、不遜ながらいずれ皇国を守る聖女とならざりける」

「本日、今一度紐解く我が王家の歴史――栄えあるハイリタの教えに傅き、賜りし神器をお護りする我がすめらぎの一族。その光栄に伏して無辜むこを守れと聖なる祈りを奉らん」


 頸飾けいしょくと言われる金属製の首飾りを佩用した彫り深いシワが印象的な皇王陛下と、サラとは違った美しいドレス姿の皇王妃様――皇后陛下が舞台の上から難しい言葉遣いで隆々と口上を述べられた。


 ――皇女戴冠の儀――


 国中が持ち切りだったサラの戴冠式が始まった。


「魔を排して民と皇国みくにを守りし盾――御剱みつるぎ

「豊壌の肥沃な大地を創りし至宝――宝玉ほうぎょく

「畏くも神の御業を総覧せし聖典――聖鏡みかがみ

「怖れぬ志、慈しみの心、全てを知る皇――勇、仁、知を司る神器よ。今此処に新たなる聖女の誕生を祝福し、福音の調べを授けよ」


 皇王陛下のみことのり――祝詞が謁見の間に響く。


 創世神様から王族に授けられたと言われる三種の神器――御剱・宝玉・聖鏡。


 その全容は正教会の重鎮でも分からないことが多く、皇王陛下ですら触れることが憚られる畏れ多い代物。


 但し、その一角を成す御剱だけは破魔の剣という名で知られている。


 サラから軽く聞いた程度の話だけれど、一緒に読んだ絵本にも破魔の剣についてだけは触れられていた。この本丸の中央に聳える塔、その最上階に安置されているらしい。


「神の教えに従いて――齢十を迎えた皇の乙女へ戴冠と聖なる力を紡ぎし杖を授与する」


 少し間を置いて艶やかで品のある声色……サラのお母さんである皇后陛下のお声が響く。


 それを合図として、サラが着々と一歩ずつ階段を登り始めた。


 絨毯の上から階段を叩く音が僅かに響き、足が触れるその度に強い緊張が走る。


 何段かの階段を登りきると、その壇上に立った小さな存在に皆の視線が集まる。


 ――皇女正章授与


 号令と共に皇統儀礼院の官服を着た人が仰々しい盆に何かを載せて皇王陛下のもとへ寄る。


 載せられているそれは……銀色に輝く可愛らしい装飾が特徴的な小冠ティアラと、簡素でありながら洗練された意匠が美しい杖――この国で皇女の証とされるものだ。


 皇王陛下は盆に載ったそれらを手に取り丁重かつ神々しい所作で運ぶと――小冠を黄金色サラの小さなあたまに載せ、恭しく差し出されたたなびく雲の如き白く細いたなごころに杖を置いた。


 ……これにて、正式な皇女の誕生……ということかな。


「皇女よ。聖名の真名を現下大衆に示せ」


 皇王陛下の言葉に、皇女となった存在は回れ右をして反転、そのまま高々と杖を掲げた。


「サラ・システィーナ・ルミス=システィーリヴェレ=ハイリタ」


 聞きなじみのある明瞭な声。


 いつもの元気いっぱいのそれとは違う……やや緊張して震えている声色。


 僕の大切な幼なじみの、サラの声だ。


 その首元には、僕が誕生日の贈り物として送ったフロリカの首飾りが煌めいている。


 ――まさか式典にまで、着けてくれるなんて。


 僕が人知れず感動する中、式典は滞りなく続く。


「先の通り皇王皇后両陛下より詔勅しょうちょくを賜り、晴れてハイリタ聖皇国の皇女となりました」


 杖を掲げたまま宣言するサラの威風は、まさしく一国の栄えある皇女。

 凛々しくも可憐な姿を謁見の間に集った現下大衆に示していた。


「さすれば、無辜なる民へ幸福の福音を与えます」


 格調高い口上を続け、右手で掲げていた杖を大きく十字に振る。


 すると、小さな光が杖の先に宿る。


「聖なる神が導きましし皇国の未来に、あまねく光が注がれんことを」


 そう宣言して、杖から神聖力を放出し、式典会場全体を柔らかな光で照らす。


 ――光のぎょく、我が心意に下りて、顕現せよ。


 式句はこんな感じだったような気がする。


 僕が今まで見たことのある中でサラが行使した最大の光属性神聖術だ。

 杖があるとやっぱり神聖術も発動しやすくて効率もいいんだろうな。


 でも式句を諳んじない無声詠唱だからかなりキツそうだけど、やっぱり本番に強いサラだ。謁見の間は光でちゃんと明るくなっているし、上手く術が機能しているように思う。


 ちなみに最も発動しやすいのは風の属性で、神聖術は基本的に風属性を扱うことが多い。


 僕がサラの晴れ姿を見届けていると……最前列に参列している貴族たちが小さな声で色々とよからぬ野次を飛ばしているのが聞こえた。


「この程度か、これなら娘の方ができるぞ」

「お言葉が過ぎますぞ。まあ、それにはワタクシも同意致しますがな」


 お城に入るための技術としてサラに習った読唇術のおかげで、会話が理解できる。


(この……サラだって頑張ってるんだぞ!)


 僕は詰る貴族たちに一人憤慨する。


 していた、のだが……、


「フン。まあ、しかし――」

「前にお会いしたときより、マシなお顔をしていらっしゃる」

「確かに。何があったのでございまでしょうな」


 壇上で光を照らし続けるサラを見上げた貴族たちは、髭の生えた顔で少しだけ笑った。


 隣に立つ貴族も不思議そうに同意している。


 ……サラが貴族にあまり良く思われていないというのは知っていた。

 陰で嘲笑されることも多かったんじゃないかなって思う。


 でも、今の貴族たちは……嘲笑とは違う笑い方だ。


 僕の幼なじみの頑張りは……少しずつだけど、きっと届いている。


「サラ皇女の誕生を祝し、三唱します。皇国公民一同を上げご唱和ください」


 そう宣言するのは、僕の真向いにいる雄々しい存在――いつもの鎧姿……ではなく式典用らしい兵服を着た近衛騎士団・総騎士団長ラフトル・オグラベル閣下だ。


「サラ・システィーナ! 万歳!」

「「「サラ・システィーナ! 万歳」」」


 団長閣下の万歳に、この場にいる全員の歓呼の声が応えた。


 僕も大きな声で万歳する。


 父さんは……涙目で「ご立派になられて……姫様ああ!」と何処かきちゃない嗚咽交じりで万歳をしているけど……。


 背後からも大きな声が聞こえる。


 しかし、僕から見た正面や壇上に向かって後方からは団長以外の声はあまり聞こえない。


 あまり快くは思われていない、微妙な感じがする。


 ――でも、大丈夫。きっとすぐにはちきれんばかりの三唱に変わるさ。

 サラは、いつだって凄い子なんだから。


「皇女の誕生を以て、聖皇国基本箇条憲法第七条に則り、皇女親衛隊の叙任を行います」


 団長閣下が式典の変遷を宣言した。


 ――皇女親衛隊叙任式――


 それは歴史ある王家の王族、その護り手の矛となることを現下大衆に示す式。

 古くから存在する小騎士団の形式らしいが、現代では憲法に則って運用されている。


 ハイリタ聖皇国箇条憲法――


【第七条――皇王を除く王族がよわい十に達したとき、近衛騎士団と地方騎士団から親衛隊を創設す】


 事実上のサラの親衛隊はすでに創設されているが、これを以て初めて法的な権限を有する親衛隊となる、らしい。


 恐らくは、暇な馬車の中でサラに教わった、この次の条文である『第八条――親衛隊は主君と仕える王族以外の王族に背いてもその罪は咎めないものとす』という抗命不問の許なる特権が有効化されるのだろう。


 難しいことはよく分からないが、この親衛隊の誕生によって、サラは正式な皇女の権限を持つことになる。


 その兼ね合いもあってか、皇女戴冠の儀を終えた直後に親衛隊の叙任式が執り行われる……のだそうだ。


「選ばれし者、我が許まで来たれ」


 移行した式典に則り、杖をドレスの装具に仕舞ったサラが壇上から凛と号令をかける。


 すると二列横隊になっていた親衛隊選抜者が粛然と統率の取れた足取りで一歩前に出る。


 ギルフィードの方々と協力して仕上げたお手製の鎧を纏う強者が、謁見の間で強い存在感を露わにした。


 よく見ると、剣覧会で見たルーグ隊員やグレン隊員もいる。


 うん。意匠はギルフィードの方々が施しただけに、かなり強そうだ……。


 そして、須く親衛隊の全員、僕たちが打った武具を身に着けている。

 そう考えると、何だか少しむず痒いな。


 ――だけど、僕の関心はそこにはなく、ずっと背中に担いでいたに向けていた。


 ここにきて未だどうしようかと、僕は迷っている。


 けど、さっきの貴族たちの反応……。


 これが効果を発揮するとしたら、サラが皇女となり、親衛隊の叙任がされていない今が絶好の機会のハズだ。


 ……ええい、漢だろユウト! 鉄は熱いうちに打てだ!


「これより、我が親衛を――」

「お待ちください!」


 サラの口上を剣覧会のミヤさんのように威勢よく遮り、僕は一歩前へ出る。


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