第14話 お姫様と皇都漫遊②
父さんと別れた僕たちは早速華やかな城下町を練り歩く。
しっかりと舗装された道はかつての大戦の古傷が癒えていない地方とは対照的に潤沢な資金があることを感じさせ、ハイリタの名を冠するに相応しい皇都たる所以が窺える。
でも、それ以上に……。
「久しぶりに城下町にきたけど、相変わらず人が多いね」
そう、あんまりにも人が多いすぎなんじゃないかな。
この人の多さはきっとハイリタ聖皇国の中でも上位に食い込むのは必至だ。
「皇都だもの。聖レべリタ騎士学院がお城の近くにあるし、ハイリタ正教会の大聖堂があるのも城下町大広場の目の前。領主のほか大貴族の邸宅や使用人たちの居住区もあるからハイリタ聖皇国の中で最も多い人口がここにいるわ」
「へえ。さすが皇女殿下。御見それしました」
素直に感心する。サラはこういう知識も豊富だからすごいよな。
「ふふん♪」
皇女らしく悠々と皇都の説明を遊ばされたサラはご機嫌になった。
ここらへんは年相応の反応で僕は安心する。
「まずは大広場までいきましょ? あそこなら大抵のお店が集まってるし」
「そうだね」
サラの提案に笑顔で頷く。大広場は城下町の中心地で宿屋・
きっとその周辺にはサラの好きなお店が軒を連ねているに違いにない。
こんな風に楽しく一緒に駆けられる。こんな日がずっと続きますように。
「んー! おいしー! さすが城下町、スイーツも一味違うわ」
「うん。甘くて美味しいね。僕には作れそうにないや」
ハイリタ聖皇国の至る所から取れた果物や甘味、東方の牧場地から取り寄せただろう牛乳を用いた生クリーム、南方のシルリア村付近の農地が原産だろう小麦を原料とした生地、それらがふんだんに盛り込まれたパフェをめいいっぱい頬張るサラは頬っぺたが落ちそうなほどの美味しさを前にとろけている。
それぞれ特徴的な味がする果実も生クリームの滑らかな舌触りと優しい甘さが包み込み、柔らかな生地が舌先でとろけ風味を主張しながらもすべてを中和し整えていく。そのため甘いのが苦手な人でも不思議とスプーンが進むという宣伝にも納得の味だ。
それに加えて、このお店は南方の正門付近に位置するため、そこから望む光景は絶景。ハイリタのお城を映す堀の水面が空との境界を無くし、幻想的な美しさを演出しているのだから、美味しさも何倍にも膨れ上がる。
それだけなら全く以ていいんだけど……僕の予想通り甘いスイーツが大好きなサラは、このお店に居座り続け、周りのお客さんの目を引いてしまっている……。
「ねえ。サラ、少し行ってみたいところがあるんだけど……いいかな?」
多くの恋人同士で来たお客さんがひしめき合う木の香りが心地よいテラス席で、居心地悪くしていた僕は現状の打開を試みる。
「……? いいわよ? 何処かのお店?」
もう三杯は食べたパフェなどなかったかのように仕上げのクレープの生クリームをつけたサラは可愛く首を傾げつつも了承してくれた。
や、やった! これで奇異の目に晒されることもないはず!
「うん。場所は僕が案内するよ」
そうと決まれば僕も目の前のパフェに集中できるというもの。
一口、はむ。うん、再現は難しそうだけど、似たものならできるかもしれない。
今度父さんに試してみようかな。
「ね、ねえ。ユウ?」
でも、肝心の砂糖は東南の旅商人か西の港町または商都でしか手に入らないんだよな。
貴重な甘味だから、少しお高め。見た目が似てる塩はあんなに安いというのに。
「ユウっ!」
「……っ! な、何?」
目の前に突然サラの顔が現れビクッとする。
「その……それ、よかったら……」
伏し目がちに、何かをねだるようなサラの声色。なんだろう?
見るとさっきまで食べていたクレープの皿は空。無論三杯も消費されたパフェも陥落。
無残にも綺麗になった白く輝くお皿と何ひとつ残っていないパフェのグラスが眩しい。
……なるほどね。まったく、食い意地の張ったお姫様だな。
「仕方ないな……はい」
「さすがユウ、察しがいいわね! あとでいい子いい子してあげる! はむっ!」
僕が差し出したパフェが乗ったスプーンを何も気にすることなく、そのままパクっと食べてしまう。……マナーも何もあったものじゃないけど、それでこそ僕の幼なじみだ。
内心恥ずかしくて仕方ないけど、サラのこの幸せそうに食べる顔が見られるのなら、甘んじて受け入れようと思ってしまう。悔しいな。
また、いい子いい子は勘弁してほしいとか楽観的に考えていたのだけど……このサラが一口で満足するはずもなく「もっと! もっと!」とねだられ僕が折れざるを得ない――という展開を未来予知神聖術が見せたのは言うまでもなく……サラから良いと言われたり悪いと言われたり、まちまちな僕の【察し】だけど良いのも悪いのも考えものだと学んだ僕だった。
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