2人の未来

「そういえばさぁ」


「うん? なあに、ひなさん」


2人で手をつなぎ、わたし達は歩いていた。


「正義くん、わたしに告白してきた時、『ずっと好きでした』って言ったわよね? いつからわたしのこと、知ってたの? どこかで会った?」


「ああ、それはね」


正義くんは優しい顔で、語ってくれた。


今年の春、正義くんは一年生にして、玄武の地位を受け継いだ。


何でも冬丘さんには小さい頃からお世話になっていて、でも正義くんが高校に入学する時にすれ違うように、卒業してしまったらしい。


卒業する前に、玄武のことを言い渡されて、戸惑いながらも受け入れた。


昔馴染みだった翠麻に芙蓉というサポート役を付けてくれたし、何とかなると思っていたのだけど…。


「白虎がオレによく突っかかってきて、正直、精神的に参ってたんだ。まあ悪く言うと、荒れてたんだけどね」

昔を思い出すように、遠い目をした正義くんは苦笑した。


「1人で暴れ回ってたある日、ボロボロになって、公園で倒れたんだ。人に見つからないように、奥の木があるところに隠れててね。その時、ひなさんに助けてもらったんだ」


公園、木のある所…。


そして朱李ちゃんに見せてもらった写真を思い出し、わたしは気付いた。


「あっ、公園でボロボロに倒れてた不良って、正義くんだったの?」


「そっ。白虎のワナに引っ掛かっちゃってさ。みっともなかったなぁ」


…あの日。


夜だったけど、お腹が減ったわたしはコンビニに買い物に出た。


あそこの公園は横切ると、家に早くたどり着く。


その公園を歩いている時、奥の方からうめき声が聞こえてきた。


恐る恐る中を覗くと、1人の少年が傷だらけで倒れていた。


わたしはハンカチを水道でぬらし、少年に駆け寄った。


「大丈夫? キミ、しっかりして」


声をかけながら、顔を拭いてあげた。


そして買ってきたミネラルウォーターを飲ませてあげると、少年は意識を取り戻した。


「…あれ? ここは…どこだ?」


「公園よ。あなた、倒れてたんだから」


汚れている顔や、手を拭きながら、ざっと全身を見た。


…大きなケガはしてなさそうだけど、病院には行った方がいいだろう。


「…ワケありじゃなかったら、救急車呼ぶけど?」


「いや…いい。いつものことだから」


声変わりをしたばかりの声で呟かれると、胸が痛かった。


「あなた…美夜のコね? でもいくら美夜の学生だからって、ムチャなケンカは感心しないわよ」


頭を起こし、少しずつ水を飲ませると、少年はだんだん意識がハッキリしてきたようだ。


軽く頭を振り、ゆっくりと立ち上がる。


「説教はセンコーだけで、カンベン…」


「ガキが何言ってんのよ」


そう言いつつも、ふらつく少年の体を支えた。


「ムリな時は誰かを頼りなさい。そのことは大人でも子供でも関係無いんだから」


少年の目が、真っ直ぐにわたしを見る。


…何て強い目をしているコだろう。


きっと将来、この少年は強くなる。


誰よりも、何よりも。


「本当の強さの意味、間違えないで。弱さは恥じゃないことを、知って」


「…うるせーよ」


吐き捨てるように言って、少年はわたしから離れて、一人で歩き出した。


「…あの時、ああ言われなきゃオレはきっと今でもムチャを繰り返してた。あの後、藤矢や楓を頼るようになって、やっとひなさんに言われことが分かったんだ」


そう言ってつないでいる手に、力を込める。


「オレ、あの頃1人でいきがってた。1人で何とかしなきゃいけないって思ってばっかで…。そういうところが弱さだってこと、分かってなかった」


「うん」


「そして誰かを頼ることは、弱い証拠なんだって思ってた。でもさ、藤矢と楓を頼った時、2人とも笑顔になったんだ。『頼ってくれて、嬉しい』って」


「うん」


「その時、ひなさんの言葉の意味が分かったんだ。誰かを頼ることは弱さじゃない。1人で戦い続けることが、強さじゃない。って、こと」


「うん」


「そう気付いた時、…もう一度、あなたに会いたかった」


そう言って立ち止まった時、わたし達はあの公園に来ていた。


「全てはここからはじまったんだ」


「…うん」


「ひなさんのことは何度か見かけた。だけど声をかける勇気がなかった。何よりその時のオレじゃ、ダメだと思ったから…」


「髪を黒く染めて、化粧もやめたんだ」


「うん。…って、えっ!? おっ覚えてたの? あの時暗かったのに!」


「ううん。朱李ちゃんから昔の正義くんの写真を見せてもらったの」


「アイツっ…!」


悔しそうにうなる正義くんを見て、思わず笑ってしまう。


「アハハ。でもわたしは今の正義くんが、1番好きよ」


「ひなさん…」


わたし達は向かい合った。


出会った時、わたし達はお互いの正体を全然知らなかった。


でも秘密がバレた今でも、お互いの気持ちは変わらないし、揺るがなかった。


そのことがとても嬉しい!


思わず彼に抱きついた。


「わっ!? ひなさん?」


「ふふっ♪ 大好きよ、正義くん」


「ひな、さん…」


彼が夕暮れにも分かるぐらい、真っ赤になる。


可愛くて、カッコ良い正義くんが大好き!


叫びだしそうな心を抑えて、背伸びをして、彼にキスをした。


「ひなさん…! 大好き」


正義くんはわたしの額、頬、まぶたに優しくキスをする。


「ふふっ、くすぐったいわ」


「だってひなさんのこと、大好きだから」


ぎゅうっと強く抱き締められると、幸せで目が眩んでしまう。


「ねっ、良かったらわたしの家に、これから来ない?」


「えっ? ひなさんの家に?」


「うん。お母さんが正義くんに会いたがってるの」


「ひなさんのお母さんが…って、確か今、理事長も…」


「うん♪ 父さんも正義くんとジックリ話がしたいって言ってたし」


正義くんの顔色が見る見る悪くなる。


「大丈夫よ! 父さんが何か言ってきても、わたしとお母さんが、正義くんを守るから!」


「うっ…。じゃあカクゴを決めるよ。いずれはご挨拶に行かなきゃいけなかったしね」


「うんうん。それじゃ、行きましょう。わたしも話したいこと、いっぱいあるの。美夜の学校のこととか」


「そうだね。いっぱい教えるよ」


「うん! それに…」


歩きながら、わたしは正義くんの耳に、口を寄せた。


「2人の将来のこととか、ね?」


わたしの囁きに、正義くんの体が一気に熱くなった。


まだまだ未来は不確定なことばかり。


でもわたしと正義くん、それに頼りになる仲間が側にいてくれるなら、どんな戦いにだって負けない!


だって、わたし達、最強の恋人だもの!





―END―


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