後日

「ぶっ…あはははは!」


「あはははは! おっかしーでしょう? 陽菜子さん」


朱李ちゃんが見せてくれた写真に、わたしは大爆笑していた。


ここは美夜学院の理事長室。


今はわたしと朱李ちゃん、そして青城先輩しかいない。


朱李ちゃんは正義くんの写真を見せてくれた。


わたしに告白する前、彼はとんでもない姿をしていた。


ハデな茶色に染めた髪は少し伸びていて、化粧をしていた。


制服も改造していて、ちょっと昔の不良を思い出させていた。


「前はこんなカッコしてたのによぉ。いきなり真面目ちゃんになったモンだから、どうしたんだって、ウワサになったんだぜ?」

わたしと朱李ちゃんが座るソファの向かいに腰かけた青城先輩も、にやにやしながら言った。


「調べさせたら、女が出来たっつーじゃねぇか。更に調べたら、アンタだったってワケだ」


「なるほど。だからわたしが白雨に捕まった時、すぐに駆けつけられたのね」


「アイツ、何か動きが変だったから。あたしの方でも調べてたの。そしたら陽菜子さんが狙われていることを知って、慌ててヤツらのたまり場の倉庫に向かったのよ」


朱李ちゃんははじめて会った時とは、印象が違った。


戦いの場面では凛々しく、ここではフツーの女子高校生と変わりがない。


きっと…一般の人の差別を受けて、あんな風に人見知りをしてしまうようになったんだろう。


「そっか。2人ともありがとう」


「いやいや。オレは貸しを返したかっただけだし」


「でも結局、陽菜子さんに助けられたようなもんね。あたし達」


「父さんから何か言われた?」


「いんや。ただ…」


「こういう騒ぎは二度と起こすなと、クギを刺されたぐらいね」


2人は苦笑した。


一応父さんには、青城先輩も朱李ちゃんも助けに来てくれたんだから、咎めないで欲しいと言ったんだけど…。


「大丈夫! もうわたし自身が黄龍だって、認めたんだもの。わたしにちょっかいを出そうというヤツが出たなら、返り討ちにしてやるわよ!」


「カッケーな、月花」


「カッコ良い! 陽菜子さん!」


朱李ちゃんが抱き付いてきたので、優しく頭を撫でてあげる。


可愛いなぁ。妹みたい。


「あ~! 朱雀! 何ひなさんに抱き付いてるんだよ!」


ちょうどその時、正義くんと中川さんが理事長室に入ってきた。


朱李ちゃんをわたしから離すと、正義くんは朱李ちゃんと口ケンカを始めてしまう。


「ひなさんはオレの彼女! 勝手に引っ付くな!」


「なによぉ! 心がせまいわね!」


「うるさいっ!」


ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を、わたしと青城先輩は笑って見ていた。


「お嬢様、お待たせしてすみません」


「ううん、大丈夫。それより今日はどうしたの?」


「はい。まずは白虎のことですが…」


「そういやあ、アイツ、最近見かけてねぇな」


「白虎は秋観さんの元で、修行をし直しているんですよ。青竜」


中川さんの答えを聞いて、青城先輩の顔が微妙に歪んだ。


ちなみにわたし達、三人も、だ。


…どんな目に合っているか、容易に想像できることが恐ろしい。


「なのでしばらく、白虎は欠席します。その間に青竜・玄武・朱雀のお三方で高等部の方をまとめてください」


「あいよ」


「分かった」


「了解したわ」


三人の顔が、真面目になる。


「それとお嬢様、頼まれていたものが用意できましたので」


中川さんはにっこり笑って、紙袋を差し出してきた。


「わっ、ありがとう。助かるわ」


「いえいえ。いつでも困った時には、お申し付けください。社長からも『よろしく頼む』と言われていますし」


「あっ…ははは」


「陽菜子さん、これなぁに?」


「ずいぶん大きな荷物だね」


朱李ちゃんと正義くんが、興味津々に紙袋を見ている。

なのでわたしは笑顔で答えた。


「もちろん! ここの制服よ」


「えっ…」


「ええっ!」


2人がのけ反るのを見ながら、紙袋から大きな箱を取り出し、開けた。


高等部の女子制服が入っている。


「来週からでもここに通えるように、ね」


「こっちに転校してくんのか?」


「ええ。わたしが黄龍だってことは、もうバレちゃったしね。ならいっそのこと、ここで転校してきたほうが、時期的にもいいかと」


「なるほどな。確かにココに来た方が、安全だな」


青城先輩は苦笑しながら言った。


「そうなのよ。だから来週からはよろしくね」


三人に微笑みかけると、朱李ちゃんと正義くんの顔が見る見る明るくなった。


「嬉しい! 陽菜子さんが来てくれるなんて!」


「これからは学校でも一緒だね! ひなさん!」


2人同時に抱きついてきたので、わたしはソファに強く背をぶつけてしまった。


「イタタ…。ちょっとぉ、2人とも、重いわよ」


すると2人はキッと互いを睨み付けた。


「邪魔よ! 玄武!」


「お前こそどけろよ! 朱雀!」


そんな2人の姿を、中川さんと青城先輩はヤレヤレと言った感じで見つめていた。


…こんな人達と過ごす学生生活なら、毎日刺激的で楽しいのかもしれない。


わたし自身、結構強いし、ね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る