第1話 荒巻隼人、支部長になる。

掃除を終えて綺麗に、そしてお正月モードになった支部を眺めた後、恵莉が全員を収集し、手のひらをパンッと鳴らしてから言う。


「さて!今日の掃除は終わり……っと!みんなお疲れさまだな、これでも飲め」


「わ、ありがとうございます、いただきます!」


「あ、じゃあ私お菓子用意しますね~~~」


恵莉が紅茶をみんなに配る、誠司は喜んで跳ねるように飛んで紅茶を受け取りソファでゆっくりくつろいでいる。茉莉はお菓子を買いに行ったようでどこかに行ってしまった。……制服を着てたのは気のせいだろう。

俺も紅茶を受け取ってソファにゆったりと座って誠司と共に優雅にティータイムを送ろうと思っていた矢先に。


「さて、行くか隼人。」


「マジで行くのか、いきなりすぎんだろ……?せめてゆっくりお茶してからでもいいだろ?な、誠司もそう思うだr……って寝てやがるよこいつ、やっぱ限界か」


流石に徹夜からの力仕事は、まだ覚醒して日が立ってない誠司には厳しかったようだ。……オーヴァードに目覚めてからの日数でそんなに変わるわけでもないだろうが。


「……誠司は寝てるし、茉莉は買い物行っちまったし……逃げられねえな。」


ハァ、と流石に今回のはため息を抑えられない。わざわざ日本支部に呼ばれるってことは大体何らかの失態か報奨かの二択だろう。

……十中八九、事後処理の書類に何かミスがあったとか、そんなところだろう。わざわざ叱られに行くのは馬鹿らしいとも思う。

行くのか……うん。

とりあえず茉莉に書置きを置いていこう、こんな感じでいいか。


『支部長と日本支部に行ってくる。……多分怒られて長引くから誠司の世話と洗濯物だけよろしく」


……大丈夫か?まあ怒られそうだけど何とかなるでしょ、うんうん。


「なんだ隼人、怒られるとでも思ってるのか?……まあ覚悟しておくんだな、生半可なことじゃないぞ?」


「やっぱ怒られんのか、どこだ?レネゲイドキラー諸々報告書は終わらせたはずなんだけどな……」ブツブツ


この時の俺は、失態を探すのに夢中で恵莉がほくそ笑んでいるのに気づく余地もなかった。


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恵莉に連れられやってきたのは……当然のごとくUGN日本支部だった。

これでスイパラとかだったら良かったんだが、どうにも冗談じゃないらしい。少し考え事をしている間に今や支部長室の前まで来てしまった。

正直、入りたくない。だってこの中にいるのは日本支部長、〈リヴァイアサン〉霧谷雄吾だ。この日本で一番偉い人だぞ、わざわざ会いたくはない。しかもこんな人に合わされるなんてヤバいことしかないだろ、どれだけお叱りを受けることやら……


「ほら、霧谷がお呼びだぞ。さっさと入れ、私だって長居はしたくないんだ。」


「あー……お前霧谷さんの事嫌いだもんなあ、なんでわざわざ来たんだよ、あ?」


「流石に呼ばれてるのに断るわけにはいかないだろ。今はあいつの方が上なんだからさ。」


苦虫を潰したかのような顔をしている恵莉を眺めつつ呼吸を整える。

……普段は大胆不敵にしていても流石にここまでくると緊張は隠せない。

まあ、なるようになるだろ。行こう。

決死の想いでドアノブに手をかけ、開ける。

そこには笑顔の霧谷雄吾が座っていた。


「やあ、お待ちしておりましたよ。〈バイオレンスホープ〉荒巻隼人、それに引率ご苦労様でした。〈ベムリットローダー〉小鷹恵莉」


「こんにちは、本日はお招きいただきありがとうございます。……それで、要件、とは……?」


流石に声が震える、俺の夢の実現にはこの人の協力が不可欠なのだから。


「ああ、あまり固くならないでください。……本日、あなたをお呼びしたのは他でもありません。現冴塚支部長〈ベムリットローダー〉に代わって、貴方が支部長になりませんか……というお話です。」


「……え、あ……は?」


本日、二度目の衝撃であった。


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Judge Myself外伝【とある支部長の任務記録】 @parkour0620

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