痴漢の神様

さくらい

第1話 痴漢のルーティンワーク

視線は靴。

決して上を見上げてはならない。


エスカレーターでは私は心を石にして、女性の足元を見ないようにする。


靴はところどころ泥のついたスニーカー。

恐らく量販店で50パーオフで買ったものだろう。


靴の持ち主は恐らくスマフォをいじっている女子大生。


エスカレーターは私服警官がもっとも注意を払っている場所だ。


ここでボロを出すわけにはいかない。


私の目的は盗撮ではない。


電車のなかで女性の身体に接触することである。


既に電車は隣の駅を出たと電光掲示板に表示されている。


エスカレーターを上りきり、特に女性を意識せず、空いているところに並ぶ。


ここで女性を狙って並んではいけない。


私服警官は、皮肉なことに魅力的な若い女性を見つけると周辺を徹底的にチェックする。


その女を見ている人間がいないか。


だから、ここで下手をうつと、マークされてしまう。


痴漢は、必然性を内包した偶然性が大事なのだ。


起こすのでなく


起きてしまう。


そうするうちに電車がホームに入ってきた。


いつもの轟音。いつものアナウンス。


いつも見るサラリーマン、OL、若者。


ふと自分が工業製品、まるでボルトとか、ナットとか、ネジとか。


そんなものと本質的になにが違うのかよくわからなくなる。


社会の歯車?


歯車ならまだましだ。


誰かを回せる力があるってことだ。


来た。


足元を見るふりをして、後ろに意識を集中する。


女性が立っている。


靴とストッキングの雰囲気から、若くはないとは感じる。


しかし、老婆とも言えない。


恐らく30から40代。


太っているわけではなく、

かといって痩せぎすでもない。


ほどよい肉付き。


顔...


顔が見たい。


美魔女かもしれない。


または肉感的で抱き心地のいい、セックスが好きな女か。


はめたい。


既に睾丸のあたりが疼いている。


悪魔だ。


私は

悪魔だ。


性欲に支配された、悪魔。


妻とはもうかれこれ10年はセックスしていない。


もはや性欲に心をわしづかみにされている。


だが。


ここで顔を見てはいけない。


意識をすると、必ず相手に伝わる。


大事なことは、石になりきることである。


電車に乗り込む


背中で彼女を意識しながら。


既に電車内は人間のいも洗いだ。


私は振り返ることなくそのまま電車内に足を進める。


前にたっていた男性サラリーマンを押し退ける。


女性は私に背を向ける形で乗り込んできた。


更に電車には人々が乗り遅れることまるで怖がるかのように、乗り込んでくる。


一体電車一本おくらせることくらい、なんだというのか。


そして、ドアが閉まった。


女性の臀部、尻が私の尻、ももに重なる。


電車は走り出した。


区間快速、次の駅まで、10分はある。


10分、彼女の尻を堪能できる。


しかし、楽しむ意識を持ってはならない。


意識は必ず伝わる。


まるで彼女の尻が当たることが汚らわしいかのように振る舞わなければならない。


本音を隠しながら痴漢をおこなうことは、難しい。


しかし、やり抜いたときは達成感もある。


会社でゴミのように扱われている私にとって、これはルーティンワークだ。


そしてこれが人生でなによりも面白いことなのだ。


分かってる。


私は変態だ。


だが。それがなんだ。


人間、楽しむために生まれたはずだ。


お見合いサイトで結婚をし、子供が出来る精子ではないとわかった瞬間に即座にセックスを拒否し、私の収入だけに依存した妻。



公務員という立場で、離婚が出世に響くと分かった上で、私を、まるで汚物のように扱う。


こんな人生、痴漢でもしなければ楽しめないではないか。


電車が揺れた。


更に私の右側の尻が彼女の尻に食い込む。


もはやそこは尻の割れ目部分だ。


そこに彼女の本質がある。


人間の本質。


もっとも美しくもっとも汚い。


汚いがゆえにそこは聖域。


人間の体の部位でもっともおかしく悲しく、そして取れたての果物のようにみずみずしい。


少し彼女の身体をが固くなった。


恐らく私の存在を意識したのだろう。


ここからが腕の見せ所だ。


相手が、見ているかどうかは関係なく、


苦悶の表情を作る。


そして苦しそうに息を吐く。


辛い。私だって辛い。


こんな満員電車に部品のように詰められ、会社に出荷され、ひとまず仕事を終え誰からも感謝されることなく1日を終える。


この満員電車はまるで私の人生だ。


苦痛と無意味。


そう、無だ。


奥さん?生き遅れた独身ol?


子持ちの妻?


誰でもいい。


今の私の人生で、今あなたの尻だけが頼りだ。


だからあと数分間、私に尻を楽しませてほしい。


その柔らかい尻の隙間に私の臭いペニスと垢を擦り付けたい。


服に白い私の分身をぶちまけたい。


その綺麗な服に痕跡を残したい。


丁寧にラメされたネイルに私の金たまの裏にこびりついた黒いカスをねじ込みたい。


あなたの嫌悪感に小便をかけてこの世で一番醜悪な化け物を作りたい。



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痴漢の神様 さくらい @sakurai1368

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