インストール

 マーリファイン、ピジョンホーラー、日米の攻撃ヘリ部隊、そして演習判定ユニットでキャラバンを組んでニューハウィックのキャンプを引き揚げ、七十キロほど北へ走る。ヘリコプターは空路先行するので連なるのは支援車両だけだ。

 三人で牽引車のキャビンに乗り込み、栃木がイグニッションを捻ってエンジンを点火する。ギアを入れてパーキングブレーキをリリース。走り出すとサスペンション――というかシャーシ全体が地面の細かな起伏に合わせてギシギシ軋む。乗り心地についてあえて評価を下そうと思えるような車ではない。

 砂にまみれた細いアスファルトの道を辿って演習場の区域を示すフェンスを抜け、公道に合流する。大規模灌漑による一面の畑を過ぎるとそこはもう砂漠地帯ではなく草原に点々と灌木が茂るステップだった。砂による道路の侵食もほとんどない。時折乗用車やトレーラーとすれ違う。

「なんでこのタイミングで補充なんだろうか」私は言った。

「補充?」と栃木。漆原は左舷のドアに寄りかかって眠っている。

「滑走路作っただろ。今まで演習の途中で戦力の補充なんかあった?」

「ああ、どうなのかな。部隊まるごと途中参加ってのはあったと思うけど、そういうことじゃなくて?」

「違うね。ほら、うちの四番機がいい例だ。当面ただのお荷物なんだから、演習が終わるまでに何か役に立つなんて普通は考えないだろ。今日明日で新しいソーカーがするなんてこともなさそうじゃないか」

「じゃあそれって行政の複雑怪奇が織りなすナンセンスなの?」

「だったらいいよ。でも日本的にはミルウォーキーの白色政府を牽制したいんだろ」

「下手に手を出すなよって?」

「そう。ワシントン政府の機能もギリギリだからな。ミルウォーキーが外交に出てきたら私たちは防人にもなるし人質にもなる。早く帰らせてもらいたいけど」

「補充するってことはその気がないのかな」

「良心的に捉えるなら、交渉材料に使ってから引き揚げたいんだろう」

「実戦になったりしないかな」

「なるかもしれない。常にその可能性はゼロじゃない」

「そういう仕事なんだよね、これ」

 白色政府というのは民主党政権の税制に反対する共和党議員、財界人を中核とした有志集団の俗称で、この二月のミシガン州議選で大勝したのちミルウォーキーに拠点を置いている。全国の大企業、国際企業経営陣をバックにつけて、予算不履行のために滞る行政機能を寄付で動かしたり独自の代替システムを構築したりして民衆の支持も集めつつある。その影響力は大手新聞数社も平気でカウンターガバメントだのカウンターフェデラルと称するレベルになっていた。

 今のところ政権や連邦議会に圧力をかけているだけだが、政権が新税制を強行すれば実力行使でその弾圧を跳ね除けるかもしれない。すでにいくつかの州では州軍の財源を白色系の企業に頼っているという話も聞く。日本然り外国政府が危惧しているのはそういった武力事態だ。

「肢闘中隊各車、右前方にダイナーが見えるか。我々はあの店で昼食を行う。車間に注意しろ。そして前の部隊が指示器を出さないように祈れ」賀西が無線で言った。

 栃木がインカムのボタンに手をやって「三番、了解」と吹き込む。

 あいにく真ん中に座っている私からは店も前方の車列も見えなかったが栃木は右にウィンカーを出して減速した。

 行軍の車列はかなり伸び切っている。その方が一般車の邪魔にならないし、食事をとるためにどこか店に入ろうにも全体を一度に収容できる規模のものはなかなかない。どうしても部隊ごとになるし、今回はそんなふうに個別に昼食を工面するように指示が出ていた。

 ダイナーの腐るほど広い駐車場に牽引車とトラックを整列する。まず賀西が一人で入っていって日本の軍隊が二十人くらいで入るが大丈夫かと店主に訊いてくる。大丈夫だったらしくトラックの正面に立って身振りで下車を命じた。

 赤と青を基調にした店で、ハエタタキのような高い看板があって、中は七〇年代の趣向をそっくりそのまま写して新築したみたいな様子だった。錆びついた鋼鉄のようなブルースロックが流れていた。

 メニューはステーキとハンバーガーとミートパイ……、とにかく牛肉をメインにした料理が一通りと、数種類の付け合せ、スープは一種類、コーヒーと酒もいくらか種類があった。リンゴのようなテカテカした赤ら顔の女の子が、いちいち注文を書くのは面倒だと察したらしく「ステーキの人」と言いながらテーブルの前を回って手を挙げさせている。

 ミートパイが出てくるまでの間私は専ら外の景色を眺めていた。駐車場には他にクラシックなトレーラーが三両、SUVが二台、あセダンも二台。店の中にも車の台数と同じくらいの客が入っていた。

 後続の車列、アパッチの部隊だろう、道を通過していく。その向こうから一台のトラックが店に入ってきた。でも客ではない。店の横につけてクレーンでゴミの入ったバケットを吊り上げ、荷台の上でひっくり返す。ゴミ収集車だった。ただ妙なことに荷台にウォルマートのステッカーをつけている。大手スーパーチェーンだ。ゴミ収集を委託でやっているイメージはない。

「ねえ、ウォルマートがゴミ収集してるの?」私はミートパイを持ってきたリンゴ顔のウェイトレスに訊いた。

「そうだよ」彼女は手短に答える。

「行政の仕事じゃないの?」

「そう。でも一時収集のスケジュールがめちゃくちゃになってさ、うちだって何度もあの籠に入りきらないくらいに溜まってたよ」

「それは相当やばいな」

「うん。企業がバックについてからまともに動くようになったみたいだけど」

「それでステッカー貼ってるわけね」

「アメリカの企業ってそういう、善行? とかさ、宣伝するの好きだからね」彼女は途中からテーブルに寄りかかって話していたが、そこまで言うときちんと立ち直して仕事に戻った。

 できあいの冷凍品を改めて油で揚げ直したようなパイをフォークとナイフで食べる。それはそれで不味くはない。ただあまりに油っこくてあとで腹を下しそうな感じがした。栃木もミートパイ、漆原はハンバーガーを食べている。

「つまり、業者は変わらないって話だろ?」漆原が私たちの話の要点を確認した。

「うん。金を出してるとこが変わったってだけの話らしい」

 一足先に店を出たサングラスの太った客が特に隠れるでもなく牽引車とマーリファインの写真を撮っていた。肢闘が珍しいのだろう。肢闘だとわかって撮っているのか、それともなんだかわからないけど見たことがないから撮っているのだろうか。わからない。でもマーリファインなら別に隠すこともない。ディスカスのような最新兵器とは違うのだ。

 男は一度自分のトレーラーに引っ込んだあと、私たちが出ていくのを待って一緒に写真を撮ってくれと持ち掛けてきた。よほど軍隊が好きなのか、自衛隊が好きなのか、そうでなければもうスパイだろう。

「マーリファインを見るのは初めて?」私は試しに訊いた。

「実物はな。こんなところでお目にかかれるとは思ってなかったぜ」


 もうしばらく道を行くと灌木の葉の色がみずみずしい緑色に変わり、幹のまっすぐな柱のようなトウヒの森に変わった。

 この一帯は東に山があって、かろうじてロッキー山脈を越えてきた雨雲を堰き止めている。川があり、湖があり、森があり、たくさんの種類の鳥や獣が潜んでいる。同じ西部でもアメリカというよりカナダ的な景色だった。

 森が広がっているということは車輌部隊が平面的に布陣することは不可能だった。谷あいなので傾斜地も多い。ヘリ部隊は湖畔に、他は川沿いの細い空き地に車輌を停める。演習場といってもこちらはレンジではないので実弾は使わない。

 ニューハウィックで入荷したミサイルラックを支援班のトラックから三人で担いできてマーリファインの台車の横に寝かせる。ほとんど骨組みだけの平面的な作りで、古風なワッフル型のレーダーを思わせる。百キロクラスのミサイルを片面左右で四発。両面で八発懸架することができる。マーリファインの砲塔を真横まで旋回しておいてラックを牽引車のクレーンで吊り上げ、砲塔後部のハードポイントに接続する。

 クレーンの操作は漆原、砲塔に登って吊りの押さえと装着をやるのは私と栃木の役割だ。位置を合わせてラックの方のアームを挟み込むだけなのでさほど手間はかからない。ラックはこのハードポイントの基部でピッチ方向に百八十度向きが変わる。撃ち出し時はランチャーの先端が真上を向き、片面の装填時は前方、もう片面の装填時は後方を向いて水平を保つ仕掛けだ。

 支援班のトラックから短SAMとAAM-5のシーカーつき演習用弾頭を二発ずつ、運搬用のドリーに乗せてきて機体の横に置く。全長方向が砲塔の前後軸と平行になるような配置だ。その間に今度は漆原が砲塔に登ってウィンチワイヤーで片面四基のパイロンを頃合いの高さまで垂らす。パイロン同士は細いバーで連結されている。パイロンの位置に合わせてドリーを置き直し、ジャッキアップしてランチャーを接続していく。ツメを噛ませるだけで電気的な接続も一発なので楽な作業だ。これを四発分繰り返すだけ。ただし巻き上げは手動だ。

「いいよー」栃木が手を上げて呼びかける。

 漆原はここからがつらい。延々とハンドルを回さなければならない。車用のジャッキよりいくらか速いペースでミサイルが浮かんでいく。揺れて脚や腕にぶつからないように押さえておくのが下の役目だ。機体はともかくシーカーは精密ものなのでぶつけられない。割れたりしたら使いものにならなくなってしまう。

 短SAM、またの名をSAM-2。これはもとから地対空短距離レーダー誘導ミサイルとして開発されたもので、本来は射撃統制装置とレーダーを中核として複数の発射器で陣地を形成する。それぞれのユニットを別個のトラックに載せて機動力を確保している。マーリファインはブロック3か4、レーダー搭載とほぼ同時に運用能力を持ったモデルの生産が始まった。マーリファインの場合は発射器と管制装置とレーダーの機能を一機が併せ持っている。ただし一機の処理能力、レーダー出力は車載型には及ばないので複数機に機能を分散してリンクしている。ミサイル自体の重さは約百キロ、全長三メートル強、有効射程は五キロ程度で、中高度までの飛行機やヘリコプターをターゲットにする。アクティブ誘導――いったん飛んでいくと母機からの誘導がなくても自前のレーダーでターゲットを見据えて飛んでいく打ちっぱなし能力を持っている。

 AAM−5は空対空短距離赤外線誘導ミサイルで、本来は戦闘機や戦闘ヘリの自衛用装備だ。重さは同じく約百キロ、全長三メートルちょい、有効射程も五キロ程度だ。地上から発射するとまず高度を稼ぐのにエネルギーを消費するし速度も乗っていないから射程は短くなる。これを補うために地上発射型にブースターを増設する手もあるが、AAM−5ならブースターなしでもそれなりの射程が確保できるし、何より重量が増えて取り回しが悪くなる。百キロというのは人手さえあれば担いで運搬できる重さなのだ。まあAAM−5だと胴体についた長いストレーキが肩に食い込むので担げと言われても渋るのが当然の代物だけど。先代のAAM−3はよかったんだ。ほとんどただの筒だったからな。マーリファインはブロック8あたりでAAM−5の運用能力を付与されている。あと一応付け加えておくと、赤外線誘導ミサイルというのは基本的にはそういうものだけど、こいつも一度発射されれば自分でターゲットを追って飛んでいく。エンジン排熱とか、とにかく熱源や赤外線放射の多いものは大得意だ。

 シミュレーションの感触としては短SAMの方が欺瞞手段に強く、AAM-5の方が弾速と機動性は上だった。裏返せば短SAMの方が鈍重で、AAM−5はフレアやデコイに騙されるということだ。基本は短SAMで狙って、電波ジャミング環境下や電波ステルス性の高いターゲット、極端に小さいターゲット相手ならAAM−5を使うというのがまずまともな組み合わせ運用法になるだろう。

 この二種類、誘導方式以外だと消費電力に違いがある。シーカーを起動した状態だとどちらも電気を食うが、短SAMのレーダーは使わない時オフにできる。対してAAM−5の赤外線シーカーは不使用時でも冷却しておかなければならない。冷えていないと像がくっきり映らないのだ。ぶっ放す直前に冷やし始めて即レディ、なんてことにはならない。マーリファインの赤外線センサーも冷やすには冷やしているが、要求温度はAAMの方がずっと低い。それこそ冷蔵と冷凍の違いだ。つまりAAM−5は戦闘中携帯しているだけで電気を食うのだ。

 ハンドルを回す漆原の腕の回転が鈍ってきた。機体を登って肩を叩く。

「交代」

「ああ、もう限界だ」

 ハンドルといってもステンレスの棒をクランク状に折り曲げて握りをつけただけの代物だ。しかもラックの方へ身を乗り出さないと力が入らない。あまりいい体勢ではない。漆原より速く回せたのはせいぜい最初の三十秒だった。四百キロを持ち上げるために四本のワイヤーを巻いているのだから当然といえば当然だった。

 残り五十センチくらいで力尽きて栃木に交代する。栃木は焦らずゆっくりペースを守ってワイヤーを巻ききった。ラックとパイロンのロックが噛み合ってカチーンと音が響く。その余韻の向こうで小鳥たちが鳴いていた。聞き慣れない声も多い。きっと日本の森にはいない種類なのだろう。見上げるとトウヒの細い葉が幾重に重なった間から空の明るさがやはり細く点々と注いでいた。まるで光を濾過しているみたいだった。

「あの砂漠と同じ国とは思えないな」と漆原。

「ここは涼しくていいよ。空気も水っぽいし」栃木。

 力仕事は済んだ。休憩しよう。三人で機体から降りる。河原の石と砂で濾過しておいた水を火にかけて各自のコップでインスタントコーヒーを入れる。形のいい石を選んで腰を下ろし、ブーツと靴下を脱いでズボンの裾を上げ、淀みの水に爪先をつける。ほどよく太陽の熱に温められていて気持ちのいい温度だった。

「まあとにかく、水に困らないってのはいいことだよ」私は言った。

 川の水は澄んでいてカワセミだかヤマセミが時折水の中に飛び込む音が聞こえた。


 ピジョンホーラー隊のキャンプは少し下流にあって、見に行くと川からポンプで水を汲んで車輌にかけていた。ピジョンホーラーの円盤状の砲塔から皿のように水の膜が広がっている。

 シリアルナンバーでアイリーンの車を探す。砲塔の縁からぽたぽたと水滴が垂れている。すでに水をかけ終えているようだ。操縦手のレニー・バゼットがボンネットの上でハッチのシール部に残った砂を掻き出していた。

「アイリーンを探してるのかい?」

「まあね。少しだけ」

「登っておいで。中にいるよ」

 別にいるなら挨拶くらいしていくかという程度の気持ちだったのだが、そう言われると中で何をしているのか少しだけ気になった。そういえば砲架の後ろに見慣れないミサイルが取り付けられている。それと関係があるのだろうか。

「じゃあ、失礼」

 タイヤの間のステップに足をかけて砲塔に登る。ハッチを覗くとアイリーンは砲手席でMFDのコンソールにキーボードをつないでいた。

「やあ、柏木」

「やあ。何をしてるの?」

「アムラームのドライバーをインストールしてるんだよ」

「アムラームって、対空ミサイルの?」

「そう。中距離空対空ミサイル」

「車載型なんてないでしょ」

「ないけど、パイロンさえつけられれば載せられないことはないよ。物理的にはね。レールランチャーなら撃ち出せるし、SAMタイプ用の加速用ブースターも用意してる。まだ実用試験は済んでないけど、シーカー部分は別に大した変更もないから、演習なら先んじて使える」

「だからこのタイミングでドライバーを入れてるのか」

「そう。ピジョンホーラーのテストだけど、アムラームのテストも兼ねてる。ピジョンホーラーはペイロードには余裕があるんだ。多少重いミサイルでもラックさえ適合すれば積めるわけだよ。ハードポイント自体はヘルファイアのがあるからね」

 つまり砲架の後ろにくっついているミサイルがそのアムラームなのだ。

 ヘルファイアは攻撃ヘリに積むことを想定した空対地ミサイルで重量五十キロ、有効射程は五キロ程度だ。アムラームは戦闘機用の中距離空対空ミサイルで百五十キロ余り、有効射程は四十キロ近い。誘導方式も基本的にレーザーとレーダーで異なっている。

「でも積めるだけじゃ使えない。ピジョンホーラーには対空ミサイルの運用システムが備わってないわけだろ。レーダーもないし、目標を指定して、有効射程や偏差を計算してやらないと上手く撃ち出せない。敵味方識別の問題もある。そういうのはミサイルの型ごとに違っていて互換性がないものでしょ」

「そのためのインストールだよ。どっちかって言うとレーダー持ちユニットとリンクすることを前提とした積載だし、たとえ単独でもミサイル自体のシーカーを借りればいい」

「そんなPCのプリンターのドライバーを入れるみたいな感覚なわけ? 兵器のソフト面をいじるのって結構面倒なイメージなんだけどな。AとBをつなげるとCとDがうまく繋がらなくて、なぜかEが動かなくなる、みたいな」

「そうそう。それはチェックしないといけない。でもこいつはそのへん上手くできてるんだ。電子的なモジュラー構造というのかな」

「データは何で入れる?ネットからダウンロードってことはないだろ?」

「それはさすがにソリッドだね。このメモリースティックに入ってるのをFCSのストレージにコピーする。構成は端末ごとだから、私の個別IDでアクティベートする。このIDはメーカー側のサーバーにも記録してあって、権限がないと承認されない。陸軍の人間なら誰でもってわけにはいかない」

 MFDには進捗を示すバーが表示され、その下にコピーの済んだファイルのリストが流れていく。経過時間は四十分弱。進捗は九十二パーセント。

「運がいいね。ちょうどインストールが終わったよ」とアイリーン。それから付属プログラムのインストールに五分ほどかかる。彼女はその間細長いスポンジタイプのヤスリで念入りに指の爪を磨いている。かなりラフな格好だ。薄いジャケット一枚でそのボタンも半分くらいしか留めていない。かぶり物もなしだ。

「アムラームだと中距離だろ。近距離はスティンガーでカバーすることになるのか」私は訊いた。

「そうだね。サイドワインダー(AIM-9)も考えたみたいだけど、アムラームって割と近距離でも使えるからさ。スティンガーも積むけど、アムラーム無駄使いしないようにって感じだね」

 AIM-120アムラームはもともと空対空レーダー誘導ミサイルで有効射程は三十キロ程度、高度な撃ちっ放し能力を持っている。重量は百五十キロ程度だ。

 FIM-92スティンガーはもともと携帯式地対空赤外線誘導ミサイルで有効射程五キロ、重量約十キロと軽量だ。話に出たサイドワインダーは日本のAAMとほぼ同じ性格・性能だと思っていいだろう。重量がかなり違うから同じペイロードならスティンガーを山ほど積むことができるわけだ。

 FCSのメニューが復帰するのを待って”RADAR(AIM-120)”の項目をタッチ。弾頭のシーカーが捉えたレーダー視野がかなりリアルな映像に変換されてMFDに映った。ピジョンホーラーは自前のレーダーを持っていない。照準から弾頭のレーダーに頼ることになる。ここにターゲットが入るとまたマーカーや諸元などが表示されてくるはずだ。画面の下には誘導方式などを示す頭文字がいくつか出ている。たぶん中間誘導で自機レーダーと慣性のどちらを優先するか、ターゲットまで残り何キロで終末誘導に切り替えるか、あるいはまったく誘導しないで直進するか、などの選択肢があるのだろう。

 マーリファインでも短SAMを運用する時はそのあたりが選択式になる。もちろんとっさ撃ちでも適当に敵をめがけて飛んでいくお手軽モードも備えている。でもそれは今のモデルのマーリファインが製造段階で組み込み的に備えている能力であって、あとから発射能力を付加したものではない。イギリス製のブリムストーン軽対地ミサイルが使えるようにならないかということでプログラムを組んでもらったことがあるけど、これはトータルで一ヶ月くらいの期間を要した。だからピジョンホーラーがものの一時間で新しい兵装に適応していくのはちょっと驚きだった。そしてマーリファインが一日がかりで装甲板を追加したのを思い出してちょっと複雑な気持ちになった。結局のところこういった柔軟性や使い勝手が兵器としての有用性、優秀さを決めてしまうのかもしれない。

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