リベンジ

 一階のカウンターに次の酒を取りに行った時、アメリカ側のある将校が私を呼び止めた。

「柏木軍曹と言ったな」

「はい」

 見たことのある顔だなと思った。アメリカ人にしては小柄で、鼻柱が太く、頭髪よりヒゲの方が濃い感じだった。どちらもかなりきれいに剃ってあるが、顎の方が青みが強かった。

 なぜかそのヒゲを見て思い出した。今日手合わせした歩兵部隊の指揮官だ。

 ストラウス大尉。たしかそんな名前と階級だった。

「ぜひ君の部隊と改めて手合わせを願いたい。よろしく頼むよ」ストラウスは私の前にスミノフの白を一本置いた。

「そういうのは隊長格の管轄で、私に言われても困ります」

「いや、隊長にはもう話を通してある。これは挨拶さ。我々の方でもひとつ対抗策を考えてきたのでね」

「対抗策?」

「それは言えないな」

「いや、でもなぜそれを私に?」

「昨日の君の立ち回りを見ていて自分の手で倒してみたくなったから、かな」ストラウスはニヤッと歯を見せた。思いのほか白い歯だった。


 翌日再び街中でマーリファインを起動する。今回は我々三機のみ。ピジョンホーラーは参加しない。歩兵も敵方だけになる。中心街は演習に参加しない部隊が駐屯を続けているので使えない。東側半分を演習区域に設定する。前回序盤戦の舞台になったエリアで、約二キロ四方。低層のビルがひしめく間を東西の幹線が貫き、そこから電子回路のような路地がかくかくと縦横無尽に走っている。

 敵は二個小隊約五十人。我々はその待ち伏せをかいくぐって、あるいは制圧して、牽引車三輛、トラックとパジェロ各一台を西から東に通過させる。つまり一部隊で街から脱出するシナリオだった。

「だが安心してくれ。我々はこそこそトラックばかり狙うような卑怯なマネはしない。まずマーリファイン三機堂々と潰してやる。もちろん実戦ならそんな愚行は冒さないが、これは演習なのだからな」ストラウスはがらがら声でそう言うと、部隊を引き連れてバリケードの向こう側に走っていった。歩兵が散らばっていく。どこに隠れるのかまでは見えない。なんだか鬼ごっこみたいだな、と思う。

 いい天気だった。路面やビルの壁面までほんのり空色に染まっていた。ビルの軒下に集まってブリーフィングを始める。

 東西には幹線が走っているわけだが、当然そこはバリケードに塞がれていて装輪車両は通れない。迂回は必然だが相手にとっては細い路地に誘い込んで身動きを取れなくするのが得策だから、相手の罠にはまらないように上手くルートを選ばなければならない。

 賀西が地図にボールペンを当てて路地に沿って何本も線を引く。いくつかパターンを読んでおかないとうまくいかなかった時に立ち往生してしまう。

「まず檜佐、柏木、松浦の三機がそれぞれこのルートで偵察を行う。敵はおそらく隠密戦術でくる。地雷に注意すること。地雷やバリケードがあると車は通れないからね、よく位置を確認してくれよ。確認するだけでいい。処理すると敵は別の仕掛けを用意してくるかもしれない。三機が戻ってくるまで車輌はここで待機して、それからルートを決めよう。あと、今回は我々の中隊単独での行動になる。もしかすると車を降りて行動することもあるかもしれない。装備はちゃんとしてよ。質問がなければ……、じゃあ、かかれ」

 葛西の合図でそれぞれ防弾ベストとヘルメットをつけて持ち場の車輛に乗り込む。

 私はマーリファインに乗り込んで装甲板のせいで後方に寄った重心に注意しつつ立ち上がる。他の二機は左右に分かれて路地に分け入っていく。建物が低いので直立していれば視界が通るし互いの頭も見える。

 私は左右の路地に視界を通しながら幹線をまっすぐ進んで正面のバリケードを飛び越える。

 そしてジャンプしてから空中で張り線式のセンサーが仕掛けられていたことに気づいた。ついさっきストラウスの部隊が抜けていったバリケードだ。こんなあからさまなところに仕掛けをしてくるとは思わなかった。

 細いプラスチック製のテグスが切れて太陽光に光る。

 バリケードの中に設置された演習用信管が張力の喪失を感知、設定された炸薬と外殻の材質・厚さに基づいてバリケード上空に仮想の加害範囲を放出する。

 私は少しでもその範囲から逃れるために機体を捻る。

 が、着地と同時に「撃破」の判定を受信。ユニットとしてはともかく、乗員の負傷について何の判定も受けなかっただけマシなのかもしれない。「戦死」にならなくてよかった、ということだ。

 だが数メートル飛び上がって何の救いもなく撃破ということは相当でかい地雷だ。演習ログを見ると私の被撃破の前はマーク83、つまり一〇〇〇ポンド爆弾の炸裂になっている。一〇〇〇ポンドということは五〇〇キログラム弱。攻撃機でよっこら投下するようなどデカい爆弾が至近距離で爆発したのだ。道幅は十メートルくらいだが両側のビルまで加害範囲に入っているだろう。

「おいおい、マジか?」漆原が無線で言った。「こっちからもばっちり見えたぞ」

「わるかったな」

 だが溜息をついている暇はなかった。何かが外板にぶつかる。

 カメラを動かすと背中側にウィンチを巻いて機体を登ってくる人影が見えた。

 白兵戦をやるつもりだ。

 とっさに機体を振りそうになったが撃破判定を食らっているのを思い出した。

 カービンを掴んでハッチの外に飛び出す。籠城していても携行型HEATでハッチをぶち抜かれるか、破孔から手榴弾を投げ込まれてミンチになるのが関の山だ。

 機体の頭部の影に隠れて胴体と砲架の隙間からこっそり脚の上に降りる。機体を座らせておいてよかった。立たせたままだったらリアルに命の危険があった。

 どうせ撃破されているのだから機体の処分を省略して一人で逃げてもいいだろう。

 と思ったのも束の間、相手は私の足音に気づいてワイヤーでひょいと地面に降りてきた。

「大人しく降参しろ柏木軍曹。砲兵科の人間が勝てる相手じゃないぞ」それはストラウス大尉だった。一人だけのようだ。

「それならそれで、演習なんだ、試してみるのも悪くない」

 私はカービンのハンドガードを持ってストックで殴りかかる。

 ストラウスはそれをいとも簡単に掴み、両手でテコを使って私の手から引き剥がす。

 私は彼の右肘を引いて脚で肩を固めながら横回転にねじ伏せる。

 ストラウスは地面に転がった状態で私の膝の間に左腕を差し込んで寝技を解く。

 立ち上がりざまに私の片足を掴んで引き寄せ、体が伸び切ったところに膝蹴りを叩き込む。そのまま体重をかけて倒れ込んだ。

 私はちょうど臍の上でストラウスの全体重、重力加速度、膝の皿の圧力を受け止めることになった。膝が内蔵という内蔵を押し潰しながら背中の方へ食い込んでいく。そのまま背骨の裏側まで到達したんじゃないかというイメージだった。

 私は意図せず呻いた。腹から押し出された空気が声になっただけだった。

 私派のわけのわからないまま地面を転がり回っていた。咳とえづきが一緒に漏れ出し、口の端から涎が垂れていた。どれも自分の意思ではどうしようもなかった。

 そうか、どうやらこれが痛みというものらしい。次第に感覚が戻り、痛みもまた私自身のものになっていった。

「おい、悪かったな。最後のはさすがに決めすぎた」ストラウスは謝っているらしかった。

「平気だ。しばらくじっとしていればなんとかなる」

 ストラウスは銃を置いて私の様子を見ていた。

「もしもし、早死に女王さん?」賀西の声が無線で呼びかける。「柏木?」

「はい」私は答えた。耳にインカムをつけているので降車しても無線は通じている。

「大丈夫? すごい声だけど」

「はい」

「きみはもう撃破されてるから、これはメタ的な頼みなんだけど、敵方の通信を拾って動きを記録しといてくれよ。あとで役に立つからさ」

「はい」

 動ける程度まで痛みが引いてくる。私は口の周りを拭いて機体の後ろに回る。

「何をするつもりだ?」ストラウスが訊いた。

「観戦。死んで暇しててもつまりませんからね」喋るとまだ横隔膜がきりきり傷んだ。

「それだけ動けるなら俺はもう行くぞ」

「そうしてください」

 私はコクピットに入って投影器のケーブルを首に挿す。演習ログを確認。私の撃破のあと特に展開はない。息をついて鳩尾をさする。演習ネットワーク経由でストラウスの部隊のデータリンクにアクセスする。歩兵の位置を青いブリップで地図上にプロット。歩兵たちはデータリンクに対応したセンサーで敵ユニットを捉えていないのでこちらの動きはわからない。こちらのデータリンクの情報をオーバーレイ。それでやっと戦場の全体が見えてくる。

 歩兵たちはほとんど道には出てこない。建物の中を動き回っている。当然乗り物も使わない。

「静か」檜佐が言った。

「ああ。何か昨日と違う」と松浦。「昨日は柏木もあんなに早死しなかった」

 歩兵たちは彼らの近くにいる。だがライフルやロケットによる直接攻撃は決してしない。自分の位置を暴露することになるからだ。赤外線センサーに探知されないところまで建物の奥に潜り込み、マーリファインが完全に通り過ぎたところで行動を始める。

 そしてマーリファインが通った道に地雷や仕掛け爆弾を設置する。それらはバリケードや建物の陰、地面の中に巧みに隠されていて、よく見ても判別するのは難しい。非金属製のものは磁場で感知できないし、金属製でも車の中とか金属製のものに隠されていたらわからない。さっき私が引っかかったのはそのせいだ。

「フォックス、12ラインのKL間にチーズケーキ、Lの出口にクラッカー」ストラウスが指示を出している。「デルタ、3Qのクラッカーを4Oの南に移動」

 ケーキとかクラッカーというのは地雷とか爆弾の隠語だろう。彼らは完全な待ち伏せをやっているのだ。デルタチーム五人は路地を一本南に渡り、その反対の出口に陣を移す。檜佐機が恐竜のように姿勢を低くして窓を覗き込みながら進んでくる。しかしせいぜい三階まで。一階の壁や柱の裏に潜んでいるデルタチームを捉えることはできない。

 デルタチームは檜佐機を見送ってから路地の入り口にM18対人地雷を仕掛ける。中に鉄球と爆薬が詰め込まれていて、AFV(装甲戦闘車両)に対する威力はほとんどないがマーリファインなら脚に当たれば擱座させられるくらいの効果はある。

 街の端まで偵察を終えた檜佐機が同じルートで戻ってくる。ルートを変えると偵察に対して相手がどう動くのかが見極めにくい。だからまずは同じルートを使う。

 檜佐は対人地雷に気づいて足を止め、迷って立ち止まるのは危ないと思ったらしく、一つ左の通りに入った。

 だがその脇には仕掛け爆弾――というよりM136無反動砲が仕掛けられている。デルタチームの次の手だった。

 ビル一階の軒から飛び出した弾頭は檜佐機の腰部装甲に反応して一段目のHEATを起爆、追加装甲を破ったのち、二段目を起爆して右脚の付け根から反対の油圧タンクまでを綺麗に貫通した、という演算。

 行動不能判定。だがまだ砲塔は動く。檜佐は機体を座らせながら12.7ミリで発射地点を撃つ。

 だがそこにデルタチームはいない。あるのは弾頭を撃ち出して用済みになった発射筒だけ、強いて言えばあとは遠隔操作用のワイヤーだけだ。デルタチームは発射筒をいい角度で固定し、その引き金に巻き付けたワイヤーを遠くからから引いたのだ。

 すぐさま背後から他の一人がM72対戦車ロケットを撃つ。これは手持ちで直接照準している。動かない目標ならは外しようがない。そのためにまず足を潰したのだ。

「ごめん、私もやられた」檜佐機の撃破ログが並ぶ。

 結局無事にスタート地点まで戻れたのは松浦機だけだった。

 一機で車列を先導する。ルートは松浦が偵察で通った道筋そのまま、街の南側だ。

 ストラウスが指示を飛ばす。歩兵たちは松浦の偵察ルートを囲むように再布陣する。

 その過程で一瞬でも松浦機の視界に捕まった者は機銃掃射を浴びる。

 負傷、行動不能のログが並ぶ。

 賀西が指示を出す。「セクション3からルートBからH、4はHからG」

 車列は偵察ルートを逸れて北へ進路を変える。一度北へ、再度転進して中央に抜けるルートになる。

 ストラウスも歩兵を北へ動かす。「ゴルフ、ホーテルは配置そのまま、ブロック一つ北に移れ。フォックスは6ライン、デルタ、エコーは4ライン、ブラボー、チャーリーは5ライン、アルファは6Qに移動する。インディア、ジュリエットは負傷者の搬送を優先しろ」

 車列はトラップを見破るためにスピードを抑えて、出してせいぜい時速二十キロ。加えてバリケードに塞がれている道は通れないから、建物の中だって通り抜けられることを考えれば徒歩だって十分追いつける。

「焦るなよ。焦れば必ず罠にかかる」賀西が念押ししている。

 松浦は見つけた張り線を機銃で狙い撃ち、怪しい地面を三十五ミリで掘り返す。ログには無力化の表示が増えていく。

 しかしその間にも先回りした歩兵たちがせっせと新しい仕掛けを用意している。建物の間にテグスを張り、壁に地雷を貼り付け、バリケードの中に爆弾を設置する。

 ストラウスはアルファチームを引き連れて幹線に近い交差点6Qに入り、車の残骸を動かして道を塞ぐ。

 そして車列は歩兵の各チームが用意したトラップによって6Qに誘い込まれる。十字路だが南北と東の道はバリケードで塞がれている。

「正面、急いで設置したんでしょう、かなり薄そうだ」松浦が言った。

「動かせそうか」と賀西。

「おそらく」

 セダンならせいぜい三トンくらいだろうから十トンのマーリファインでも上手く力をかければ動かせる。蹴り飛ばせば道を開けられる。

 松浦は道を横になって塞いでいるGMのバンとシボレーのセダンに三十五

ミリを撃ち込む。セダンの中で仕掛け爆弾が爆発する。なんの用心もなく触れていたら松浦はの

 だがまだ賀西は選択を迫られている。6Qがトラップなのは間違いない。だがストラウスが狙っているのはバリケードの突破なのか、それとも引き返すことなのか。

「全車止まれ。引き返そう。左手の路地をクリアリングするから、牽引車は台車を切り離して転回」

 パジェロから賀西が降りてブロックの角に張り付く。暗い路地の中に小銃を向ける。

 誰もいない。

 路地の入り口に仕掛けがないかぐるりと見回してパジェロに戻る。

 今まで走ってきた道もトラックが切り返せるほどの幅はない。マーリファインの台車を切り離した牽引車が一台ずつ路地に尻を突っ込んで向きを変える。台車は装填手が人力で回す。最後に支援班のトラックが転回するまで松浦機は6Qに照準を向けている。

 実際のところ賀西の判断は初手としては正解だった。ストラウスはセダンの下に対戦車地雷を仕掛けていた。シャーシと信管をワイヤーで結びつけておいてセダンを動かせばもれなく起爆する仕掛けだった。

 だが転回に時間をかけすぎたかもしれない。歩兵たちは車列のいるブロックを囲むように布陣して動きを止めていた。

 車列は走り出す。

「さっき左折してきた交差点を直進、次を左、大通りに出る」と賀西。

 ストラウスは「エコー、ホーテル、敵が来たらNライン、Oラインのビルをやれ。上手くやれよ」

 エコーチームとホーテルチームはともに車列が引き返してくる通りと幹線をつなぐ道沿いに潜んでいる。

 松浦機がNラインに入って幹線のクリアリングに入ろうとした時、通りの東側のビルの下で一斉にC4爆薬が爆発した。リモコン爆弾だった。

 松浦機はバックステップ。

 そこで演習判定ユニットがタイムをかけた。共通周波数で呼びかける。

「タイム、タイム。全員そのまま。そこから動くな。今の爆発はシステムでは演算できない。よって解説しなければならない。歩兵チームが仕掛けた炸薬はビルの柱をへし折るのに十分な分量だった。また設置方法を見てもビルの倒壊を企図したのは明らかだろう。そこで松浦曹長、君は今後ろに避けたな?」

「はい」

「それだとおそらく崩落に巻き込まれている。前に出ていれば間に合ったかもしれないが」

「見えないものを避けろと言われても難しいな」

「八十トンの瓦礫から抜け出すパワーがマーリファインにあるか?」

「いいや。ない」

「よろしい。では君のユニットは戦闘不能だ。では続けてくれ。時よ動け。動け、動け」

 そして車列だけが取り残される。進路の前方は閉ざされているし、もう一つ手前の道から幹線へ抜けるにしても転回するスペースはない。バック出でるなら牽引車の台車は放棄すべきだろう

「いや、全員降車しよう。トラックで遮蔽を組んで後方を正面にする。背後の心配はしなくていい。あれだけ激しく崩れたということにしたんだ。実際越えられる崩れ方でもそこは控えるだろう」

 各車盾になるようにできるだけステアリングを切って止める。全員小銃を取って車両の陰に身を隠す。タイヤの裏に這いつくばり、あるいはキャビンと荷台の隙間に銃身を差し込む。

 ストラウスは路地の角、正面のビルの各階に歩兵を配置してようやく銃撃を始める。「チャーリーからジュリエットはそのまま敵の射撃を引きつけろ。アルファとブラボーは右側面に回り込む」

 ストラウスは十人ほど引き連れてみちの東側のビルに登り、無防備な上面を狙う。この別働隊がベランダなり屋上から一斉に撃ち始めると肢闘隊の被害が一気に増加した。

 これに合わせて正面を押さえていた部隊が一斉になだれ込む。

「やめ、やめ。変に抵抗するんじゃないよ。演習だってほんとに殴られるかもしれないんだから」

 そう言いながら銃を手放した賀西も兵士二人ほどにぐにゃりと組み伏せられた。

 葛西は別に勝機を見て下車戦闘を命じたわけじゃない。こういう特殊な演習でもなければ生粋の歩兵部隊とガチンコでやりあう機会なんてないから、せっかくだと思ったのだろう。

 肢闘の被撃破三、死傷十、戦死二、捕虜十一。全滅だった。対して歩兵側は負傷八名で戦死はなかった。


 この演習でわかったことはいろいろある。歩兵は撃たない方が厄介だということ。よく考えられた機動的な爆弾運用は肢闘であっても回避が容易ではないこと。装輪車両を随伴させると肢闘の機動力は著しく低下するということ。エトセトラ。肢闘であってもトラップ除去と足元の視界確保のために歩兵を随伴したいところだが、足並みが揃わないし、マーリファインの装甲では敵弾に対する遮蔽の役割を果たさない。要は市街戦は肢闘隊の出る幕ではないというデブリーフィングの結論だった。みんなして歩兵の強さにぶるぶる震えながら賀西を囲んで話を聞いていた。

 

「我々の戦い方は昨日とかなり違っただろう?」その夜のバーでストラウスが訊いた。

「妙に静かでしたね。最後のあの銃撃戦、昨日は始終あんな感じでドンパチしてたが」

「昨日のはゲリラの戦い方だが、今日のは歩兵の戦い方だった」

「非正規軍と正規軍」

「そう。つまりそれは戦術および連携の違いだ。我々は本来昨日のような無謀な戦い方は取らない」

「でしょうね。いわゆる演技だ。装甲を持たない歩兵が最も避けなければならないのは敵に位置を晒すことで、その攻撃は常に奇襲性のようなものを含むことによって効果を生み出す」

「その通り」

「いい勉強になった、とうちの中隊長が言っている」

「我々も名誉挽回のいい機会をもらった。そちらは意気消沈しているかもしれないがな」

「うん。マーリファインで街に入るべきじゃないって全員言ってます」

「純粋な兵器としての性格もそうだが、運用方法も市街戦には合わないのだろうな。ピジョンホーラーが車輌としての性格を残しているのはそこだよ」

 「それは我々も思いました。ピジョンホーラーはまずトランスポーターを必要としない。砲塔の幅と奥行きが入る路地ならものの数秒で牽引車を転回できるのと同じことだし、あえて他のユニットを守る必要もないから行動の制約も受けない。第二に姿勢を低くすればIFV(歩兵戦闘車)並みの装甲をもって歩兵を守ることができる。歩兵ならくぐれるがIFVでは突破できないバリケードもピジョンホーラーなら踏み越えることができる。行動の制約が少ない」

「問題は値段だな。コストが高いんだ。現状、ピジョンホーラーもまだ完全に支援車両なしで行動できるわけじゃない。もっと数を揃えて同じプラットフォームで回収車や補給車が出てくれば意味が出てくるし、歩兵もありがたいんだが、そこは装輪車のカテゴリに完全に収まっているわけではないゆえの難しさか」

「ああ、そうか、ピジョンホーラーは歩兵装備なんだ」

「いまさらだな。そうさ、砲兵のマーリファインとは兵科からして違うんだ」

 誰かが入り口の方からストラウスを呼んだ。

「じゃあ、これからは味方として頼むよ」彼は肩を叩いて去っていった。

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