第5話 相沢さんの話

―相沢美幸の歴史―


「社員逝去の報告です。〇✕課の山崎裕貴さんが昨日、自宅で心不全の為に亡くなりました」


 山崎くんが亡くなった。どうやら過度なストレスが原因ではないかという事で、会社に調査が入った。

 ここの会社は、社員証をスキャンした時刻を記録している。山崎くんはほぼ毎日定時で帰っていたし、時々仕事帰りに仲の良い子とカフェなんかに寄っていたらしい。

 彼は仕事ではそこそこ結果を出していたし、誰ともトラブルを抱えていなかったので、会社が原因では無いと判断された。


 山崎くんのお通夜に行った。

 山崎くんのご両親が、疲弊した様子だった。母親が、泣いていた。

 父親は、涙をこらえているのだろう。目が赤い。

 山崎くんのお姉さんたちは、泣いていた。

 会社の同僚も、泣いていた。私も泣いていた。


 私は哀しくて泣いているんじゃない。悔しいのだ。

 気づいていたのに。山崎くんの苦しみに。山崎くん本人から話を聞いたのに、どうする事も出来なかった。


 山崎くん、貴方が亡くなって、たくさんの人が泣いています。

 貴方は自殺ではない、私には解る。

 貴方は本当に、過度のストレスを抱えていた。病は気から、貴方の強大なストレスは、体の機能に異常を与えた。


 それなのに、貴方は「妄想のペースは今までの半分だよ」などと云っていた。

 私には「大丈夫だよ」と云っているように聞こえた。けれども全然、大丈夫ではなかったのだ。

 辛い時は辛いって、認めてあげなくちゃ、感情の行き場が無くなってしまう。


 どうして、どうして。

 貴方が木魚にしていた貴方の父親は、貴方の死を心底哀しんでいます。

 本職の方が、木魚を叩いています。会場内には、木魚の音が鳴り響いています。

 これで、望み通りですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

負の連鎖(ポップ編) 青山えむ @seenaemu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ