等価交換肢
西藤有染
彼女の話
――等価交換肢って知ってる?
そう聞いてきた彼女は、3股を掛けられていた彼氏と別れたばかりであった。その彼氏と言うのが、非常に質の悪い男で、女性を抱ける財布と本気で思っているような男だった。顔の良さに物を言わせて女を取っ替え引っ替えしている、という話は非常に有名だった。そんな男と彼女が付き合うと聞いた時は、真っ先に反対した。しかし、彼女は聞く耳を持たなかった。
「彼は心を入れ替えたの。私以外の女はもう見ないって言ってくれたのよ」
そんな話をした2ヶ月後、彼女の貯金残高が底をついた事を切っ掛けに、男の方から別れ話を切り出されたと聞いた時は笑うしか無かった。
そうして捨てられた事を恨んだ彼女が口にした言葉が、「等価交換肢」だった。
等価交換肢。現代日本における、メジャーな都市伝説の1つだ。そのサイトにアクセスして、呪いたい相手と呪いの内容を口にすると、自分の何かを代償に、呪いを実行してくれる。色々なパターンがあるが、大まかに言えばそう言った内容だった。
はっきり言って、眉唾物の話だと思っていた。合理的で論理的かつ科学的な現代社会において、呪いなどと言う非科学的な物が、インターネットという科学の産物を通して実行されるなんて、馬鹿げているにも程がある。
1度友人とネットで検索してみた時も、検索一覧に表示されるのは、等価交換肢の考察サイトや真偽の不確かな体験談ばかりで、本物のサイトはどこにも見当たらなかった。呪いたい対象がいなければ、そのサイトにアクセスする事は出来ない、という話もあったが、そんな話が事実な訳が無い。そう思っていた。
だから、彼女が「等価交換肢のサイトを見つけた」と言った時も、偽物のサイトと勘違いしているだけだと思った。「これであいつに恨みを晴らしてやるんだ」と言う言葉に対して、それで恨みが晴れるといいな、なんて無責任な言葉まで掛けた。
その次の日、あの男の乗っていたエレベーターが落下し、彼女の家にはトラックが突っ込んだ。2人とも、病院に運ばれる間もなく亡くなったらしい。
突如流れた、全く無関係に見える2つの事故死のニュースに、何故か等価交換肢が関係している様に思えた。その存在に対して懐疑的だったにも関わらず、そう思ってしまった。等価交換という言葉と、あの男を殺したい程に憎んでいた彼女の死は、どうしても切って離せないように思えたのだ。
だから、その夜、何となく「等価交換肢」とネットで検索した。本当に彼女が、等価交換肢のサイトを見つけたのか知りたかった。
検索ボタンをクリックすると、一瞬で何千というサイトの候補が表示される。そこに出てくるのは、以前検索した時と同じ、有象無象の偽サイトや考察サイト。
やはり、彼女の死は全く関係無い事故だったのだ。そう思った矢先、1つの検索候補が目に入った。
「等価交換肢」
URLも、サイトの内容も表示されていないそれは、ともすれば見逃してしまいそうな物であった。だが、だからこそ、それが本物なのだと直感で理解できた。
本当に呪いのサイトが実在する事を理解すると、同時に、別の感情が沸いてきた。そのサイトに対する怒りだった。
こんなサイトが存在するから、彼女は亡くなってしまったんだ。これが無ければ、彼女が死ぬ事は無かった。こんなサイトなぞ、無くなってしまえば良い。そうだ、これが本当に呪いのサイトなら、その呪いで等価交換肢を無くしてしまおう。
そう考えて、そのリンクをクリックした。一瞬の間の後で、ページが表示される。真っ白なページに表れた文字は、
「良い子は帰ってねんねしな」
神か、悪魔か、はたまた人間か。どんな存在によってこのサイトが作られたのかは分からないが、そいつはきっと酷く性格が悪い奴だろう。いつの日か、そいつを見つけ出して必ず呪ってやる。そう心に誓った。
等価交換肢 西藤有染 @Argentina_saito
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