翌朝

「ふあ~あ」

「おっきな欠伸だねぇ。ルカちゃん」

 朝、地下鉄にはすでに多くの人が来ていた。

 会社や学校に行く為、あるいはあたしみたいに帰る為に。

「はひ…。さすがに徹夜はこたえます」

 職場から上がってきて、給湯室から出たら、中年の駅員がすでに来ていた。

 コーヒーをもらい、地下鉄の駅が開く準備を、部屋の隅で見ていた。

 この光景は結構好き。

 若い駅員の人は、外の方の準備に出ていた。

「ははっ。…どうだった?」

「まあとりあえずは…。もうしばらくは続くそうですけど」

「そうだね。ここらは特に、霧が濃いから」

「…慣れてますね」

「だてに二十年以上もここにいないよ」

 にっこり微笑み、あたしにサンドイッチとおにぎりを渡してくれた。

 どちらもコンビニのものだ。

「あっ、どうも」

「これを食べて、今日はゆっくり休むといい。まだバイトは続くんだからね」

 あたしは笑みで返し、部屋から出て行った。

 そして電車に乗り、目的地で降りた。

 ここから歩いて十分もしないところに、あたしの借りているマンションがある。

「けど、霧がスゴイなぁ…」

 早朝だからかもしれないけど、3メートル先が見えにくいぐらい濃い。

 それに少し肌寒い気もする。

 あたしは歩き出した。

 早くもらったサンドイッチとおにぎりを食べて、眠りたかった。

 けれどあったかい飲み物も欲しくなって、コンビニに入った。

 そしてコーンポタージュとココアの缶を持って、レジに並ぶ。

 そこでふと、朝刊の見出しが目に映った。

 けれどすぐに順番が来て、あたしは会計を済ませ、コンビニを出た。


 ―朝刊の見出しはこうだった。


 このところ、変質者の出現で世間は騒いでいた。

 霧の深い夜、突然カミソリで切りつけてくるという。

 そして2・3回切りつけた後、笑いながらその場を後にする。

 警察は捜索していたが、それでも犯人は見つからず、人々はおびえていた。

 新聞では新たな被害者が出たと書かれていた。

 けれどもう―次は出ない。


「やれやれ…。早く霧がはれないかなぁ」

 霧に息を吐きかけながら、あたしはマンションに向かって歩いた。



【終わり】

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地下鉄【マカシリーズ・3】 hosimure @hosimure

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