クリスマス
クリスマスの夜。私はどうしたものかと頭を抱えていた。
時は遡ること一週間前。私の彼氏である五紀から連絡が入った。内容はというと…。
『クリスマス、覚悟しとけよ?』
とのことだった…。
なに?なにがあるって言うの!?私はすでに用意していたプレゼントをラッピングしてる途中だったから、手元が狂って何回もやり直すことになってしまった。それに、五紀は自分が監督を務める映画の撮影で忙しくて聞くこともできない…。一応撮影自体は今日で終わりらしいけど…。
「五紀、遅いな…。」
送られて来たメッセージをもう一度見る。そこには『すまん、トラブった!遅くなる!』と書かれていた。五紀が映画を撮るときは、いつもなんだかんだトラブルが起きる。みんなそうなんだろうけど…。
でも、家に一人でいるのが耐えられなくて、私は待ち合わせ場所で待っている。雪も降り始めた…。これは、ちょっときついな…。
「寒い…。」
「そりゃ、こんな時間まで待ってるからだバカ!」
俯いて呟くと、乱暴な言葉に、心配を添えた声がした。直後、あったかいものが頭に乗せられる。
パッと顔を上げると、『心配でたまらない』という顔で五紀が立ってた。
「五紀…。」
「家に寄る前に『もしかして』と思って来てみたら、ホントにいるからびっくりしたぞ。ほら、これであったまりな。」
頭の上でペットボトルを受け取る。私の好きなメーカーのココアだ…。
「ありがと…ヘックチ!」
「ああもう、身体冷え切ってるし…って俺のせいだな。ごめんな。」
「ううん、お仕事、お疲れ様。」
笑顔で言うと、五紀は少し笑った。
「ありがと。…今日さ、いいレストランのディナー取ってあるんだ。まだ間に合うから行こうぜ。」
「わあ!特別な日みたい!楽しみ!!」
私がそう言うと五紀は笑って「『みたい』じゃなくて『特別な日』なんだよ。」と言った。
レストランについて、席に案内される。コースはもともと五紀が予約してくれたので、最初に飲み物の注文になった。私たちはお酒は飲めないからノンアルコールカクテルを頼んだ。
「こういう所で食事するの初めてで、なんか緊張する…。」
「そうだな…少し背伸びしすぎたかも…。」
五紀も初めてなんだ…。
そんな感じで始まったディナーは、どれもおいしくて、二人で話しながらのんびり食べた。五紀は、昔の話や、映画部の話なんかもして、懐かしかった。
そして、デザートも食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいる時だった。
「俺たち、付き合い始めてもう何年だっけ?」
「ん?確か、高一の時からだから…六年くらい?」
「そっか、もうそんなになるんだな…。」
五紀はそう言って俯く。少し不安げに揺れてるのは気のせいかな?
「ゆずり。」
顔を上げると、その不安は全くない、覚悟を決めた時の目をしていた。
「これからも、今日みたいに待たせることがあるかもしれないけど…でも、俺はずっと譲りの隣にいたい…だから…。」
そこまで言うと、五紀は小さな箱を私に差し出す。ゆっくりと開かれたその中には宝石を乗せた指輪が一つ。私は息をのんだ。
「俺と、結婚してください…!」
その一言で、私は涙を流した。ずっと、私の欲しかった言葉。ずっと夢見た光景が、目の前に広がっていた。
「…こんな私でよければ…喜んで…。」
泣きながらそう言うと、五紀は「ありがとう」と言って、私の指にリングを通した。
季節もの 雪野 ゆずり @yuzuri
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