季節もの
雪野 ゆずり
バレンタイン
2月、みんなが少し浮つく季節。それは私、雪野ゆずりも例外などなくて・・・
「純恋~!」
そう言ってお友達のさくらちゃんが抱きついてくる。学校終わりの放課後、隣のクラスの三波さくらちゃんは、いつもこの時間には私のクラスに来て、一緒に帰る。
「さくらちゃん、お疲れ様〜。」
「お疲れさま〜!」
さくらちゃんの笑顔を見るとその日の疲れが吹き飛ぶ。でも、さくらちゃんだけじゃなくて、
「お、三波来たか。そいじゃ純恋、また明日な!」
そう言うのは前の席の涼宮夏目くん。私の、好きな人。
「う、うん、またね、夏目くん。」
「おう!」
爽やかにそう言って行ってしまう。夏目くんはとっても人気もので、いつも端っこにいる私なんかには手が届かない存在。なのに、前の席だからかいつも話しかけてくれる。
「ああ、やっぱり夏目っていいよね〜」
「え、あ、う、うん!いいよね、うん。」
考え事してる時にさくらちゃんがそう言うからすごく焦ってしまう。うう、さくらちゃん、私が夏目くん好きなの知ってるくせに・・・。
「あはは、冗談冗談!純恋、夏目見る目が乙女だよね〜、ほんと!」
「そ、そうかな?でも、今の冗談は笑えないよ〜!」
「そう?」
「だって、みんな夏目くんの事好きでしょ?そう思ってる人も多いよ〜!」
「ふむ、そうか・・・」
そう、夏目くんはみんなの人気者。みんな好きに決まってる。
「でも、今年告白するんでしょ?」
「う、うん・・・。」
そう、今年のバレンタイン、私は一世一代の告白をする。
「どんなチョコにするか、もう決めたの?」
「う〜んと、夏目くんケーキが好きって聞いたからガトーショコラにしようかなって・・・。」
「お、いいじゃん!ね、私も一緒に作っていい?」
「も、もちろん!!あ、じゃあ、私の家で作る?」
「え!?いいの!?やった!!じゃあ、材料買いに行こう!!」
そう言って私達はいざデパートへ!美味しいガトーショコラ作って告白するぞ!
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
「はああああああああああああああああああああ」
俺、涼宮夏目はものすごいため息を吐いていた。バレンタインもあと2日となり、クラスのリア充どもは浮き足だっている。それなのに俺は、好きな人からチョコをもらう可能性はとてつもなく低い。席が前後ろというのもあって毎日話してるけど、もらえるかどうか・・・。
「どうしたどうした夏目!ものすごいため息吐いて!さては俺と同じなやみだな!」
そう言ってまるで「同志を見つけた!」と言わんばかりに来たのは秋野楓だった。だがしかし、俺はやつの同志ではない。なぜなら、
「お前は絶対もらえる相手がいるだろ。」
そう、こいつには三波さくらという、絶対に渡してくれる相手がいる。
「いやいや、お前だっているだろ。」
「いや、純恋がくれるとは思えない。」
「いや〜、絶対脈ありだって!それに加えて俺は・・・。」
「お前こそ脈ありだろ。」
そんな事を言い合うと、お互いにため息が出てくる。たしかに、悩みは二人とも同じのようだ。
「もらえるかな・・・」
「お互い、もらえるように願っとこうぜ・・・。」
そう言いながら、俺達は帰るのだった・・・。
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
そしてバレンタイン当日。私は昨日さくらちゃんと作ったガトーショコラを鞄の中に入れて夏目くんと二人きりになるのを待った。今日は、さくらちゃんも渡す相手がいるから一緒に帰れないということだった。きっと秋野くんに渡すんだろうな。
そうこうしてるうちにお昼休みに・・・。どうしよう。ぜんっぜん渡すタイミングがない。
でもこのままじゃいけない!そう思って思い切って声をかけてみた。
「あ、あの、夏目くん!」
「ん?何?」
夏目くんは普通に振り返ると首を傾げた。ああ、どうしよう。変なフィルターかかっちゃう!
「あ、あの、放課後、ちょっと残ってくれない?」
「うん、いいぞ。」
サラっと言うと夏目くんは「じゃ、放課後な。」と言って教室を出た。私はと言うと腰が抜けて動けなかった。
結局、その後の授業はまともに覚えてない・・・。
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マジカマジカマジカマジカマジカマジカマジカ!
「マジカ!!」
「うるさい!!」
つい叫んでしまったのに対し、楓にそう怒られてしまった。因みに周りには誰にもいない屋上なので問題ない。
「だって、純恋から・・・」
「そりゃ何回も聞いた!」
そりゃそうだ。何回も言ってるんだから。でも、マジカとしか言いようがない。なぜならこれは一大フラグだからだ。
「まあ、言いたい気持ちもわかる。実は俺も同じことを言われたからな。」
「マジカ!ヤッタじゃん!」
そうやって喜びを噛み締めてるけど放課後はまだまだ先だ。
「ああ、早く放課後になんねーかなー!!」
因みにもちろん、午後の授業なんて頭に入ってこないわけだ。
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そして放課後。渡す前にさくらちゃんと会っていた。
「さあ、純恋。お互い渡すよ!」
「う、うん!頑張ろうね!」
そう言って頷くと私たちはお互い、決戦の地へと足を動かした。
ああ、どうしよう。
扉を開ければ、夏目くんが一人でいる。早く入らなきゃ。そして、伝えなきゃ。私の気持ち。そう思って、私は扉を開けた。
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あれから、俺達の関係は変わった。その関係は、5年たった今も変わらない。いや、今から変わるんだ。
5年前純恋がくれたチョコレートを、指輪に変えて・・・
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