第27話 自動TRPG!?(後編)

「……1日目は何事もなく進むことができました。ここで野営を行います。食料を消費することで生命力と活力を最大値の半分回復することができます。小数点以下は切り捨てです。現在は全く消耗していませんが、食料を消費しないと次の日のダイスロールにペナルティーを受けます。食料を消費しますか? また、特定のキャラクターだけ消費させることもできます」


 説明が長いなぁ……。


「もちろん、食べるぞ」


「……食料を消費し、睡眠を取りました。朝になりましたので出発します。魔王軍の奇襲です」


「いよいよ戦闘か」


 コンピューターRPGと違い、TRPGにおいて戦闘はあまり発生しない。

 理由は、ものすごく手間が掛かるからである。


「……スカウトの〈危機探知〉のスキルがありますので、ダイスロールの結果が3以上で成功です」


 ダイスロールの結果は9だった。


「……成功です。〈危機探知〉のスキルに超成功クリティカルはありません。残念でした」


 こんなところで運を使わなくても……。

 まぁ、コントロールできないから“運”なのだが。


「まぁ、良しとしよう」


「……敵はオークが5体です。続いて、知識判定です。スカウトには〈魔物の知識〉のスキルがあります。ダイスロールの結果が1以上で成功です」


「ずいぶん、成功率が高いなぁ」


「……オークはこの世界でメジャーなモンスターなんです」


 ダイスロールの結果は2だった。


「……結構、危なかったですね。オークソルジャーに関する情報を開示します」


 タブレットでオークの情報が見れるようになった。


「オークソルジャー……生命力51、膂力12、俊敏性10、精神力5、武器攻撃力8か……」


 ちなみに敵に活力は設定されていない。行動は予め設定された条件で決定される。

 例えば、“生命力が半分以下になった後の最初の行動だけ”のようになっているのだ。

 ちなみに、今回戦うオークソルジャーには特殊な行動は存在しない。


「……先頭のオークが言いました。『オマエタチ、ダイダロス、トオサナイ』さらに別のオークが言いました。『オウジョ、カエサナイ』」


「つまり、王女はダイダロス監獄にいるということか……」


「さりげなく情報を開示するシナリオテクニックですね」


「……では、行動の順番を決めてもらいます」


 合計9回のダイスロールを経て、この戦闘における行動順序が決定した。

 敵の一体がまさかのクリティカルでスカウトである僕より先に行動することに。


「……オーク5、ハルくん、オーク1、イリスさん、オーク2、イフリータさん、オーク4、オーク3、セシリアさんの順番で行動します。まずはオーク5がハルくんを攻撃します。ハルくんはどう対応しますか?」


「もちろん回避するぞ」


 攻撃された時、“防御”か“回避”を選べるが、生命力が低く、俊敏さが高いスカウトは回避する方が有利だ。

 ちなみに、9の場合はクリティカルでノーダメージの上カウンターアタックができる。


「……3以上で回避が成功します」


 ダイスロールの結果はちょうど3。


「ふぅ……ぎりちょんだぜ」


「……成功です。次はハルくんの行動です」


 僕が選んだスカウトの仕事は戦闘開始前にほぼ終了している。

 あとはできるだけ“回避盾”になることだ。

 だけど、一応攻撃もできる以上、どうするべきか考えなくてはいけない。


「敵モンスターに差がない以上、とりあえず、一番遅いやつを攻撃するべきだな。オーク3を攻撃!」


「……それでは、ダイスロールをしてください」


 ダイスロールの結果は3。


「微妙だな」


「オーク3に21のダメージ。オーク3はまだ倒れません。オーク1はやはりハルくんを狙ってきます」


「当然、回避だ」


「……3以上で回避が成功します」


 ダイスロールの結果は7。


「ケッ、ザコがぁああああっ!」


「ハルトがイキっています」


「……回避成功。続いてイリスさんの行動です」


「オーク3を攻撃します」


 オーク3の生命力は残り30。

 つまり、6以上の目が出れば倒せる。

 ダイスロールの結果は7。


「はい、いっちょ上がりですね!」


「……オーク3は倒されました。なんと彼は1度も行動することなく倒されてしまったのです!」


「まぁ、それ狙ったのだけどね」


「……では、気を取り直してオーク2の攻撃。やはり、ハルくんを狙ってきます」


「回避一択」


 ダイスロールの結果は2。


「……回避失敗です。ハルくんに20のダメージ、これは痛い。残り生命力は12です。次の方、どうぞ」


「やばすぎる。回復させてくれ」


「ははは、我に掛かればオークなんぞ一撃で消し炭にしてくれるわ! 〈火焔球ファイアボール〉!」


 ダメだ……イフリータに回復は望めない!

 しかし、魔術攻撃は活力を消費する代わりに大きなダメージが望める。

 運命のダイスロールの結果は9!


「……オーク4に51のダメージ、ちょうど一撃で倒せました」


「主殿に買ってもらった杖のおかげだぞ!」


「まさか、そこまでは予想していなかったぞ……」


「……次は、酔っぱらいのセシリアさんの行動ですね。わたしの代わりにダイスロールしてください」


「よし、やるぞ……」


 自分が回復してもらうためには、少なくとも行動可能でなければならない。

 しかし、運命のダイスロールの結果は0!


「……行動不能ですね」


「うそーん」


 僕たちの戦いはこれからだ!


    *


 そんなこんなで、開始から1時間掛けて、ついにダイダロス監獄の獄長、〈ダーク・ニコラス〉との戦いまで辿り着いたのだった――。


「ちょっと待て、〈ダーク・ニコラス〉ってなんだよ?」


「……せっかくなのでクリスマスっぽさを演出して見ました」


「おお、これがネット上で有名な“サンタ狩り”ですね」


「まぁ、“サンタ”って“聖人”って意味なんだけどな……」


「お、ハルトは生意気にもネットに直結したAIに対して知識マウンティングですか? さすが陰キャですね!」


「うるせぇ! 知識マウンティングはオタクの様式美だ!」


「サンタクロースは4世紀頃のローマ帝国いた“ミラのニコラオス”という人物に期限があるされ――」


「不自然すぎる。あと、AIに知識マウンティング権はない」


「ぐぬぬぬ……」


「……ゲームを進めます」


 そして激闘の末、僕たちは徐々に追い詰められていく。

 敵も消耗しているかもしれないが、〈魔物の知識〉スキルに耐性を持っており、生命力は不明である。


「……ダーク・ニコラスは『ホーホーホー、なかなか素早い奴だな……。はああ~~ダイダロス獄長ダーク・ニコラスの真の姿を見るがいい』と言いました。ダーク・ニコラスはスキル〈烈風殺〉を使います。この技は必中であり、“回避”をすることができません」


「嘘やん!」


 ここで必中の技を使ってくるとか鬼だな。


「……GMであるわたしが言っているのだから本当なのです。信じなさい。トラスト・ミー。さぁ、全員で防御のダイスロールをしてください。これが最後のダイスロールになるかもしれないですね……うふふふふ」


「しかも、全体攻撃かよ! 言い方としては最大限に信用できないが、GMが言うのだからそうなんだろう。このゲームの中ではな! 仕方ない……やるぞ、運命のダイスロール!」


 そして、セシリア以外は生命力が尽きた。


「……続いてセシリアさんの行動です。わたしの代わりにダイスロールをしてください」


 ダイスロールの結果は2! とりあえず、行動できる。

 しかし、活力が尽きているので魔術は使えない。


「とりあえず、最後の生命のポーションでイリスを復活させろ!」


「……嫌どす。セシリアさんはダーク・ニコラス攻撃します。それではダイスロールしてください」


「は?」


 仕方ない。とりあえずダイスを振る。

 結果は1だった。攻撃自体はできるがかなり最悪に近い出目だ。


「……ダーク・ニコラスは倒れました。ボス戦勝利ボーナスで全回復です」


「なるほど、GMだからほぼ確実に倒せることを知っていたのか……」


「ですけど、GMとしてそれはどうなんですかねぇ?」


「……貧弱な魔術師の直接攻撃で勝利ってものすごくロマンチックじゃないですか?」


 シノブはなんかそれっぽいことを言った。


「まぁ、そういうことにしておくか……」


「……みなさんは次々と敵を撃破しながら監獄の中を進みます。ついにアリア王女が囚われている牢に到着しました」


「なんか省略していないか?」


「たぶんしていますね」


 まぁ、GMの判断でシナリオを短縮するというのもTRPGにありがちなことだが……。


「……続けます。骸骨剣士が王女の首に剣を突き付けています」


「なるほど、これをどうやって助けるか、ということだな?」


「アンデッドなぞ我の炎で浄化してくれるわ!」


「……アリア王女は〈亡者天還ターンアンデッド〉のスキルを使い骸骨剣士を倒しました」


「あ?」


「え?」


「は?」


 シノブを除いた全員が経絡秘孔を突かれたような素っ頓狂な声を上げた。


「……以上、シナリオ『囚われた王女を救え!』を終了します。お疲れさまでした」


「ま、まぁ、時間的にもこんなもんでよかったんじゃないかなぁ?」


「そ、そうですね!」


「う、うむ。我も楽しめたぞ」


「……それはよかったです」


 シノブは涼しい表情でそう言った。


 確かにオチには呆気にとられたが、中々白熱したし、シノブは良いGMなのかもしれない。


「ところでハルト、去年のアレに比べたらずいぶんマシなクリスマスになりましたね」


「ああ。アレはアレで悪くなかったけどね」


 古のアニメオタクはああやって画面の前にクリスマス料理を“お供え”していたんだなぁ。


「どういう感性しているのですか?」


 そう問われたので、イリスを指差して――。


「こういう感性」


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自作カノジョ ~僕が育てたAIが一番カワイイ~ 森野コウイチ @koichiworks

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