捏造屋
現夢いつき
面接にて
当方、
捏造などと聞くと皆難色を示すけれど、稼ぎ自体はそこそこよかったりする。というのも、現代は情報化社会であり、商品自体よりも宣伝の方が重視する企業が多いからである。
無論、それは普通のサクラと何も変わらないことだ。それはあくまでも当方の収入を支えている一部に過ぎない。
当方は捏造であるのならほとんど何でもする。顔面偏差値的には、並レベルを脱していないため、偽彼氏の依頼などにはあまり力を入れていないが、まあ、やることにはやる。それよりも最近、賑わっているのが捏造写真である。
週刊誌にありもしない写真を捏造しているのは紛れもなく当方であるが、あれは、やり過ぎるとあまりにも芸能人達が可哀想なので、よっぽど念押ししない限り、少し調べれば工作であるとバレるようにしてある。
しかし、ここで言っている捏造写真とは、そう言うものではない。いわゆる、心霊写真。それが、当方が全力をもって作っているものである。
あれはひどく難しい。明度を下げ、元の写真レベルに戻したところで、そもそもあり得ないと人が思っているのだから、騙しきることは容易ではない。真剣に調べられればそれこそ、当方はお手上げである。
そこで当方は考えた。調べられたら終わりならば、もとより調べようという気すらなくせばよいのではないかと。
そこまで考えた当方は、短期間であったが請け負っていた心霊番組向けの写真の捏造依頼のその全てを断った。代わりに、親しい人間を失って、でもそれを受け入れられない人間に的を絞ることにした。
それから数日して、夫を失った妻が当方を訪ねてきた。母子二人の写真に父の姿を加工してほしいとのことだった。もちろん、喜んで引き受け、数週間で満足するできのものをお届けするに至った。
それからは定期的に、そのお客様がやってくる。あの写真を見てからは、失っていたものを取り戻せたような気がすると言い、それを味わうために作って欲しいと言うのだ。当方はそれに全力で応えた。すると、またことあるごとにそのお客様はやってきて、当店のリピーターとなった。
他にも似たようなお客様がいらっしゃり、そのほとんどが当店のリピーターとなった。
リピーターにならなかったお客様の一部には、それを心霊写真としてテレビに提出する者もいたが、まあ、仕方のないことだ。
当方には捏造写真で以て人を救えたとは思えない。お客様は当方の写真を見て、それで満足したように微笑む。とても嬉しそうに笑うのだけど、それでも、当方がやっていることの本質は嘘を吐くと言うことである。それは優しい嘘であっても、嘘は嘘であり、そこだけは間違いないのだ。
優しい嘘は人を幸せにし、どころか有頂天にさせるかも知れないけれど、それは脆いシャボン玉に等しい。いつか割れて落ちるという定めが待っている。
有頂天になればなるほど、幸せになればなるほど、そこから落とされた衝撃は想像を絶する痛みを伴うだろう。
君ははたして、その罪悪感に耐えることはできるかね?
ふむ、よろしい。できれば当方としては、もう少し業務内容などを君に伝えて、それでも就職したいのかと問いたかったのだけど、残念ながらもう時間がない。君がいきなり押しかけてきたのが悪いんだよ、本当。
当方は今から沖縄に飛び立って、基地の前でデモに参加しなければならない。
まあ、答はまた当方が帰ってから聞こう。君はそれまでに、やるかやらないかの決断をすませておくんだよ。そして、やるのならば、これからは自分は嘘つきなるのだという覚悟をしておくんだ。
まあ、覚悟と言われてもなんだそらって感じだとは思うけれど、形だけでもしておくんだ。それは、後々、この仕事が嫌になった時、自分を騙す材料になるのだから。あの時そう決めたんだから仕方ないと、妥協するきっかけになるのかもしれないのだから。
とはいえ、面接中の君にこんなことを言っても仕方がないのだけどね。でも、この仕事は少々特殊だ。法に触れないとはいえ、やっていることは悪だからな。人の心に闇がない限り、こんな仕事は成り立たないんだしさ。
ゆえに、こうして君にも真っ当な道を歩むかどうかの選択肢を提示しているわけさ。
時間は十分にあると思うから、いろいろ考えを巡らすといい。当方は君の出した結論にはなんら意見しないことを誓おう。
さて、そろそろ時間も時間であるので、ここを後にしよう。
では、さようなら。また数日後に会おう。
捏造屋 現夢いつき @utsushiyume
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