第3話

下駄箱へ続く階段を降りている途中で

ゆきはあることを思い出した




「あっそういえば借りてる本返さなきゃ…」




この間図書館に行ったのは結構前であったから下手をすれば2週間の返却期限を過ぎてしまっているかもしれない





1階にある下駄箱をスルーして

その先にある図書館へと向かう





戸を開けると皆部活やら帰宅やらな

時間帯ということもあってか

室内にほとんど人影らしきものは

見受けられずしんと静まり返っていた




受付のブースに座っている

委員らしき生徒に借りていた本を渡す



ヒヤヒヤしたものであるが

幸い残り2日ほど返却期限日は

残っていたようだ




ふぅ…さぁ今度こそ帰ろうかな



出口へ続く通路を進もうとしたとき

その時ふと入口付近に展示されていた図書館の委員オススメ!のコーナーが

目に入った




そこには各図書委員が勧める

様々な作品が1冊か2冊ごと実際の本と共に

掲示されており、一緒にちょっとした

紹介文も載せられていた




本か…私こういうのって普段ほとんど

読まないんだよなぁ




近代小説、伝記、中には子供向けの絵本といった一風変わったものを勧めている者もいたがあまり読書が好きではないゆきにとっては

そこに置かれている本のタイトルは

ちっともピンとこない




図書委員って普段あまり目立たない役職だけどこう見ると結構人数いるんだな…





それぞれの本と紹介文には

各委員の名前と小さい顔写真も

添付されていた




ゆきはその画質の粗い写真のラインナップを

何となくボーッと見ていたが…




順々に見ていった途中でピタッと目が止まる




え、これって…





見覚えのある無表情の顔、3文字のシンプルな名前




「うそ、西くんて図書委員だったの…」



そこには西隼人、という名前と

クラスで見たままの彼の写真が

貼られていたのだ




思わず声に出してしまってから

ハッと辺りを急いで伺う





幸いゆきの近くには誰もおらず

入口のカウンターで黙々と作業をしている

委員にも彼女の声は届いていなかったようだ




これを発見した時点で

正直、彼女はかなり興奮していた



うそ、西くんて委員とか何にも

やってないイメージを勝手に持ってたけど…


いや、でもそうか。確かに

本好きそうだったもんな…



彼の書いた紹介文、そして

勧めている本にちらと視線を落とす




『深海魚図鑑』




それはとても分厚く

表紙には口を大きく開けた

迫力のある魚の絵が印刷されている

図鑑だった




少し手で持ってみる

ズシッという図鑑特有の

独特な重さが紙を通じてゆきの

手に伝わってきた




パラパラとページをめくると

まず目次、から深海に生息する

魚の写真がとても色鮮やかに

印刷されている




西くんて魚が好きなのかな…



他にも彼と同じような

図鑑をおすすめ図書に選んでいる者も何人かいたが、正直文庫本を普段から

教室で読んでいることの多い彼にしては

とても意外なチョイスだとゆきは思った




これに対しての紹介文、

なんて書いたんだろ



本の上に名前と共に掲示されている

紹介文は皆それぞれ委員自身の手書きであり、彼の字はとても細かく繊細で

視力がそこまで良くないゆきにとっては

少し目を細めなければ見えないほどであった




「光の当たらない普通の世界とは違う隔離された場所に凄んでいる彼らに興味をもち、また非常に自分とも似通っている点があると感じた」





そこには短くそう書かれていた




自分と似通っている点がある…?



それってもしかして

自分はクラスで若干他の人とは

違うポジションにいるってことを

自身でも自覚してるってことなのかな…?






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深海魚 ぱすこ @p_ss025

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