第2話

どうしよう…早く本人に言って

机の下にある消しゴムを取らせてもらわなきゃ




ゆきは悶々とひとり頭の中で

この考えをループさせていたが

気が付くとこの日の授業はすべて終わり

放課後になってしまっていた




帰りのHRが終わり、生徒達が

ゾロゾロと周りの友達と話をしながら

教室を出ていく



この中の大半はこれから部活動や

委員会が待っているのだが

ゆきは特にこれといって何の部活にも

所属していなかった



はぁ…放課後になっちゃった

ついに言い出せなかったなぁ



あれから何回か休み時間などに

話しかけるタイミングはあったのだが

どうにもやはり緊張してしまって

上手く立ち回ることができなかったのだ



しかも、よりによって今日は

教室掃除がない日…



ゆきの通っている高校は週に一回

毎日行っている教室の掃除が

ない日がある



机とかを移動させれば自ずと

消しゴムも取れるかな、と思ったん

だけど…ちぇ



まだ教室は相変わらずザワザワしている

チラッと後ろを振り返ると

彼はこの後に及んでまだ自身の

席に座っていた



しかし今度はどうやら文庫本では

ないらしい。何やらノートのような

物にせっせと文字を綴っていた



はぁ…どうやら今日はもう

無理みたい。何だか大分気疲れしたし

もうさっさと帰っちゃおうかな



ガタッと机から立ち上がる



カバンを肩にかけ教室から

出ようとしたとき最後にチラと

窓側の席に目線を走らせるとー



バチッ



一瞬。本当に一瞬だった

今まで何回そちらを見ても

視線が交わることのなかった

西隼人と目が合ったのだ




思いがけぬ衝撃のあまりバッと

目を逸らしてしまう



頬に熱を感じそそくさと

その場から歩き去る




やば…見てたの、気付かれたかな




早足で廊下を歩きながら

若干の恥ずかしさを覚える



しかしそれと同時に

ゆきは自分の心の中に何か言葉では

言い表すことのできない

漠然とした感情を抱いていた



西くん…初めて目が合ったな



髪の毛が目に被さっていてその表情は

よく見えなかったけれど…

何だか不思議な顔をしてた



ほとんど無表情、その顔に

笑みもなければあまり正気も感じられな

かったけれど何だか…




何だか、嬉しかった

彼に私の存在を認めてもらえた

気がしたのだ



明日は、ちゃんと勇気を出して

言おう。もしかしたら流石に

本人ももう気付いているかもしれないし…




廊下で窓にもたれかかり何やら

騒いでいる集団を尻目にしながら

横を通り過ぎる



しかし曲がり角に差し掛かったとき

何やら気になるワードがゆきの耳に

入ってきた



「やばいよな、2組の西ってやつ」




ピタッと足が止まる



今、西って言った…?



続きを耳を立てて聞こうとしたが

周りの喧騒もあってか全く

話が入ってこない




学校を出てから家までの帰り道、

ゆきは1人でこのようなことを

考えていた



やっぱりアレだけ大人しいと

他のクラスの人たちからも

話題に上がったりするのかな…



中学のときもクラスの中で1人

とても静かな女子がいた。その子は

休み時間もずっと1人静かに本を読んでいて…お昼も確か誰かのグループに

入ることもなくぽつんと独りでいたっけ



そのときもクラスの中では

彼女のことを変に面白がって

からかったりする集団がいた



今回もやはりそういう感じなのかな…



ゆきは少し不安にも感じたが

いや、ただ単に自分が聞き違えただけかも

しれないし普通に彼と友達で世間話を

していただけかも…



そうだよ。あまり一人で勝手に

詮索するのはよくない







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